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霊仙大世

「着いたぞ。ここが滅びの世界、霊仙大世ソゴークだ。あ、瑠璃は影響が強い星に入る前に【黒魔の卵殻】を強化するから少し待て。後ルーネは上陸の準備。」


 霊仙大世。慌ただしく動く相川一行を尻目にコトハは外から見て美しい世界だと思った。しかし、その評価は近づくにつれて覆されることになる。


(思念が消えては潰され、生まれては殺され、ぶつかっては歪められている……)


 星々の中で、宇宙のいたるところで殺し合いが生まれ、互いの存在を消さんとする動きがある。容器は美しいのに中身がそれを台無しにしている様相を呈していた。


 それらすべてを無視して相川は一行を連れて青い星に近づいて行く。


「あー、言い忘れてたけどこの世界は現在絶賛戦争中。赤い星と青い星に分かれて戦っていて、今から俺らが入るのは青い星。時々、儀式のために赤い星に行くこともあるけどその時は気を付けてね。」

「……そう言えば聞いてなかったけど、仁はここで何をするの?」


 赤い星と青い星の意味はよく分からないが、相川に任せておけば別に困りはしないだろうと判断した瑠璃はそもそも何をしに来たのかと相川に尋ねる。それに相川は面倒くさそうに答えた。


「こいつの【言霊】の力を封印なしで自由に使えるように儀式をこなす。」

「無理ね。何を血迷ったことを言っているのか……」


 瑠璃の質問に答えた相川を一笑に付すコトハ。それにムっと来たのは瑠璃の方だった。


「何で助けてもらおうとしてるのにそんなこと言うの?」

「純然たる事実よ。無駄なことに取り組まずに済むように言ってあげただけ。」


 瑠璃の売り言葉に買い言葉と言わんばかりの態度でコトハはそれに応じる。それに対して相川とるぅねは特に気にした様子も見せずに二人分の【黒魔の卵殻】を準備して被せておいた。同時にるぅねは急いで相川に与えられていた仕事に取り掛かる。


「むー! 仁も何か言ってやってよ! この子すっごい分からず屋だよ!」

「何か。これでいい? 別に今ぐちゃぐちゃ言わなくても結果出せばどうでもいいだろ。そんなことよりえーと、あなた……」


 言い争いに対して特に興味を示さずに相川はコトハの方を見て名前を思い出せずに適当に声をかける。そんな無礼なことをしてくる輩は初めてで、何をしているのか一瞬だけ理解できなかったコトハだが、相川の様子を見て察し、口を開く。


「……コトハよ。」

「あぁそうそう。これ、着けてもらっていいですかね?」


 初めて名前を忘れられた挙句に教えたのに呼ばれなかったという体験に顰め面になるコトハだが、相川の方は大して気にせずに指輪を投げ、瑠璃にインターセプトを受ける。


「瑠璃……お前何してんの? 邪魔するなら送り返すよ?」

「だって指輪は特別だから……」

「特別製じゃなきゃ封印効かないだろうが。」

「そういう意味じゃなくてさ……もう……」


(……見てる人が目を逸らしたくなるくらい睦み合うわねこの人たち……)


 瑠璃の嫉妬に気付いていないのか気付かないふりをしているのかは不明だがとにかく流して指輪をコトハに渡そうとする相川。問題は相川よりも瑠璃であることを認識したコトハは彼女の方に声をかける。


「別にあなたから彼を盗ったりしないから安心しなさい。それであなた、指輪はどこに着ければいいのかしら?」

「心臓に近い場所に置いておけばいい。」

「! ダメだよ! 心臓に直結する指に着けるのはボクの!」

「……そうね。私もそこに着けるのは躊躇いがあるわ……」


 心臓に最も近い指……いわゆる、心臓に直結した指は薬指だ。【失われし言語(ロストワーズ)】の一つでは無名指うみんずと呼ばれる名を定めることも憚られた神秘的な指。


 尤も、今現在は特に関係ない話なのだが。


「まぁ何となく考えてることはわかるんだけどさ、誰も指に嵌めろとか着けろとか言ってない。俺がつけておいた術式を起動させて首飾りにするなり、毎日入れ替えるのを忘れたりしないないなら胸ポケットの中に入れるなり好きにしてくれ。」

