表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/60

全てを擲ち

 去る者がこの場より転送され、静寂に満ちた場所。コトハは、気絶したるぅねから何らかの意思を感じ取った後に決意を固めて【運命神】の方を見据えた。しかし、【運命神】はそんなコトハの覚悟を決めた顔とは異なり、笑っている。


「……テスト不合格、だから二人とも壊すなんて言わせないから。」

「えぇ。大丈夫ですよ。テストはまだ続行中です。」


 コトハの言葉に【運命神】は微笑みながら答える。その言葉にコトハは疑問を持つも、その件について尋ねるより前に【運命神】が続ける。


「所詮、あの薬を用いて彼女が加勢に入ったところで大して意味を持ちませんので……」

「……さっきは……」

「あれは余力をたくさん残しているあなたの場合です。今にも死にそうな彼女が使ったところで……着く頃には死んでいるかもしれませんね?」


 何が楽しいのかくすくす笑う【運命神】。彼女が視線を注ぐモニター内では今、まさに瑠璃が画面の中に現れているところだった。


(……せめて、私の全力で……!)


「【無事に、勝って戻って来て】……!」

「くすくす……不確定要素となるので遮断させていただきますよ? それとも、私を敵に回しますか?」


 歯噛みするコトハ。この世に生を受け、自我を持ってから初めて本気で願った言葉は虚しく【言霊】の意を成さずに砕かれ、彼女を苛む。


(何が、【言霊の姫】よ……!)


 普通に祈りを届けることすら【運命】に阻まれる。歯痒い気持ちを持ちつつも彼女は【運命神】と共に相川と瑠璃の戦意をモニター越しに見るだけだった。







「あぁぁあぁぁぁぁあっ!」

「おいおい、何だこいつは? あぁん? 自分から犯されに来たのか? おっと、逃げようなんてするんじゃねぇよ。寂しいだろうが。」


 声を出す力すら失いつつある相川は目の前の光景を見てどう手を打とうか考え、思考がまとまらないことを受けてそろそろ死に至りそうだと自嘲した。


(あー……せっかく瑠璃、逃がしたのに……何で戻って来るかなぁ? しかも、意識もないのに……)


「逃げて……仁、逃げてぇ!」

「逃がさないに決まってるだろう? いいからお前は大人しくあいつの目の前で俺に犯されろ! おら、ジタバタするな!」


 相川がまだ生きているのはドエスノが心を折りたいが故に止めを刺さなかったからに過ぎない。現時点における実力差は決定的な物であり、最早抵抗すらできない状態で相川は単純な力のみで荒れ狂い、捕獲されかかっている瑠璃を見ていた。


(……にしても、瑠璃も瀕死なのによくあれだけ力出せるなぁ……ああいう機能、俺にもないだろうか……?)


 ふと思いつくものがあるが、アレを使うぐらいなら死んだ方がマシだと切り捨てる。代わりに、瑠璃の現状がどうやってもたらされている物かを調べながら苦笑した。


(あー……死ぬ寸前でもそんなこと気にするんだなぁ俺……やっぱり研究者だわ。……本当なら、世界の隅で大人しく研究してたかったんだけどなぁ……何で戦って……)


 考えている間に瑠璃の検査結果が出た。それで、色々と考えていた頭が冷えて毒が回って血を吐くしか能のない口から思わず音が出る。


「る、り……? ぉまぇ……」

「逃げて!」

「ふん。まだ喋る元気があったかこのゴミは!」


 瑠璃の腕を無理矢理引きながら相川の咽喉を杖で貫くドエスノ。ドエスノの急激な動きについて来れずに捕まれていた瑠璃の腕が肩から千切れた。


「あーぁ……お前の所為だぞゴミ。こうならないように丁重に扱ってやっていたものを……オラ、反省しろゴミ屑!」


 声にならない絶叫を上げ、目に生気が宿る瑠璃。その目で見たのは立つこともままならずに地に倒れ伏した相川を何度も蹴りつけるドエスノの姿だった。


「ぅ、うあぁぁあぁぁっ!」

「おっと……? うんうん。意識が戻ったようで何よりだ。泣き叫ぶ様子の方がそそるし、何より悲壮感が漂うからなぁ……?」


 隻腕でドエスノに攻撃を仕掛ける瑠璃。そこまで必死になりながらも何とか相川を逃がそうとする彼女を見て相川の諦め、冷めきっていた思考に熱が入る。


(……あそこまでされて、何もしないのは俺としてどうなんだろうねぇ……)


