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カフェオレ  作者: ヤマト〆
第2章 共に
6/19

その街の少女は

__朝、白いカーテンから出る木漏れ日がアレンの睡眠を妨げだ。


アレンは薄く目を開けて、ボーッと天井を眺める。


夜が明けて、空は雲もなく晴れ渡り、アレンの心とは正反対の空模様だ。


アレンはソッと手前の黒いカーテンを横に引っ張り日を遮り、またボヤけた瞳で前を見つめる。


昨日は疲れ果てて、直ぐに宿を取り眠ってしまった。


あの時の光景が夢では無いと、宿のベットがそう主張してる気がする。


「はぁ…これからどうすっかな」


やる事はあるが、いまいち行動に移せない。それが何故なのかもよく分からない。


ただ、やる気が出ず、日の差し込まない部屋で一人ベットに佇んでいた。


そんな時でもお腹は減り、アレンは取り敢えず外に出てみる事にした。


この街の名はアールライト。商業が盛んな街でいつも人と商売人が行き交う騒音が絶えない街だ。


門扉を抜けるとまず噴水がありそこから三つの分かれ道がある。一つはギルドへと続く道。


後のもう二つは商売人が輸送に使っている馬車や龍車などの通り道、通称馬車道。


なので一般の人は噴水近くの商店街や住宅街、真っ直ぐ行ったギルドを主に利用している。


アレンは今噴水近くをふらふら歩いている。


以前はあまり気にしたこと無かったが、皆の顔は生き生きとしている気がする。


何だかこの街で一人取り残されているような気がして、アレンは露店の商売人に声をかける事も出来ずただとぼとぼ歩いていた。


その時、人集りが出来ているのを見つけた。


それは馬車道の方角で、人がわらわらと上を見上げている。


「…何だ?」


アレンは何となく気になり、その人集りの手前で上を見上げた。


商店街の馬車道の両脇にはビルが多い。その一番高いだろうビルの屋上に、何やら人らしき影があるのが見える。


「あれは…自殺でもするつもりなのかねぇ?」


「…は?」


人集りからそんな声がして、アレンは思い切り憤った。黒い靄が、体全体に行き渡る。


「ふざけてんじゃねぇぞ!!人が…人が自殺しようとしてんのに、何で見上げたまんまなんだよ!」


思わず声が荒ぶった。だが、それじゃ終わらない。


「所詮赤の他人だからって見捨てんのか!!そうやって!見て見ぬ振りを…」

「うるさいなそこの若者。黙れ」


言葉をへし折って、誰かがアレンの前に立ちはだかった。


「私の領土であまり騒ぐな。愚弄が」


紫色の髪型に、やや釣り目な目尻。そしてまん丸い眉毛。何だか変な奴だ。


「あぁ?何だよ、何なんだよお前は!!変な眉毛しやがって!!」


「変な眉毛…私はこの街の頂点に立つ者、テレナ=アルビシアだが?」


「テレナ=アルビシア…?」


アレンはその名前に聞き覚えがある。その時、人集りがざわつき始める。


「アルビシア家の一人娘だ…」


「あぁ…ここの財閥の…」


ヒソヒソと、聞こえるように喋る人集りからの声に、テレナは眉を顰めた。


「見世物じゃ無い。散れ」


その言葉に、人集りは散り散りに辺りに消えていった。


「お前に構ってる暇は無い。俺はあの子を助けに行く」


「あぁ。好きにしろ。だが、その前にあのビルは破壊するが」


平坦に、テレナは言った。


「はぁ!?な、何でだよ!?もしかするとビルの屋上に閉じ込められてるかもしれないんだぞ!?」


「知らん。けれど、“自殺しそうになったビル”等、即撤去だ。残して置いても恥になるだけだ」


テレナはそう言いながら、爪を弄っている。丁寧に塗られたマニキュアが、気になるらしい。


それが、アレンの怒りを最高潮に達する最後の一押しとなった。


ズカズカとテレナの前に立ったアレンは、無造作にテレナの胸ぐらを両手でグッと上に持ち上げた。


「な、何を!?」


「命、舐めんなよ」


そっからアレンは無我夢中で走り始めた。横から突っ走ってくる馬車に等目もくれず、反対側のビルへとひたすら走った。


ビルを壊す前に助け出す。


アレンの頭にはこれしか無かった。それに彼女にも言いたいことはある。


ビルを駆け上り、駆け上り、駆け上り、ようやく後少しの所で、それは訪れる。


ドガガガガガ!!!!


「うお!?」


急な足元の揺れに、アレンは転がり落ちそうな自分を守るため階段にしがみつく。


そして冷静に考えてみて、これはもうこのビルの崩壊への序章なのだと気づく。


(早く…助けにいかねーと!!)


アレンはガタガタと揺れる足元をこの際無視して、力の限り踏ん張りを効かせながら地面を猛ダッシュする事にした。


「うおおぉ!!!」


ガラガラガラと、上からは瓦礫が、下からは崩壊がサンドウィッチのように挟みかけてくる中、ようやく屋上のドアらしきものを発見した。


間に合う__と直感し、ドアに手をかけると、それはビクともしない。


鍵が掛かってる訳では無いが、揺れのせいで建てつけに変化が生じて開かなくなってしまったと考えて良いだろう。


焦ったアレンは何度も前後にガチャガチャやるが、一向に開く気配はない。


「くっそ!!こんな所で…こんな所で!!!」


その時ふとある考えが頭を過ぎった。


出来るか、と考えている暇はない。


「おおらぁぁぁ!!!」


アレンは頭に勢いをつけ、そのままドアに付いた窓をぶち破った。


アレンはそのまま血を頭から噴き出しながらも、その窓に滑るように入っていった。


「え…?」


微かに女性の声が聞こえて、アレンは顔を上げた。


桜色のボブカットヘアーの少女。紫紺の瞳。その瞳は今戸惑っている。


悲しいのか嬉しいのか寂しいのか、よく分からない表情をしていて、アレンは一瞬足が止まる。


刹那__屋上に亀裂が走り、それは音を立てて崩れ落ちた。


ふわりとした浮遊感がアレンを襲う中、彼は彼女に手を伸ばした。


「捕まれ!!」


「…うん!!」


その少女は一瞬戸惑いを見せた後、アレンの手を強く握り締めた。温かい。アレンはそんな事を思った。


(ぜってぇ助ける!!)


