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脈絡もなく

 何だか非常に不満そうな顔で寝てからは幸せそうにしている瑠璃をベッドに入れる代わりに起きた相川は節々に感じる痛みを生きている実感として処理しつつ痛みで強張る体を少しずつ伸ばしていた。


「っつー……ふぅ。ま、負の原神と戦ってこれで済めば幸いだよ。にしても、最後に来たあの女は……記憶を消しただけで見逃したみたいだが何だったのか……」


 可動域が狭まらないようにストレッチを済ませた相川は欠伸を一つすると術式を用いて現在の状況を確認する。まずは、相川が所有していたり、相川の直属だったりする機械や魔道具などだ。


「んー……本拠以外は損傷が酷いな。だが、本拠に入ればまぁ何とかなるレベルか……俺の回復も済んでないことだし放置でいいな。」


 本拠にいる電子精霊に任せておけばどうにでもなるので放置することにした。次に部下たちだ。強制はしていないのであまり参加してはいないが、負の原神のとばっちりで結構なダメージを負っている可能性が高い。


「あー結構死んでるなぁ……まぁ本拠なら勝手に回復させるからいいか。流石に【消滅】なんてもんを使えるのは原神様だけみたいだったしなんとでもなる……」


 労災についてはこっちで色々判断することにして回復については魔導電子精霊に任せて相川は別件の部下の様子を見る。


「……あん? このアホ……いや、何か面白そうなことしてんじゃねぇか。 ふふっ……」


 モニターに映し出されているのは何やら激闘が終わった後らしいミカドの姿と身なりは汚れているが怪我はしていないらしい少女の姿。相川は意地の悪そうな笑いを浮かべながらその様子をモニターとして部屋に大画面で映し出した。




『俺には関わらない方がいいんだ……だから、ここでさよならだ。』

『そんな! ここまでしてもらって……』


 モニター内の情報では何が起きているのか分からないので相川は【呪式照符】を用いてその状態の説明を文字に起こす。どうやら、相川が勧めるがままにミカドが危険を顧みずに少女を救うべく頑張っていたらしい。


(……あいつらの故郷の世界消してしまったが……まぁ壊したのは俺じゃなくて原神だし。あいつが悪い。)


 モニター内で「君には帰るべき場所がある」などと宣っているミカドの言葉を聞いて相川は微妙な顔をしながらちょっとだけ確認をする。


(うーん。やっぱり正の神々も復活させる気なさそうだなこりゃ……あいつら優秀な人材のみ別世界に移してるし……まぁ、それで言うなら一応帰るべき場所はあるのか……?)


 【霊仙大世】というだけあって一般人と思われていた中にも神がわざわざ救済するレベルの範囲にある人間が大勢いたらしく、様々な名目で異世界に飛ばされている。


(でも、その……サキとかいう小娘の親は何か美少女に転生することに決まって今8歳で色々やってるみたいなんだけどなぁ……)


 【霊仙大世】と言う名の通り霊氣、即ち魂が強い存在達だったため、転生してまで使いたい存在だったが外殻である肉体は大したことがないと入れ替えられたらしい。何だか見る影もない程に幼い少女になっている。こんな場所に帰してもよいのだろうか。


『……ごめん、君を連れて行くには危険すぎる……』

『私だって強く……』

『お前を危険に巻き込みたくないんだよ!』


(躁鬱かな?)