「首飾りにして。」


 無言で瑠璃から指輪を受け取ってコトハが手に触れると透明な鎖が生まれ、それを首にかける。これで第一段階の封印が成り、それと同時に彼女に元々施されていた過去の雑な封印が破棄された。その光景を見届けたところで相川はそろそろ中に入れないのかとるぅねに尋ねる。


「で、ルーネ! お前まだなの?」

「ごめんなさい! 今頑張ってます! ごめんなさい! 捨てないで!」

「いや、捨てはしないけど……」


 ただ訊いただけなのに過剰に反応するるぅねに相川は微妙な顔をして応じつつ待つことしばし、この世界に入るための穴が開いた。


「早く入れ。すぐに閉じるから」

「はーい!」

「……微妙に釈然としないけどわかったわ」


 そして一行はようやくこの青い星の中に入り、着陸することになる。女性陣が先に入った後、相川が蒼の何かに開けた穴を閉じるとまずは最初に何をするかという話だ。


「着陸おめでとう。でだ……儀式のタイプは幾つかあるんだけどどうする? イカレてるのか、ギリギリ頭おかしいのか、後ちょっとで体壊れるだろうってやつか……あー。これはまぁ選ばれないからいいか。どれがいい?」

「選択肢がないのだけど?」


 碌な選択肢がない。こういう時はどうすればいいのかについて付き合いが長そうな瑠璃の方を見てコトハは反応を見るが肉体上に何らかのシグナルが出るということは一切なかった。そのため、あまり好ましいことではないが【言霊】を使用することにする。


 そこで、最後の選ばれないと相川が勝手に判断したことを訊くべきであるという答えが出る。


(……選ばれないからと省略されたものね。この子は本当に彼のことが好きなのねぇ……取られたくないからって必死になって……)


 取るわけないだろう、こんなもの。安心してほしい。そう思いつつコトハは相川に最後の選択肢を尋ねる。瞬間、露骨に瑠璃の表情が変わって可愛いのに怖い表情を作った。相川の方は特に変わりなく返す。


「あ? ステップアップ儀式で……内容がキモい。後、そっちは何とも思わないかもしれないが割と俺の精神と瑠璃さんが面倒。」

「……【内容について教えなさい】」


 埒が明かないとコトハは苛立って【言霊】を使用してしまう。己に制約を課していた彼女だが、存在が同等レベルに位置している相手の面倒な反応によって心が揺さぶられているらしく能力をポンポン使ってしまう。対する相川は特に秘密にしようという意思もないらしく、ただ純粋に術式が気に入らないということで拒絶してから答えた。


「まぁ……【愛する相手へ祝福を】っつーやつ。具体的には俺と色んな儀式に取り組んでもらうことになるが、その内容が端的に言うなら微妙に性的なやつ。」

「……それはあなたの下心じゃないの?」

「はぁ? 絶対嫌なんだが。」


 そこまで拒絶されるとプライドが傷付く。冴えない癖になんて傲慢なんだろうか。コトハは大分イライラしたが一先ず内容を詳しく確認し、言う程問題がないという内容に頷いた。


「何だ、この程度なの? あなた異性関係丸っきしだめみたいね?」

「この程度でも嫌だろうに。俺に触れるなんて悍ましいし気持ち悪い……あぁ可哀想。」

「……またそういうこと言う……」


 身震いして見せる相川に瑠璃が不機嫌になる。るぅねも何か言いたそうにするがそれを察知した相川の視線を受けると何も言えずに俯いてしまった。そんな一行の関係性を見てコトハは疑問に思ったが、それより何となくお腹が空いた気がする。


「……変ね。肉体の感覚があるわ……」

「あん?」


 妙な言い回しだなと感じて相川はコトハを見て、異常がないか視てから察した。


「あー要するにお腹空いたってことか? 【黑魔の卵殻】とこの世界の影響のせいだな。飯にでもするかね。」


 ということで、唐突に食事の時間が始まることになった。




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