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誤算

「がっ……」


 熱戦、決戦、大激戦。


 熾烈な戦いが繰り広げられる中でこの段階での戦況は相川に少しずつ傾きつつあった。だが、近接戦を受けて立っている時点でドエスノはこの状況を予測済みだ。問題は、いつ切り札を切るかということ。


「【呪死烈波】!」


 瑠璃と攻撃を合わせる必要がなくなったことから武器を再使用し始めた相川の攻撃、ドエスノは苦い顔をしてそれを受ける代わりに攻勢に出る。


「チッ! 【гром смерти】!」

「……! 【四天回帰】!」


 本能が命じるままに防御陣を構築し、ドエスノの攻撃を分散する相川。拠点は既に家の様相を成しておらず、周囲は二人の戦いに巻き込まれて天が割れ、地が砕けて破滅の日を迎えていた。


 それを切り裂くが如く振り下りるドエスノの生み出した黒い雷。目標物とされた相川には当たらないがそれによって周囲の大地は真っ赤に溶けて息をするのも苦しいような状態になった。


「【Gimmick house No.final】! 【Gimmick room No.25】!」


 直後、相川の宣言がある。その瞬間、周囲は光に飲み込まれ、全ての音が掻き消された。遅れて聞こえる特大の爆発音。その中で最早部屋とは言えないながらも見えざる結界によってそれがあったと分かる範囲にいた相川が空を見上げ、力なく地面に叩き付けられたドエスノを遠目で見た。


(足りてないッ!)


 ドエスノのストック切れは嘘であることを看破している相川は更に追撃をかけ、その場から神速の動きを見せてドエスノに止めを刺しに向かう。しかしそれはドエスノの必殺のカウンターで迎え入れられた。


「オラァッ!」

「~ッ!」


 弾き飛ばされかけ、意識も飛びそうになる一撃。しかし相川はそれが来るということを予想しており、真正面から予想済みの攻撃を受けたところで効く訳がないと自己暗示をかけながら受け止め、そして己が体術の中でも奥義と言える一撃を繰り出す!


「破局突きィッ!」

「ガッッハ……ぇほっ……クソがァッ!」


 それでもなお、ドエスノは立っていた。そのまま相川に反撃に移ろうとして……自身の身体の異変に気付いて、その動きを止めた。


「な、ぁ……?」

「さっきのお返しだよ! 【遊神星虹流・龍仁貫手】っ!」


 異変が生じた腹部を見るまでもない。ドエスノの背後から聞こえた声は先程、彼が同じようにして殺したはずの存在。その腕が、ドエスノの身体を貫いている。


「莫迦な……ありえん……こんな、小娘にぃ……っ!」

「そのまま死ね。」


 猛追撃。いい加減怠くなってきた手足を休めることなく瑠璃と一緒に相手がミンチになるまで叩きのめす相川。ドエスノの身体が原形を留めなくなったところで瑠璃が大技を繰り出そうとしているタメを見て相川も決めに入った。


「はぁっ! 【遊神星虹流・星虹総打突砕】!」

「【数え死手・無激総乱舞】!」


 互いに必殺の技を連ねた一連の技を繰り出した。その瞬間、相川は言いようのない悪寒に襲われて瑠璃を抱えてその場から大きく飛び退いた。


「? どーしたの「喋るな。死ぬぞ。【Gimmick box No.93】!」……」


 間一髪。まさしくそうとしか言いようのないタイミングでドエスノの打ち砕かれた身体が膨張し、直後にこの星を飲み込む勢いで爆発してみせた。相川が瑠璃を抱き止めた場所以外から大地が消し飛び、相川は嫌そうな顔をして後ろを睨みつけた。


(嫌な奴だなホンットに! 大人しく死ねよ!)


