放置で
恋心についてのクイズが突如として始まった。
一行が集まった場所は一つのモニターがある場所であり、その前に3つの席が用意されており机の上には大きめのタブレットが準備されており、そこに答えを書き込むようになっていた。
「さてさて、不正がないようにタブレット端末を使用してるが……」
「それより問題と答えが大丈夫なのかが不安なんだけど?」
問題を作った張本人が相川であれば飛んでも発想をしかねないと瑠璃が微妙な顔をしてそう告げる。しかし、相川は余裕たっぷりに笑うと首を振る。
「大丈夫だ。今回は過去、周囲で起こった出来事を無作為に抽出して好感度がどうなったかについてのテストになる。つまり、答えは現実に起こったことだから不正は出来ない。」
「……その出来事の抽出はどうなってるの?」
「今から俺と瑠璃たちの記憶を適当に放り込む。」
モニターの下から糸のように細いケーブルが下りてくるとそれを相川は放り投げて二人に渡す。ついでに自分にもつけると言った。
「俺の記憶は長い。普通にやったら問題に偏りが生まれるから君らの記憶が終わった時点までで終了しておく。早いこと着けな。」
「……記憶を見られるのね……まぁ、碌な人生歩んでないから大したものを見せる訳でもないけど……大体周囲に恋愛なんてなかった気が……」
「ボクの記憶なんて殆ど仁のことだけなんだけどなぁ……」
「……まぁその辺は適当に処理するし登場人物も滅茶苦茶になってるから大丈夫。」
あまり納得がいっているようではなさそうだが、問題があればすぐに言えばいいと一先ずそれをつけておく。目の前では何となくハニバニもそのケーブルをつけていたが誰も何も言わずに記憶の読み取りが開始された。そして、10秒もせずにケーブルが戻り画面に光が灯る。
「おっ、始まるな……例題からだ。」
「……あ。」
モニターに映し出された光景。それを見て瑠璃が声を上げる。その図は瑠璃が相川と一緒に居た小学校の卒業式の時に寸分の違いもなく、ただ登場人物だけが見知らぬ男女になってるだけだ。
(……気付いてないし。)
当事者である瑠璃はすぐに気付いたが、もう一人の当事者であるはずの相川は問題を見る以上の感情を見せずにそれを見上げている。少々イラっと来たが、ここからの問題がどうなるかに注目する必要があるので黙っておいた。
【幼馴染の二人、この日は卒業式です。二人の表情から現在の心情とこの後の展開を予想しなさい。】
「え、音声も再現もなしなの……?」
第三者視点の写真とテロップだけで特に何もないということに驚くコトハ。それを見て相川は意地の悪い笑みを浮かべる。
「あん? こんな簡単なのに必要か?」
(簡単……)
釈然としない瑠璃。仮に、普通に当てられたら相川は意図して瑠璃の想いに気付かなかったということで瑠璃は少々傷付くことになる。尤も、瑠璃が傷付く程度は少々で済ませるのだが。
「じゃ、答え書いた?」
「……一応、ね。」
「はぁ……正解はこれだよ。」
自身満々に出した瑠璃の答え。それは過去の自分に降りかかった出来事だ。
「女の子は男の子のことが大好きなのに男の子は気付いてない。この後、一緒の中学校に進むつもりで一緒にお祝いしに行こうと誘ったところまさかの男の子の裏切り。お祝いにも行こうとしないし、一緒の中学校に行く気もなかった挙句それを相談すらしてない。そして恋心を察して一緒に居てほしいと女の子が色々言うけど酷いこと言って振る。」
「長いわよ。」
瑠璃の答えを受けて多分、彼女の身に降りかかったことなのだろうと思いつつコトハは無難な答えを書いたタブレットを見せる。
「ほー、男の子が女の子を好きで、告白。そして付き合うねぇ……」
「何よ。王道でしょう? それで、あなたの答えは?」
「あん? ……まぁ答え自体は大体瑠璃と同じだな。」
瑠璃がピクリと反応して相川を睨んだ。相川は自分の答えをカンニングの類ではないということを示すためにレーザーポインターを持って自分の答えの推理ポイントを述べ始める。
「えー、少女の方が力が入ってるのに対して少年の方は何で呼ばれたのか分かってない態度から関係性を把握。幼馴染ってテロップで流れてることから付き合いがまだ長く続くことを示唆されている。そのためここで告白する可能性も低い。しかし、この場所は人目を避けてある。つまり、周囲からからかわれるのが嫌だからこんなことになっていると考え、小学生の幼馴染となれば親同士の関係が間違いなくあるということから食事会か何かに行くことを察した。そして―――」
「長い。二人そろって長すぎるわよ。」
「ふむ。にしてもこの男は鈍いなー画面越しに見ただけでもわかるわ。人は違うかもしれんがこの表情と距離を見たらすぐわかるだろうに……」
嘲笑する相川。そこには一切の悪気も含みもない。そんな相川に瑠璃は事実を告げた。
「……これ、仁だよ。女の子がボクで男の子は仁。」
「……そうか。」
「うん……」
「……? え、瑠璃ってそんな昔から俺のこと好きなの?」
「……5歳終わりかけぐらいの時には、もう……」
言われて気付いた相川。瑠璃は客観的に見たらわかる癖に何で……? と思いながら一応の正解を獲得しておく。
「5歳終わりかけ……瑠璃さん、早すぎない?」
「そのころの好きは家族として、絶対一緒に居るっていう感じ。男の子として好きになったのは8歳くらいの時から。全部理解した上で異性として愛し始めたのが14歳くらいから。基本的にずっと好きだけど微妙に内情が変わってる感じ……」
「……今は終わった?」
「終わってるわけないよね? 応えてもらってないのに。ねぇ?」
妖氣のようなものを纏って艶やかに微笑む瑠璃。どこまでも熱を帯びた視線だが、背後には凍てつくように極寒の嵐が吹雪いている気がした。
「いや、だから応えられないから諦めろって……俺、割ともうすぐ死ぬし……」
「は? ダメだけど?」
「……まぁ死ぬのはダメよね。」
ふと、コトハはそこで未亡人という言葉が頭を過りここ最近、負の原神の襲来で忙しかったがために中断していた話を思い出した。
(……そう言えば、儀式ってどうなのかしら……確認をしないと……って! 何をナチュラルに受け入れようとしてるのかしら私。ありえないわよ! ……でも、ここまでしてもらってるというのに無碍にするのも……いや、そもそも儀式って本当にるぅねが言ってたアレなのかしら? 違ったら大恥で……あぁもう!)
「……ハニバニ、忘れられてる……?」
なんだか寂しくなってきた子兎はクイズに参加しない観客席のようなところに座っていたが相川の下へ一直線に駆け寄ると抱っこしてもらった。
「クイズどころじゃなくなったなこれ……」
「その前にさ、何かさっきからちょっとだけ違和感あるんだけど、仁ってボクが仁のこと好きって理解したの?」
例題だけで終わったクイズのことをどうするか考えつつハニバニを抱き上げる相川に瑠璃が尋ねると相川はものすごい微妙な顔をして頷いた。
「まぁ、流石に。」
「で、フったんだ。」
「うん。瑠璃にはこんなのじゃなくてもっといい相手がいる……けど、まぁちょっと待て。落ち着け。」
「フるのはいいけど、ボクの想いを否定するのはダメだからね?」
本当に今更ながら瑠璃が自身に重すぎる愛情をぶつけているということに気付いた相川はクイズなど時間稼ぎにもならなかったと思いながら溜息をつくのだった。