 相川が色々どうした方がいいか考えている間にも場面は進んでいる。ミカドは相川とドエスノの戦いが勃発したということを知り、その渦中に身を投じようとしているところらしい。


 もう、終わっているが。


『分かってくれ……俺だって……いや、違う……何でもない、忘れてくれ。』

『待って!』

『……ごめん、どっちにしても、辛い思いをするだけだから……これを。』


「ん……?」


 ミカドは何やら薬を取り出した。相川がそれを見るとどうやらそれは記憶と妄想の狭間を少々曖昧にするものであり、相川たちの身内では記憶を操作する時に使う代物だった。


『何、これ……?』

『これを飲めば、もう。大丈夫だから……』

『何が大丈夫なの……? そんなに苦しそうな顔をしてるのに、何が!』


「……もう面倒だしくっ付けばいいのに。」


 他人事であれば容赦のない相川。モニターを見る片手間に負の原神にしてやられた被害額の見積もりなどを出しながら興味津々でミカドの恋物語を見守る。


『まさか、忘れ……記憶を消したりするんじゃないでしょ……?』

『……』

『ねぇ、何か言ってよ! そうなの⁉』


 取り乱す少女と苦虫を嚙み潰したような顔をするミカド。相川も手を止めて二人の成り行きを見守る。伝えに行けば一瞬でこのメロドラマは終了するが、それでは面白くないのでまだ見守る。


『ヤダよ……私、あなたのこと忘れたくない……』

『分かってくれ。これが、二人にとって一番……』

『ねぇ、待って! 忘れたくないの! 私、あなたが「その先は、言わないでくれ。」……』


 二人のもたらされる静寂。モニター越しに見ている相川の部屋でも瑠璃の寝息と相川が何となくノリで出したせんべいを齧る音しかしなくなる。


『……俺の記憶には、残るんだ……! その先は……』

『ミカド、さん……』


「今乱入したらどんな気分になるんだろうなぁー……多分非ッ常に愉しい気分になると思うんだけど。どうしよう? お?」

「大丈夫なの⁉」


 乱入すべきかワクワクしている相川の下に別の場所から乱入者……もとい、【言霊の姫】ことコトハが現れるとその手に持っていた物を投げ出す勢いで棚に置き、相川に駆け寄って来た。


「……よかった……!」

「んー……?」


 こんなにされるほど仲が良かった記憶はないのだが。そう思いつつ何らかの神に消された記憶が別の形で影響してきて曖昧なのかもしれないと処理して、正常な思考ではこれをどう処理するか試行する相川。


(自分の儀式をやり遂げてから死ねor自分のせいでゴミ屑とはいえ一応、世話になってる恩ある相手が死ぬのは気分が悪い……の二択で、生き残ったんだから最後まで儀式をやり遂げさせるために飴を与えておこう。というところかな?)


 問題はないとコトハに抱きしめられながら頷く相川。異常は元からなので気にしない方向だが、それは兎も角随所が痛い。……そのため、コトハの顔が当たる部分が濡れていることには気付かなかった。尤も、包帯の奥は血で濡れており、感覚も痛い以外は死滅しかかっているので気付きようもないが。


(……あ、ミカドの方が終わりそう。何か覚悟決めた顔で……あ! キスした! 乱入……この状態じゃあ難しいかなぁ……冷やかしに行く格好じゃないわ。)


 涙と最後の別れ。男は思い出を胸にまた一つ強くなり、覚悟を決めて死地に赴く。後ろ髪を引かれる想いに気合を注入し、右頬を赤くしながら彼は進んだ。


(……どうしようか。んー、俺の手持ちの機人とか生命体はドエスノの部下の所為で絶対安静の状態だし俺はこの様だし……流石に部下にやらせたらミカドの職場の人間関係が可哀想だし……あ、最近サファリパークで拾ったあの子兎でいいかな。)


 ちょっと面白いことを考えながら相川は何だかこちらも疲労しているらしくもうすぐ意識を途切れさせそうになっている彼女を抱えながら別世界に呼んであるお客さんをこの世界に召喚する。


「よー【血染め黒兎】のバニーちゃん。ちょいとお使いしてきて。」

「…………お駄賃、ください……」


 極度の疲労状態にあったらしく、相川に抱き着いたまま眠りに就いたコトハ越しに相川は小さな黒兎に声をかけ、依頼をする。この後成就するであろう悪戯の結末を思い描きながら相川は笑い、黒兎を見送るのだった。




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