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カフェオレ  作者: ヤマト〆
第1章 旅立ち
2/19

悪辣に

ちょいグロです

マユミは今、とある所にいる。


その表情は、今まで孤児院の子供達に見せた事のない程凍りついている。


「何事も無く終わる訳無いわ…」


独りそう呟いてマユミは何かを取り出した。その表情はもう、決心のついた顔だ。


マユミはそれを背中に背負うと、孤児院の外に出た。


丁度木の柵を挟んだ向かい側、そこには黒装束を羽織った顔の見えない何かが居た。


マユミは背に背負ったそれを取り出し、右手に持つ。


細長い柄に刃渡り30センチメートル程の刃が先についた通称薙刀。


「おいおい、何やらいきなり物騒なの出すなぁ」


やけに甲高い声、悪辣をいっぱいに含んだその声にマユミは眉を釣り上げる。


「その声…あの時の…」


「はは、覚えてたのかよ。もう何年も前だぜ?」


黒装束のフードを脱ぎ、彼は姿を現した。


紅葉を思い浮かべる赤と黄の長髪。鷹のように鋭い目付き。ギザギザと鋭い歯。


「まあ、お互い名前は知らねぇな」


「何しに来たの…?」


少したじろぎ気味のマユミに、彼はニヒルに笑う。


「ぶっ壊しにきた。ここの孤児院と、お前と…あの黒髪の男をだ」


やっぱり、とマユミは思った。


彼がここに来る理由などそれしか無い。


「それにしてもよく気付いたな。気配は消したつもりなんだが」


「貴方は何も知らなくていいわ。それより、帰ってくれない?貴方が趣味でここに来たのなら」


「しゅみぃ???何を言ってやがる!ここに来たのは冥王ハデス様の命だ。逆らうものなら殺す。まあ、殺す為にここに来たんだけどな!ヒヒ!」


冥王ハデス、ここでは聞き慣れない言葉だ。


「そう…なら貴方が死になさい!!」


マユミは薙刀を両手で持ち、駆け出した。木の柵を足で蹴り上げ上から刃を振り下ろす。


だが、それはガキン、という金属音と共に防がれてしまう。


「そう簡単に死ねっかよ」


男が装束の中から出てきたのはまるで揺らめいているような形をしたギザギザの剣。あまり見ない形容にマユミは訝しげる。


「あぁこいつか?こいつはフランベルジェっつったかな。こいつで肉を削ぐのは気持ちいいぜ?ヒヒ」


「生憎そんな趣味はないから共感はしないわよ」


マユミは手を止めず右に左にと連撃を加えていく。


数々の金属音が鳴り響くが、彼にダメージはない。


それどころか、恐れていたことが起きた。


「マユミさーん…?何か凄い音が…」


ソッと戸から覗く子供達。先程ここに来る時にあれほど注意したというのに、やはり子供の好奇心には勝てなかったらしい。


「来ちゃダメ!!」


マユミはキッと後ろを向き、子供達を睨み付けた。


そして、意識がそっちに向いたその好機を、彼は逃す筈が無かった。


目にも止まらぬ早さでマユミの片腕を斬りあげ、それは後ろに飛んだ。


血飛沫が飛び散り、彼の顔にかかる。


「馬鹿な奴だ。戦いで意識を逸らすなんてなぁ。ヒヒ、まあこれでもうお前は…」

「何をやってるの!?早く中に入ってなさい!!二度と戸を開けちゃダメよ!!」


それでもマユミは額に汗を流し、残った左手で右肩の切り口を抑えつけながら、後ろから未だ顔を覗かせていた子供達に喝を入れる。


子供達は恐怖とマユミが見せた初めての猛烈な怒りに首を竦ませ、半泣きになりながらも戸をパタリと閉めた。


「あーあどうせ殺されるってのによぉ。つーかあっちの心配じゃなくててめぇの自身の心配はしなくていいのかぁ?あぁ?」


無視されている男は額にピクピクと青筋を立ててマユミを睨む。


だが、マユミはそれを静かに見据えて言った。


「…問題ないわ。貴方を殺す算段はもう着いたもの」


「あぁ!?何を言って…」


刹那__マユミの後方に飛んだ片腕が神々しい程の光を放ち、男の目を眩ます。


「な…!!しかも、これは…」


「使羅と、言いたいんでしょ?」


マユミは薄く笑い、残った左腕に白いオーラのようなものを纏わせる。


「これで終わりよ」


その腕は一直線に男の心臓部分目掛けて空を切る。だが、これで終わる男ではなかった。


「舐めるなぁ!!!!くそがぁぁぁぁ!!!!」


咆哮と共にマユミの手が何かに弾かれ狙いが逸れて、男の肩口に突き刺さり、血飛沫が舞う。


男は苦痛に顔を歪めながら、傷口を手で覆う。それを見てマユミは小さく舌打ちをする。


「尻尾で防ぐなんてね…やるわね」


どうやら弾いたのはこの小さな鞭のような尻尾のようだ。真っ黒いそれは用が済んだのかヘタリと地面にへばりついている。


「うがぁぁぁぁ!!!ちくしょうがぁぁ!!」


未だ男は傷口を抑えているが、致命傷までには届いていない。もうこれで打つ手無し。万事休すだ。


「おいてめぇ、何でここで使羅が使える!?答えろ!!」


「貴方に言う事なんて何もないわ。さっさと殺しなさい。でも、孤児院にいる子供達は殺さないで欲しいの。お願い」


「そんな馬鹿な話通るわけ…」


「__お願い」


真っ直ぐな紫紺の瞳が、男を貫いて離さない。この瞳は前も一度見た事がある。


「あーぁ、もう全部どうでもいいな。お前が使羅が使えるとか孤児院の子供とかあの餓鬼とか…もうめんどくせぇや」


「なら…!!」


ここにきて見えた光の道筋。マユミはこれにどれだけ縋る思いだっただろう。


けれど、現実は残酷で悲惨で無法で極悪だった。


「一つ言ってやろうか?俺は一言も一人で来た何て言ってねぇよ。これが全てだ」


その言葉に、マユミはハッと目を見開いた。そしてゆっくりと孤児院の方を向く。


最初に目に映ったのは血だ。窓に張り付いた鮮やかな、まるで絵の具のような赤い血。


それが、今見える四つの窓全てにこびり付いていた。


そしてその事態を呑み込んでいる最中、ゆっくりと戸が開き、中からもう一人の黒装束の何かが出てきた。


その黒装束は最早“黒”ではない。完全に紅く染まっている。


「兄貴ぃ〜あの黒髪の餓鬼でしたっけ?いませんよここに?」


「何だと…?」


紅く濡れた黒装束の男の言葉に、男はマユミを睨む。マユミはもう戦意喪失のようで、声も出さずただ俯いている。


けれどおとこは気にせず言った。


「おい、あの黒髪の男はどこだ?」


「……」


返答はない。恐らく言う気は無いのだろう。


「そうか。なら…」


男は持っていた刀を振り上げた。


その時、


「貴方の…貴方の名前は何ですか?」


急な問いかけに男はピタリと刃を止めた。


「…俺の名前はホークだ。祟る相手の名前が分かって満足か?まあ、悪魔に祟るなんて聞いたこともねぇけどな」


その男ホークは、そう言って刃を振り下ろした。


だがそれも寸での所で止まる羽目になる。


何故なら、



「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」



今にも泣きそうなその少年(ヒーロー)が戻ってきたからだ。






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