その魔女は
アレンが扉を潜り抜け外に出ると、最初に見えたのは陽の光だった。
ぽっかりと浮かぶ太陽。それは雲一つない空で一人光で何かを主張しているかの如く輝いている。
アレンは眩しくて目を細めながら、ゆっくりと外を見渡す。その光景はとても異質なものだった。
「ほえぇ…」
アレン達は今、とても高い崖の上にいる。そこからこの世界が一望できる。まず、崖下に広がっているのは鬱蒼と生い茂った森だ。
そしてその森の点々とした場所から何やら柱のようなものが高低差をつけながらのびており、そこには小さいが集落のようなものがある。
「すっげぇ…ここがローランドか!!」
アレンは見渡しながら興奮していると、ステラが背後の扉から出てきた。少し嬉しそうな悲しそうな顔をしているのを見て、アレンは声を掛けるべきか迷った。
だが、カイルは見事にそれをぶち破った。
「おうステラ!どうよ?お前の故郷の光景は?何か覚えてるもんでもあるか?」
「え…う〜ん…無いかな…」
ステラは周りをキョロキョロ見渡した上で結論を出した。見ただけでは記憶を戻すことは出来ないらしい。
「そっか。まあ、なら仕方ない。こっからあの集落に顔を出すしかねぇな」
遠くに見える集落を見て、カイルはそう決断した。
「つーか、これどうやって彼処に行けば良いんだ?空でも飛べなきゃ無理そうだぞ?」
「取り敢えずこっから下の森に入ってみるのはどうだ?」
「いいな、それ」
ゼロの提案に、カイルは満面の笑みを零す。
「…なぁ、どうやって下に降りるんだ?」
カイルのこの笑みには秘策は有るのだろうが、嫌な気しかしない。
「そりゃもちろん…」
カイルは一旦言葉を止めて、屈伸すると__
「落ちるんだよ!!」
地面を蹴り上げ、宙に浮かんだ体は、なす術無く重力に従い崖下に落ちていく。
「へ…?」
「うそ…!?」
アレンとステラが唖然としたその時__
「俺達も行くぞ」
体をポンと押され、アレンとステラも重力に従い、崖下へと真っ逆さまに落ちていく。
体が一気に浮遊感に包まれ、アレンとステラはどうすることも無く、地面へまっしぐらだ。
「「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」
二人は唐突な死への道に、叫ぶ事しかできない。
そんな泣きそうな二人を背後で見ていたゼロは、いつも通りの無表情だ。
「【突風】(ゼピューム)」
ゼロの小さな詠唱は大きな風を呼び、地面へと強く叩きつけられ、それは一気に跳ね返り、逆向きの風を呼び起こした。
今度は上向きの浮遊感に覆われ、一瞬空中で動きが止まる。だが、直ぐに落下する。
けれど、地面へは直ぐだったのであまり怪我も無く、尻を少し打ち付けた程度でアレンとステラは地面へと辿り着いた。
そのあと、ゼロはストンと綺麗に着地する。
「大丈夫かステラ?」
「うん…何とか」
「俺の心配は!?ていうかこうなるなら最初から言えよ!!死ぬかと思ったわ!!」
「サプライズだ」
「要らないわこんなサプライズ!!」
語尾に☆マークが付きそうなゼロの言い草に、アレンは泣きながらツッコむ。
「だらしがねー奴だなアレン。俺は普通に着地したぞ」
「それはそれで人なのか怪しくなるわ!!」
とまあこんなやり取りをしていると、近くの草木がガサガサと揺れた。
「お前達ここで何してる!?」
するとその草木の所から、黒い装束を身に纏った怪しい奴らが三人程出てきた。
「何だこの怪しい奴らは?」
「それはお前達だろう!!貴様ら魔女ではないな!?」
目に見える程の警戒心を孕んだ目は、四人を硬直させる。
けれどそれを素早く解き、前に出てきたのはカイルだ。
「そんな怖い顔すんなって。俺達はここを侵略しにきた訳じゃねぇんだからよ」
「うるさい!そんな話信じられるか!!とにかくお前達はここで確保し牢屋行きだ!!」
そう言って、黒装束達は一斉に此方へ向かってくる。
「うーん…まあ、それも有り」
「だな」
「「?」」
二人の頷きと二人の疑問。それを解決する暇も無く、四人は取り押さえられた。
だが__
「お、お前は…魔女か?」
「あ…はい…」
ステラは取り押さえられた黒装束の一人の質問に答え、釈放された。
「取り敢えずこの三人はこのまま牢屋へ連れて行く。お前はその娘を大婆様の元へ」