瓦礫と共に空に放り出されながら、アレンはその少女を抱き抱える。


「命…捨てんなよ」


「……」


彼女の答えは無い。そんな事は今どうでもいい。


けれど__彼女は薄く微笑んだ。そんな気がした。


(あの力…あの力を!!)


マユミを殺されてしまった後の自分、虚ろではあるが覚えはある。


簡単に言えば体から力が溢れる感じだ。


(守りたい…この子を…)


もう、すぐ地面。



「守れぇぇぇ!!!!!!!!」


ザザァ!!!!




鳥の羽ばたく音と共に、アレンは何やら浮遊感を得ているのが分かった。


「…は?」


一瞬、目を瞑ってしまったので、理解が追いつかないのだが、今アレンは崩れていくビルを上から見下ろす状態になっている。


しかも小柄な少女を抱きかかえながら。


そーっと、アレンは自分の後ろ側を見てみる。


両方の肩甲骨から伸びる白い羽。


アレンの両肩甲骨から現れたそれは__翼だった。


白く神々しい程のそれは、圧倒的な存在感を持ってバサバサと上下に動いている。


これはアレンが決して動かそうと思って動かしている訳ではない。勝手に動いているのだ。


「どうなってんのこれ…?」


思わず苦笑いしか出てこない。


「おい、あれは何だ!?」


「人間じゃないぞ!?」


その時、下の方からガヤガヤとアレンを指差して不思議そうな表情を浮かべていることに気づき、アレンは不味いと感じた。


こんな所で降りれば人集りに捕まってそれこそ質問攻めされるに違い無い。


アレンは取り敢えず遠くに移動しようと考えた。


その瞬間、その翼は思考を読み取っているのか、勝手に動き始める。


「ほぇー便利だな」


取り敢えず感心しつつも、ゆったりと動いていた。


すると、その人集りはアレンを追いかけるように動き始めていく。


「やっべ…もっと速く!!」


するとその翼は上下の運動を速め、次第に加速し始める。


そして、ようやく落ち着けそうな場所に辿り着いた。


それは少し中心部から離れた街郊外の公園だ。そこに人がいないのを確認して、アレンは地面に降り立った。


するとその翼はフワリと消えた。


そこに感動しつつも、アレンは先程から一切喋らない少女をゆっくりとベンチに座らせた。


よく見ると、気を失っているのかもしれない。


「おーい!!大丈夫か?」


軽く肩を揺すってみる。歳は自分と同じくらいだろう。


その位の歳の子との接点が全く無いのでアレンは緊張しながら声をかける。


「う…ん?」


するとその少女は目を覚ました。どうやら本当に気を失っていたらしい。


という事は、翼も見られてないので、変な質問も無いだろう。


アレンは少しホッとした。


「何で助けたんですか?全く知らないのに」


それも束の間、少女の口から出た皮肉にアレンは複雑な気分になる。


「私は死にたかった。死んでも良かったのに。どうして…?どうして助けたのよ!?」


この少女の憤った口調は、アレン自身に半分、彼女自身にも半分言っているように聞こえた。


「生きる理由も無い私には…逃げてきた私には生きる価値なんて無いのに!!」


胸にしまいこんでいた思いを、彼女はただ叫んでいた。その顔は、後悔しているようだ。


そんな少女にアレンは一言言いたかった。


「なぁ…もし仮に死ぬならさ、命欲しい奴にあげてから死ねよな。勿体ねぇだろ、それ」


死なせるつもりは無いが、もしそれを本当に望むなら、これが最善だとアレンは思う。


「……」


その少女はキョトンとした顔でアレンを見つめる。


そんな答えが返ってくるとは思わなかった表情だ。


「ぷっ…あははははは!!!」


そして彼女は笑う。お腹を抑えながら、口を大きく開けながら笑う。


「何よそれ!!命あげてからって、命あげた時点でもう死んでるじゃんそれ!!おもしろーい!!あはははは!!」


「いや、これ真面目に言った言葉なんだけど!?」


こんな大笑いされると何だか段々恥ずかしくなってくる。アレンは顔を赤らめて目線を泳がせる。


「ねぇ、貴方の名前は?」


「あぁ…えっと、アレン=アウストラだよ」


「そう。私はステラ=カリヴァル。これから宜しくね、アレン」


ステラと名乗るその少女は、握手を求めて手を前に差し出す。


「あぁ、宜しく…ってうん?」


握手をしながら、アレンは不可思議なステラの言葉を思い出す。


「宜しく…?」


「うん。だって、私今住むところも頼る人も誰も居ないの。だからこれから宜しくね?」


「え…えぇぇぇ!!??」


こうして、ステラが仲間になった。






その時、木の影からそっと二人の怪しげな影が見えたのは、二人は知る由も無い。


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