 ドエスノの爆発に伴って大規模な自然災害が起こる。それに加えて、ドエスノの身体に内包されていた猛毒が散布され、周囲を溶かし、腐食し、旱魃を起こすなど好き勝手に異常事態を引き起こしていた。この現状を目の当たりにして相川は対策を図り、下敷きにしている瑠璃に声をかける。


「瑠璃、いいか……お前何してんのこの非常事態に。」

「だって、さっきまで怪我してたし、今は近いから……」


 結界がもたないかもしれないという事態。しかも、相川自身も極度の疲労状態に加えて大怪我を負っている状態であまり余裕がない危機的状況であるというのに、瑠璃は何を期待していたのか知らないが相川の胸に頭を預けており、顔を上げさせると頬を染めて目を閉じて近づいていた。

 それに呆れる相川。次の瞬間、相川は瑠璃をドエスノの毒が蔓延している外へと蹴り出した。


「痛い! そこまでする……え……?」

「……不味った。逃げろ。」


 瑠璃が毒煙に巻かれながら見た光景。それは、何とも言えない苦笑を浮かべ、腹部からいびつな形をして淡く紫色に光る木製の杖を生やし、血を垂れ流している相川の姿だった。直後、その杖は引き抜かれて相川は血を噴き出しながらその場に倒れ伏す。

 代わって、瑠璃の視界の中に現れたのは狂喜を満面に塗りたくった恐怖の笑顔を浮かべている、


 ドエスノの姿だった。


「クックック……アーッハッハッハッハ! ゴミ屑が……手古摺らせやがって……」


 倒れた相川に唾を吐きかけるドエスノ。只の侮蔑行為だが、それだけで相川の服が溶け、吐出した肌が黒く爛れる。その光景を見た瑠璃は怒髪天を衝き、物も言わずに襲い掛かり……


「おっと、わざわざそっちから来てもらえるとは……悪いなぁ?」

「え……?」


 ……簡単に、杖を持っていない手で受け止められた。ドエスノの本気との実力差がこれほどまでにあったのかとビクともしない相手を見てならば別の手を使うまで……と技をかけようとして気付いた。瑠璃の身体に力が入らなくなっているのだ。それに気付いた時にはもう遅い。瑠璃の服は引き裂かれ、麗しき肢体が外気に晒された。


「さ、て……最初の宣言通り、相川。貴様の目の前でこいつをぐちゃぐちゃに犯してやる。女、精々いい声で啼いてくれよ?」

「イヤぁっ!」


 命一杯の抵抗をする瑠璃だが、それは既にか弱いものとなっている。しかも、その弱弱しい抵抗が却ってドエスノの情欲を煽っているようで、愉悦の笑みが殊更深いものとなっていた。


「い~ぃ女だな、お前。ホンットに……あー、いい匂いだ……クック……⁉」

「間抜けが。死ね。」


 その笑みが、衝撃の一撃で完全に歪み、壊れる。誰がやったのかは言うまでもない。相川だ。ただ、その攻撃を受けたドエスノはその場から数歩下がるのみだった。


「まだ動けたか……しっかり、念入りに壊してやったんだがなぁ……? ん? 自慢の体術が役立たずになる程度にしか効かなかったか? 回復したつもりだったか?」


 それでも、ドエスノの圧倒的優位は揺らがない。攻撃を攻撃とも見做さず、まるで戯れに触られたかのように相川に向けてドエスノは笑いかける。対する相川は満身創痍で瑠璃に告げた。


「逃げろ……はぁ、っ……読み違えた……」

「ダメ、仁が……」

「いいから行けっつってんだよ! テメェの失態にお前を巻き込めるか!」

「おーおー、小悪党如きが正義の味方に見えるぜー? まぁ逃がさないけどな。小悪党ごときが巨悪に逆らったらこうなるんだよ。死にながら理解しろ。」


 相川と瑠璃のやり取りを見て愉しげに笑うドエスノ。対する相川は覚悟を決めた顔になる。その様子を見てドエスノは更に笑うとおもむろに杖を逆持ちにして自らを傷つけ、殺害した。


「……まさか。」


 この段階に及んで自殺するわけがない。しかし、現実に目の前の存在からは神体としての生体反応がない。戦闘中殆ど表情を変えずに動いていた相川が苦虫を噛み潰したような顔になって舌打ち交じりに呟くと、その目の前で彼は蘇って嘲笑の笑みを浮かべて告げた。


「その、まさかだ。ほら、どうだ? ようやく絶望してくれたかな?」

「……笑うしかないなこりゃ。」


 どう足搔いても勝てない詰みの状況であることを悟った相川はせめて自分らしい最期を迎えるがためにドエスノの毒で汚染されていないわずかな魔力を用いて意識も薄れつつある瑠璃を逃がし、刀を構えるのだった。




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