 「自分らしく在る」ことを掲げていた相川は、今の現状を鑑みてほとんど動かない表情筋を小さく動かして、笑う。


(ここで何もせずに瑠璃が目の前で犯されるのを見ながら死んでいく。これは、ダメだな。俺じゃない。なれば……やるしかないか。死に物狂いで。さて、生まれてきてすみません。っと。これで、一応、謝ったからな俺は……)


「瑠璃! 1分だけ持たせてくれ!」


 叫んだつもりの相川。だが、その声は辛うじて自分に聞こえるかどうかというレベルの声量だ。情けなくて笑いがこみあげてくるが、乱戦状態で必死にドエスノに抵抗していながらも瑠璃は、相川の声を聞き逃さなかった。


「頑張る!」

「あぁん? ……相川が何か……」


 突然訳の分からないことを言い始めた瑠璃に相川が何かしたのかと後ろを振り向き……相川が立ち上がっているのを目視すると物も言わずに蹴りかかった。


 そして、それを、受け止められる。


「……あ?」

「kbんgてぇおいrmyボいい;い、、KgんhB、・gf、jbsjkvm……うふふふふ……あはは……ヒャーッはッはは……アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \ハハハハハ破ァッ!」


 掴まれたドエスノの足。それを持ったまま地面に叩き付けてそのまま放り投げる相川。その程度の攻撃であればドエスノにダメージを与えるには至らない……が、しかし。反撃するだけの余力があったことがドエスノにとっての問題だ。


(何しやがった……?)


 相川の様子を見……ドエスノは更に混乱することになる。


「きゃ、も、なんで? どうしたの⁉」

「可愛い! 瑠璃可愛い! 瑠璃さんきゃわわ!」

「何乳繰り合ってんだテメェら!」


 混乱したのもつかの間。何故か瑠璃を全力で愛で、完全に完膚なきまでにセクハラをおっぱじめている相川に怒鳴りつけながら襲い掛かるドエスノ。杖を掲げ、死の雷を降らすとそこでドエスノは我に返って舌打ちした。


「チッ……完全にやり過ぎたな……あー萎えたわ……」

「俺は勃ってるけどね! あー瑠璃ってかぁわいいなぁ……どうしてそんなにかわいいんだ?」

「……⁉」


 股間を瑠璃の太腿に擦り付けて胸を揉み、尻を掴むなどして公然猥褻罪を行っている相川を見てドエスノは驚愕する。そしてセクハラを受けている瑠璃もどうしたらいいのか分からずに混乱していた。


「勃って……ないんだけど? どこいったんだmy son! くっそ! せっかく表に出てこれたってのに何たる仕打ち!」

「ね……逃げるなり、何なりしようよぉ……えっちなことは何時でもしていいからぁ……」

「じゃあ今しよう! すぐしよう!」

「……何だこいつ。壊れたか?」


 ドエスノはこういう心の壊し方をしたかった訳ではないんだが……そう思いながら隙だらけの相川に背後から止めを刺しにかかる。杖の先端がほとんど抵抗がないように相川に突き刺さる……


「あらら、俺の棒がないからって代わりにくれんのか? こんな粗末なもんじゃ幾ら処女だって瑠璃も満足いかねぇよ。ほら、瑠璃。何か言ってやれ。」

「みみ舐めないでぇ……」

「だってさ。あーエロッ! 瑠璃さんエロッ!」


「だから殺す。」


 急激な落差。ほぼ、考えなどしていない状態から相川の殺気に当てられて無意識でその場から飛びのいたドエスノはその判断を正しい物だったと数瞬遅れて認め、そしてそのまま消し飛ばされた。


「あははあハッハはアッハjg名k;jmghj……ふー……FOOOOOOOO! テンション上がって来たぁっ! さぁ始めようか。これが、これこそが化物であり、俺が最悪たる所以だよ、ドエスノくん。本体は絶対に本性を出したくなかったみだいだけぉねぇ……クアッハハハッハ! アハハハハハハハハハ! テメェ隠れて視てんじゃねぇぞゴミ屑がァッ!」


 虚空に放った雷撃。それを飲み込むような形でドエスノはこの場に舞い戻る。そして苦々しい顔をしながら相川を睨みつけた。


「……それは、俺の技だなテメェ……」

「そうだぞテメェ。何か用かテメェ。九日十日だテメェ。あー瑠璃さんかわいい!」

「えっ? あ、ありがと……でも、ちゃんと戦った方が……」

「うるせぇ黙れ。」


 傍若無人を絵にかいたような状態になった相川は瑠璃ににっこり笑ってそう告げるとドエスノを見て侮蔑の笑みを浮かべる。


「さぁ、終わろうか。性悪キッズ。」

「調子に乗るなよッ!」


 相川とドエスノの戦いは最終局面に入った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