「分かった」
こうしてアレン、カイル、ゼロは牢屋へ。ステラは大婆様と呼ばれる人の元へそれぞれ運ばれた。
「なぁ…何でこいつら倒さねぇんだよカイル…!」
不服そうに手を後ろに回され手錠を掛けられているアレンは、同じ格好のカイルに問う。
だが、カイルはくっくっくっと笑うと、
「虎穴に入らずんば虎児を得ずって話だよ」
「おけつにはいらずば孤児追えず?何じゃそりゃ?」
「まあ、黙って付いて来い」
こうして三人が連れて行かれたのは、森奥深くにある洞穴だった。
全く先の見えないその暗闇に、黒装束達は躊躇も無く入っていった。
「ひぃぃ…!」
アレン達もその後ろに付いて中に入る。視界がどんどん暗闇に包まれていく。
そして足元を探りながら下に降りる階段を下りていく。コツコツと足音しか聞こえない時間が続く。
「着いたぞ。入れ」
黒い鉄格子を開けると、そこには薄暗い部屋が広がっていた。
左右には良く見るような牢屋があり、ベットしか付いていない。
そんな簡素な造りをぼーっと見ていると、
「何だこいつら?」
ここの看守らしき人物が奥からやってきた。黒の三角帽を被っていて、顔はよく見えない。
「あぁ…森にいたんだ。恐らく狩りに来たんだろ」
「そうか。良かった。被害も無く牢屋に入れられて」
そんな話が聞こえつつ、三人は牢屋の一部屋に押し込められた。
「続報を待つがいい。まあ、死刑だろうがな」
そう言い残し、黒装束達はこの部屋を出た。
「おいおいどうすんだよこれ…俺達ここで死んじまうのか!!」
アレンは外れない錠をガチャガチャしながら、ジタバタする。
「俺に策はある」
「へ…?ってあれ…?」
カイルを見た時、変な気がした。何かが違う雰囲気を醸し出している。
それはゼロも同じだった。
(何だ…?)
アレンが首を傾げていると__
「すいません!ちょっと良いですか看守さん?」
「えぇ…!?」
カイルがいきなり看守を呼び出した。看守は何事かと此方へと足を運ぶ。
「どうした?」
「すいません。俺…魔女なんです!」
「何…!?」
「そうなのか!?」
カイルの言葉に驚いたのは、看守とアレンだ。
「嘘かどうかは目を見れば分かる。目を良く見せろ」
「はい!」
そう言ってカイルは目を開けて瞳を看守に見せた。
「紫紺の瞳だ…本当にお前は魔女なのか?なら何故さっき捕まえられた?理由を話せ」
「はい。先ず森に入った時、黒装束達に捕まえられたのは、気が動転してたからだと思います。多分__魔女狩りによるものかと。
そして余り確認も取らず捕まってしまい、俺と横にいる銀髪ゼロは、このような形になりました。そしてもう一つ重要なことがあります」
カイルは一拍置いて話した。
「後ろにいる黒髪のアレンという人間で、魔女狩りに関わっています。そして大変大きな力を持っています。三人でいたのは俺達を捕まえてこようとしたのです」
「あの黒髪が魔女狩りだと!?余りそうは見えなかったが…」
「しかもかなり上の役職についてます。関わらない方がいいかと。取り敢えず大婆様の指示を仰いだ方が良いかと」
「そ、そうか…分かった。取り敢えずここを開けてお前達二人を解放しよう」
看守は驚きながらも鍵を開けて、二人を開放した。
「お前達二人を出してあいつは暴れないか?」
「あぁ大丈夫です。関わらない方が身の為ですよ」
「そう…か…?」
そう言った途端__看守はカクンと膝を曲げて地面に倒れかけた。けれどそれをゼロが支え、地面にゆっくりと寝かせた。
「俺って案外演技上手いんだよなぁ…」
「まあ、嬉々として人を騙す事は、そう出来る事じゃないな」
「あんまり褒められてねぇなおい」
「あのぉ…」
完全に置いてけぼりのアレン。
「おうアレン。お前はそこで少し留守番だ」
「へぇ…?」
「また後で助けにくる」
「ほぉ…?」
「じゃあな!」
「……はぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!???」
アレンの声は木霊して、この牢屋に響き渡った。
その声に耳も傾けず、カイルとゼロは颯爽と去って行った。
「何て奴らだ!!!!!」
信用する相手を間違えたと、嘆くアレンは一人__牢屋で打ちひしがれるのだった。




