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カフェオレ  作者: ヤマト〆
第1章 旅立ち
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物語は唐突に

朝、白いカーテンから筒抜けに日光が青年の顔に直撃し、彼は目を覚ます。


余りの眩しさに直ぐに片腕で日光を遮りながら彼は起き上がる。


ボッサボサの黒髪がまるでどこかに逃げ出そうかとしてる様にあちらこちらに跳ねている。


「ふあぁ…眠い…」


「起きろぉぉぉアレン!!」


いきなりドアが開けられたかと思うと、跳ね馬のように乱暴に床を走り、彼は黒髪の少年アレンに覆い被さった。


「ぐおぉぉ!!!この野郎ぉぉ!!人が眩い朝日で格好良く目覚めようとしていたのにぃぃ!!」


「うるせぇぇ!!今もう昼の十一時だぞ!さっさと起きて遊ぼうよ!!」


「おいソウスケ!昼の十一時何て言わねぇんだよ!朝の十一時だ!昼じゃない!だから俺はもう少し…」


「マユミさんが早く起きて来ないとベット無くすってさ」


「さー今日も張り切っていこうかソウスケ君」


すかさずベットから起き上がり、カーテンからの日光を背中で感じつつ支度を始める。


それに対しソウスケと呼ばれた少年は、絹のようにサラサラな癖のない茶髪を左右に振り回しながらやれやれと溜息を吐いた。


「それよりソウスケ、お前今日の分の宿題ちゃんと終わったか?」


「え、あ、う、うん!確か…漢字の宿題だったよね!?お、終わった終わった!!」


まだ声変わりもしてない声をひくつかせ、ソウスケは目を横に泳がせながら言った。


「嘘付くの下手くそか!しかも今日は漢字じゃなくて算数な!算数!」


「許して下さいアレン様ぁぁ!!何でもします!あ、足でも舐めましょうか?」


「一体何の影響受けてんだお前は!?怖えわ!」


「奴隷になるのがアレンにとっては一番いいかと…」


「そんな奴隷なんて言葉覚えてる暇があったら基礎の勉強をせえーい!!」


と、朝から癇癪を起こしながらソウスケと二人で一階へと降りていく。


「ねぇそう言えば知ってるアレン?今日の天気は快晴なんだよ!」


「何だよ?雲の割合が一割以下だって言いたいのか?」


「ちぇ、つまんねぇー」


降りてる時にこんな会話があったのは、知らなくても良いことだ。



***



ここは児童養護施設アウストラ。もう少し分かりやすく言うなら孤児院と言われてる場所だ。


家庭の事情で身寄りの無くなった子供達を無償で預かり面倒を見る施設で、ここには総勢二十名程の子供達がいる。


ここに来る子供達の理由は様々で、少なからず皆心に傷を負っている。


そういう子供達を養い、育て上げているのがここの施設の敏腕ママ、マユミ=アークライトだ。


掃除洗濯は勿論、料理や着替えや裁縫等、数々の家事をこなしながら子供達の面倒を見ている凄い人だ。


そんな彼女マユミは、アレンとソウスケを見るとニコリと笑った。


「あら、やっと起きたのねアレン。もう少ししたら布団を剥ぎに行こうと思ってたのに」


「剥ぎにって…言い方おかしくないですかね?」


「あらそう?まあそれより、もうすぐ昼食が出来上がるから食堂で待ってて」


そういう訳で二人は食堂でマユミの食事を待つ事に。


この間に孤児院アウストラの間取りを説明しておこう。


ここアウストラは二階建ての建物で、大雑把に言えば一階は食堂と遊び場、二階はそれぞれの個室かあると思えばいい。


今はそれぞれの個室で大丈夫だが、近々二人部屋になる日もそう遠くはないだろう。



昼食後、この孤児院では勉強する時間に入る。


ここを出て行くとなった時の基礎知識、漢字や計算等の簡単な勉強を上の子が下に教えるという形になっている。


アレンはここで一番歳が上なので勿論下の子に勉強を教える事になっている。


今日教えるのはソウスケだ。


「さーて。計算ドリルをやってこなかったからな。ビシバシやってくから覚悟しろよ?」


「えーめんどくさぁい…だりぃ…まじうぜぇ…マユミさんがいいー」


「お前は思春期の女子か!!さっさと開け!!」


とまあこんな感じで教えていく訳であるが、教えるこっちの身にもなって欲しいものだ。


ソウスケも言っていたがマユミもこの勉強会に参加して子供達に教えている。教え方も定評があり、下の子はマユミの授業を受けたいが為に席を移動するやつもいる。


はてさて勉強会もひと段落した今日、アレンはボーッと外にある桜の木を見ていた。


この孤児院の外は、木の柵、桜の木といった順に囲い込むように建てられ、植えられている。


アレンはその木の柵に腰掛けながら桜の木を眺めていた。


ヒラヒラと落ちていく桜の花びらが鼻に乗る。


「ねぇ、アレン?少しいいかしら?」


後ろから声を掛けられ振り向くと、マユミがニコリと笑いながら立っていた。


振り向いた力で鼻に乗った花びらが落ちていく。


「どうしたんすかー?」


「買い物に行ってきて欲しいの。この紙渡すから、ね?お願い」


「分かりましたいいっすよ」


何でもないやり取りだ。アレンは快く了承し、木の柵から飛び降りた。


「急がなくて大丈夫だから。お願いね。あ、後これも一緒に持って行って」


そう言ってマユミは後ろに隠していた護身用の刀を取り出しアレンに渡す。


直径一メートル程の大きさのそれは、ずしりとアレンの手にのしかかる。


「いや…別にこんなの持って行かなくても…いつも行ってる街なんだし…」


「いや、ダメ。今日アレンは一番厄日だってテレビで言ってたわ。私心配性なの。持って行ってくれる?」


「…はいはい」


アレンは溜め息をついてその黒塗りの鞘に入れられた刀を腰に差し込む。


「じゃあ宜しくねアレン」


そう言ってマユミは孤児院に戻っていった。その姿を見てからもう一度息を目一杯吐き出す。


その時、風が一陣吹き上げ、落ちた花びらを巻き上げる。


「暇だし、さっさと行くか」


街には何度も行ったことがあるので怖さはない。


アレンは紙をポケットに入れて歩き出した。






巻き上げた桜の花びらが全て落ちたその先に、一人の男が不気味に立っていた。


黒の装束に身を包み、顔は把握出来ない。


「さて、行くか。ヒヒ」


悪辣な笑いを一つ浮かべて、男は歩き出した。




孤児院から漏れ出る笑い声を聞きながら。






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