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儀式に戻る

「ん……ぅ……」


 瑠璃は半分だけ浮上してきた意識の中でなんだか幸せな気分に包まれた気分だった。そして次に瑠璃はその状態を呼び起こしたと思われる相川に抱き着き、次第に意識を覚醒させていく。

 そして目を覚ます……前に、瑠璃は相川からぶっきらぼうな声と脳震盪を起こしかねないほど揺さぶられて起こされた。


「起きたなら起きろ。放せ。」

「……? あれぇ……?」


 朝から何するんだとは、瑠璃は考えない。そんな些細なことよりも何だかいつもより相川の距離が近い気がした。その理由を考え……瑠璃は急速に目を覚まして体を起こし、時間を確認してショックを受ける。


「! 甘える時間が!」

「終わったな。」

「あぅ~……ズルいぃ……」


 やけに相川が優しいのは甘える時間に何もしなかったことからだろう。それを何の事後手当もなく済ませると瑠璃がごねることから、ある程度で満足するように優しく接してくれているのだ。そう考えた瑠璃は過ぎた時間をぐちぐち言っても仕方がないと現状を最大限に活かし、甘えておくのだった。




(……危ない。こいつ可愛すぎるわ……)


 ぐずぐずしながら相川に精一杯甘える瑠璃の様子を見て相川は昨日の一件のせいで壊れかけている理性をぐらつかせ、朝から柄にもなく瑠璃に優しく接してしまったことを後悔していた。


「……瑠璃、もういい?」

「……もうちょっと、ダメ?」

「ダメだな。」


 優しく接した、とはいえそれは相川視点での話であり普通に見た場合は一切甘くない。起きてすぐに意識を脅かすようなマネをしておきながら甘いと判断するのだから相当ひどい。ただし、付き合いの長い瑠璃からすればそれでも多少は通じている。


「う~……仕方ないかぁ……何で寝ちゃったんだろ……?」

「疲れてたんだろ。それより、出るぞ。」

「はーい……今回の分は誕生日の時に取り返そ……」


 決意を言葉に、相川に聞こえるように呟く瑠璃。意識に留めてもらうことで予防線とし、今回の失態を自壊に結び付けようとしている。相川はその意図を理解しつつも今回の一件でそれなりの対応をしたので次回は甘めにしようと決め、外に出た。


 直後、相川はコトハと出くわし、よくわからない術を掛けられる。


「……【嘘偽りなく答えよ。汝は、死ぬために生きているか?】」

「【殺されるために、生まれました】」


 相川の意思とは全く関係なく発された言葉。それは本心から出た言葉であるが、瑠璃の目の前で言うと碌なことにならないため、無意識にも言わないはずだ。しかし、出た。それに相川は驚いた。彼女の普通に使っている術式に対してはほぼ万全の防御策を取ったはずだったのに引き摺り出されたのだ。


(【言霊】の術か! これが、本気の……!)


 相手の術式に驚きつつ、儀式終了後にこの強大な力が手に入る。そう考えると笑えて来て……コトハに睨みつけられた。


「何で笑ってる……! 【汝、運命を変える気はあるか】!」

「【ないです。悪の討伐を以て正義を定義づけるために殺されるこの役を全うします。】」


(……ちょっと、止めてくれないかな? 昨日の今日でまた瑠璃に魅了されたら俺、今回こそ壊れるんだけど。そうなったら面倒なことに……)


 後ろから無言のプレッシャーが迫って来て相川は笑うことしかできない。目の前でコトハが何故か怒っているが瑠璃に何かされるよりかは些細なこと。本気でコトハの怒りどころではないのだ。


「【汝、運命より逃れる術を知っているか?】」

「ッ! 【は……ぃ】……」

「何で……いや、違う。ここで知れたことが、幸運だったんだ……」


 コトハはそう呟き、意志の籠った強い視線を相川に向けた。それを見て相川は嫌な予感を覚え、現在急いで取り掛かっている解呪の術式に生命エネルギーを乗せて急ピッチでそれを終えようとする。


 その前に、コトハは相川に告げた。


「【その術を、我に答えよ】……」

「ぁぐっ【儀式を……」


(それはダメだ!)


 間に合わない。一瞬にも満たない時間でそう判断した相川はその一瞬の間に目を閉じて覚悟を決め、舌を噛み千切った。それでもコトハの問いに対する答えは止まらず、血を噴き出しながら、舌がなく呂律の回らない状態で相川は答える。


「【いひふひあひはへはあひへほほ、へほ】」

「そこまでして……」


 絶対に言わないという相川の気概を見てコトハは酷く悲し気な顔になりつつ肩を落とす。そして彼女の方から術を解いた。そして今度は瑠璃の方から相川にお話があるようで相川は後ろから袖を引かれる。


「……ねぇ、ボクからも色々お話があるんだけど……治療するからちゅーするよ?」

『自分でやる。』


 瑠璃の、相川に対する特効の様々な能力を発動させようとするのを止めて相川は自力で治療をして即座に立て直し、コトハを見下ろした。コトハは暗い顔をした後、俯いていたが再び顔を上げた時には吹っ切れた顔をしていた。


「……何がしたかったんだお前。」

「ちょっと、色々あったのよ。それから瑠璃、後で話があるわ。」

「ボクは仁に用が……」

「その辺のことに関して、よ。」


 なんだか色々と思惑がありそうなコトハ。相川は面倒なことに瑠璃が巻き込まれると自分にも被害が来ると嫌そうな顔をして先手を打った。


「あー、それよりコンテスト勝ち進んでくれたおかげで儀式再開できるから、そっちを先にやる。それで瑠璃は危ないからお留守番ね。嫌そうな顔しない。で、コトハは道案内を頼む。」

「……どこへ?」


 色々と思案すべきことがある中で、現在個人では進められない最優先事項である儀式の話を持ち出されてしまってはコトハに嫌だという選択肢はない。そんな状態で告げられた相川の言葉。しかし、道案内をするにもコトハに儀式のことで相川以上に知っていることなどないはずだ。そう思って相川に訊き直すと相川は笑いながら答えた。


「お前の家だ。殴り込みに行くぞ。」

「……説明を。」

「儀式の一つ、お前の保護者からお前を引き取るだけの力を見せなければならないっての。本来は……まぁいいか。つまり、そういうこと。元々の封印の件でも話はあるしな……」

「殺されるわよ?」


 笑っている相川だが、コトハからすれば自殺しに行くようなものだ。しかし、相川は尚も笑う。しかも今度は先程よりも愉し気で、邪悪だ。


「なぁに、負の原神が少し頑張ってくれたからなんとでもなる。相手が回復する前に急いでいくぞ。」

「……危なくないのね?」

「危ないに決まってんだろ。まぁ死ぬほど、ではないけどな。」


 ならば、いい。そう判断したコトハは瑠璃に目配せをして【言霊】を送り、相川を連れて別世界へと向かうのだった。


「……ボクも「却下~! 瑠璃はるぅねと一緒にお留守番だよ!」……邪魔ぁ!」

「あー! あるじ様に言いつけよーっと!」


 コトハから【言霊】を受け取った瑠璃だったが、相川に先手を打たれていたことでコトハの思い通り、瑠璃のやりたい通りにはいかないようだった。


「う~! 仁が心配じゃないの⁉」

「今回は大丈夫だからね! ダメだったらいつもみたいに見逃してるよ!」

「……何かあったら君は絶対に殺すから……」


 不承不承、引き下がる瑠璃。これで相川とコトハだけで【言霊の一族】が支配する世界へと行くことになるのだった。




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