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新たな日常へ

「……先に言っておくが、無理なことは無理だからな? 俺に出来る範囲のことしかできない。」

「うん。結婚しよ。無理じゃないでしょ? やろうと思えば出来るから。」


 【契誓約書】を大事そうに抱えて相川の問いに笑顔で間髪入れずに答える瑠璃。相川は嫌そうな顔を一切隠そうともせずに続けた。


「何で結婚したいわけ?」

「ずっと一緒に居たいから。」

「何で?」

「好きだから。」

「何で? いや、やっぱり止めて。」


 煙に巻こうとしたが余計なことを言ってしまったとすぐに気付いて相川は聞きたくない言葉が延々と続くであろう未来を先に遮って溜息をついた。


「はぁ……分かった。」

「! やった!」


 飛び上がって喜ぶ瑠璃。しかし相川も間髪入れずに続ける。


「だが、条件を足すぞ?」

「……変なのはダメだよ?」

「お前の方が変だけどな……まぁいい。条件は簡単だ。その紙を渡せ。そこに書くから。」


 盗られると思った瑠璃は身をよじって【契誓約書】を隠すが相川に言われて仕方なくそれを見せる。相川は瑠璃との間に合意を得たことで少々術式に対して介入する余地が生まれたのを確認して少し契約が破棄できないものかと試してみた。


「チッ……ダメか。」

「変なことするんだったら……」

「一応確認しただけだ。……大体ここまで嫌がられて何でそこまで意志を貫けるのか……こいつ本当は俺のこと嫌いだろ……」

「は?」


 威圧された。これ以上ごちゃごちゃ言っていても仕方がないので相川は条件の提示を筆記で行う。それを見て瑠璃は首を傾げる。


「んと? え、あの人のところに報告に行かなきゃダメなの……? 仁もあの人嫌いなのに……?」

「あの人て……なんだかんだ言ってもお前の父親だろうに。一応言いに行くのが筋だ。で、俺はちょっと用事があるから行けない。」

「……挨拶のこと気にするならついてくるべきでしょ……まぁボクも来たら話どころじゃなくて大変そうだし多分来ない方がいいとは思うけど……」


 一先ず、瑠璃は相川の提示する第一の条件については了承した。そして相川は続ける。


「で、結婚するには三か月間の同棲を前提とする。まぁ結婚するに当たってお互いに失敗したと思わずに済むようにな。三ヶ月後に同棲生活が成功したと思えた場合にのみ結婚成立ということで。……まぁ俺は最近までお前が本気って知らなかったからそういう視点で見てなかったし、分かってくれるよな?」

「……ボクからすれば今更な感じがするんだけど……まぁ、うん。」


 コトハは話の流れ……というよりも【言霊】の力で相川の話と瑠璃の認識の間に齟齬が生じていることを感じ取った。しかし、自分にとっては都合がいいことであるため黙って……内心で笑っておいた。


「そして最後に、お前が新しく手に入れた能力が落ち着くという条件な。これに関しては流石のお前でも時間がかかるからこっちで先人を呼んで特訓させてやる。」

「ん? ボク、落ち着いてるよ?」

「全然。魅力とか駄々洩れだ。人間から神化した状態だったのが本物の神に形を作り変えられてるから色色とやるべきことがあるんだよ。こっちで手配するからそれをちゃんとこなすように。」

「うん。わかった……」


 瑠璃の合意を以てして相川が持っている【契誓約書】の内容が書き換わる。その文言を見て相川が笑うと瑠璃は疑う視線を向けるも自分が頑張ればいいやと割り切り、まずは条件の最初の一つをクリアすることから始めた。そこで元の世界に戻るには相川の力が必要であることに気づく。


「……もしかして、元の世界に戻してくれないとかじゃないよね……?」

「何言ってるんだ。俺がそんな酷い奴と思うのか? ちゃんと三つ目の条件をクリアしたらすぐに戻すところまで約束してやろう……ちょうどいいな。ハニーバニー! こいつを【武術大世】……って言っても分からんか。この繋がってる場所に飛ばしてくれ。」

「ん。」


 報酬のお菓子から目線を上げることすらなく頷くだけでハニバニは瑠璃を相川が脳内でダイレクトに指定した場所に飛ばした。そして完全に瑠璃の姿がなくなったのを確認してからコトハが笑い始める。


「何?」

「酷いわね……今から(・・・)3か月に書き換わってるでしょ? その【契誓約書】……」

「何だ気付いてたのか……それは危なかった。」


 婚約詐欺を働き、履行不可能な契約を締結した屑は笑いながら冷汗をかく。しかし、それはそれとしてダメ押しの行為を行うことにした。


「さて……時間の流れが違うから3か月以内には戻ってこれない。ということで最初の条件はもう絶対にクリアできない。はずなんだが……瑠璃なら何かやってくる可能性がある。……【シスターズ】! シャルルとノアを呼んでくれ。」


 自らが作り上げた機械人【クワトロシスターズ】を呼ぶ相川。すると彼女たちが出て来るよりも先に相川が呼んでくれと言った張本人たちが現れた。


「何でありますか!」

「うふふ……ノアですよぉ……」

「チッ、見せ場を奪われた……」

「るぅねだったら絶対呼ぶ方が先だったね。」


 【クワトロシスターズ】とるぅねが醜い言い争いを始める中で相川はこれまでの成り行きについて説明する。そして事情を理解するとノアとシャルルは恐ろしい笑みを浮かべて頷いた。


「抜け駆け泥棒猫を〆るんですねぇ……ノア、得意ですよぉ……」

「あくまで、指導の範囲内でな。シャルルは?」

「……お任せくださいであります。」

「じゃ、ハニバニ。」


 瑠璃と同じように二人を送り出した相川は厄介払いできたとばかりにのびのびし始めた。そんな相川をコトハはにっこり笑いながら抱き留める。


「じゃあ、今度は私の話に行きましょう?」

「……そういえば、そうだったな……」


 相川は言われて思い出す。目先の問題を処理して緩んだところに一撃喰らった気分だ。そこに畳みかけるようにコトハは釘を刺す。


「先に言っておくけど、初恋で加減が分からないから瑠璃にしたみたいに煙に巻いたり変な真似しないでね? あの子と違って……私の恋はどうやら悍ましいみたいだから……」


(……これは、不味い物を開いてしまった可能性が……待て、開いたというがそもそも俺はこいつに好かれるようなことをした覚えがないんだが……? 何こいつ?)


「あら、どうやら何もわかってないらしいわね。」


 コトハの言葉の意味を理解し、そしてそこから考えを発展させようとして理解不能に陥った相川に対してコトハは獲物を見る目で見据えながら表情は笑顔を浮かべて相川に近づく。相川はそれから逃れようとするが、不意に力が抜けたことを感じ取った。


(チッ、原神どもから受けたダメージが限界を迎えてる……そして相手に敵意も悪意も害意もないから抵抗が難しい……さっきの負の原神のやつ残しておけば……瑠璃に食われてたな。ダメじゃん。)


 これが終わったら何としてでも今の能力を発展させて敵以外に対する抵抗の術を持つことを決める相川だが、問題が起きているのは今だ。


「ごめんね素直じゃなくて……自己封印してたから……そのせいで私自身が弱くなって更に迷惑かけて……」

「いや、今現在進行形で迷惑だから俺のこと好きなの止めて?」

「……いやよ。私、今なら大抵のことは何でもできるけど今やりたいことは一つだもの。それを取り上げないでほしいわね。」

「あ「あんまり拒絶されると傷付いて強行突破するかもしれないからね?」……はい。」


(なんか最近俺弱い気がする……特大の負を喰ったからかなぁ……)


 悲観的になる相川。そんな相川に対してコトハは楽しそうに笑っていた。


「ふふっ……冗談よ。今からそんなに迫る気はないわ。もう少し、じっくりと……」

「よし、今から幻滅させてやる。」

「うふふ……うふふふふふふ……幻滅してあげるかどうかはまだわからないから、これからよろしくね?」


 コトハの言葉を受けて相川は少し悩むも目に届かない範囲で何をされるか分かったものではない状態よりも目の届く範囲で管理できた方が楽だという考えに至り、コトハの要求を受け入れる。


「……嫌だと思ったら遠慮なく言うように。」

「うふふふ……ありがとう。」


 これで嫌われようとしているのだからコトハは笑ってしまう。


(貴方と出会うまでは自由に嫌だと言うことさえ許されなかったのに……)


 籠の中から出された【言霊の姫】は【災厄の忌み人】と共に歩き始める。そしていつの日か彼女は【言霊の姫】という存在だけではない、コトハ・ユノ・メイリダとして【言霊の姫】とは別の名を得ることになる。


 尚、【災厄の忌み人】は後にまた別の名になった時にこう語った。


「乙女フィルターにはどうやったら勝てるんだ……いや、もうここからは無理か……」


 と。




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