きょうみない
「ボス……やっと、参加権3つ取れた……」
「3つ? 2つって言ってたはずだけど……まぁいいや、お疲れ。」
相川が瑠璃とコトハとのんびり過ごして親睦を深めていたある日のこと。ようやくミカドから仕事達成の連絡が入り、相川たちは軽く伸びをして動き始めた。
「ぅあ~……っ! やっと、かぁ……ふぅ。」
「瑠璃、せっかく頑張って来てくれたんだからそんな言い方はしないの。ありがとね?」
コトハのお礼の言葉に簡単に顔を赤くしてしまうミカド。そんな単純な自分が恨めしいと思いつつ彼は先に相川に対して疲労のあまりにしてしまった失言に対してどうリカバリーしようか考えていた。
「えぇと、2つでしたね……」
「うん。まぁ君が現地で父親が死に、母親が病気で苦しむ中その治療費を稼ぐために一獲千金を目指している薄幸の美少女たちに対して何とかしたいと思いつつあわよくばという下心を抱き、仕事中にもかかわらず仕事として手に入れたチケットを紳士を装って1枚だけ彼女に渡し、それが終わって慌ててもう1枚獲得した件についてはまぁいいとして……」
物凄い勢いでバレていた。そんな相川の手には相手の状態が表示される【呪式照符】があり、最早隠し事はならないと項垂れつつミカドは告げる。
「あーそうですよ。赤い星と青い星の戦争のせいで父親を失ってしまったサキって子がさぁ、本当に可愛くて可愛くて……気が利く子でさ……笑えよ。」
「いや? 笑わないけど?」
「鏡見てきてくれよ……」
「これはこういう顔だ。」
相川の邪悪な笑みを前にして色々終わった。儚い恋だったなと思いつつミカドは溜息をつく。助けを求めようと瑠璃とコトハの方を見たが彼女たちは既にミカドから興味を失っているらしく、儀式の確認を互いに行っていた。
(……女は恋バナとか好きって言うけど、興味なかったら本当、冷淡だよなぁ……)
その点、サキは……そう考えていると相川の笑顔が更に楽し気になっていた。
「そーかそーか! 愉しくなってきたなぁ!」
「……頼むから、俺の恋路は邪魔していいけどサキの邪魔はしないでくれ……いや、まぁそこの二人がコンテストに出る時点で勝てる可能性はないだろうけど、それでもあいつは本気で頑張ってるんだよ……」
「うんうん。わかってるわかってる。努力がコンテストとして報われなかったとしても俺は見ていたということで努力に報いを与えようっていう考えね? じゃ、もっと本気で頑張ってもらおうか!」
何やらテンションが上がって来たらしい相川は一気に術式を出現させる。彼はテンションが上がると能力も大幅に上昇する不思議生命体なため、この離れ業にも驚くことはないのだが、それだけテンションが高いという現実が突きつけられてミカドは現実の理不尽を嘆いた。
「ねぇねぇ! ちゃんと可愛くするから仁はボクのことちゃんと見ててね! ボク、人に見られるの好きじゃないけど、仁のために頑張るから!」
「……私も人前に出るのは好きじゃないのだけど……まぁ、儀式のためだし……」
「……サキが優勝したら景品だけ渡すから勘弁してほしいとか色々言いたかったんだけどなぁ……」
「楽しくなってきたぁっ!」
それぞれの思惑を乗せたまま、相川たち一行は拠点から出て行くのだった。
そしてコンテスト開始。ミカドは既にコンテストの裏側にある主催側とスポンサーとの癒着などで勝者は既に決まっていることは知っておきながらも相川を連れて関係者席に座っていた。
「……で、どうする気なんです? このままだとコンテストにウチらの関係者は勝てませんけど……」
「ん? 瑠璃を舐めんなよ? 幾ら金を積まれ、人間関係による柵があったところで相手が感情を持っている限り本気出した瑠璃には勝てないし、万一があっても瑠璃にやられた精神でコトハに対抗できるわけもない……ということで、このコンテストの勝ちは決まってる。イコール見る価値はない。さっさと行こうぜ。サキってのはどれ?」
(さらっと惚気られた……)
何をする気かは不明だが、相川には何らかの考えがあるらしい。ミカドは不承不承ながら圧倒的な2人と元々優勝候補だった美女たち、それからそれには劣るが好みによっては……というレベルの美女たちの中で縮こまっている少女を指さした。
「……ん? あれ? あー、こっちか。」
「何だよ、文句あるんですかねぇ? そりゃ美女ばっかりに囲まれたあんたには分からないだろうけどサキだって十二分に可愛いし、なんて言ったって愛嬌もある。」
相川の言葉に不満げにそう返すミカド。しかし、相川の方は大して気にした様子もなく告げた。
「いや、サキってのといつもつるんでる奴がいてそっちも同じような境遇でこれからもっと酷くなるところだったから……そうか、こっちかぁ……じゃあ特に何もしないでも幸せになるかなぁ……」
「じゃあそっとしておいて「それはそれ、これはこれ。」……くそぉ……」
にっこり笑う相川。表情だけ見ると普通だが、そこからは隠し切れない邪気が滲み出ている。ミカドはサキと自分が何をしたって言うんだと思いながら割と思い当たる節があって何も言えない。
「はぁ……それで、何する気なんだ?」
「コンテストはおいておくことにして、手っ取り早いことをやろうと思ってねぇ……」
くすくす笑う相川。そんな折にステージ上から狭域超音波で瑠璃の声が相川に届けられた。
「ちゃんと見てよ!」
顔は笑顔。審査員たちも黙って口を開け、会場から音が消えている中で瑠璃は相川にだけわかるように睨みを利かせ、見事なウォーキング姿で背を向けて戻っていく。会場が爆音に包まれる中で相川は瑠璃のせいで耳から不快な気分にさせられたと睨みつつ同じ技を返した。
「ミカド君の恋路のために離脱しまーす。普通に見て瑠璃さんが一番かわいいので優勝するだろうしね。優勝したら約束守るから頑張って。」
ピクリと自分の出番を終えようとしてる瑠璃の形の良すぎる眉が動き、表面にこそ出さないものの内面で複雑な思いを見せる瑠璃。一番かわいいと言われたことは素直に嬉しいが、ちゃんと見てほしいのだ。
ただ、この場で引くことで瑠璃がコンテスト前に取り決めた相川のできる限りで瑠璃のお願い事を聞くというコンテストに出るための約束に色を付けられる可能性がある。
(う~……でも仁に魅せたいから頑張って人前に……でも、ここで引いた方が色々やってもらえるかもしれないし……)
逡巡すること数秒、瑠璃は相川の出した条件を飲むことにした。それを隣で見ていたコトハも同じく顔に出すことこそないが内心で自嘲げに笑った。
(……私のことは眼中にないのね……確かに、瑠璃は可愛いし魅せる技術もあるけど……)
何らかの指示があるかと【言霊】で相川が何を言っていたのか、ミカドと何を話していたのかということも見ていたコトハは瑠璃と自分を比較して内心でそう呟く。
(この二人の間には信頼関係が……ずっと積み重ねられてきたのね。あんなひねくれ者が誰かを信じるなんて言うようになるまで、瑠璃も大変だったでしょうね……)
瑠璃の言葉を受け、1次審査で落ちたサキをミカドと共に回収しに消えた相川。コトハはその場所に視線を向けたまま、次の審査のために下がる。
コンテストを勝ち抜いたというのに彼女の心は参加前よりも沈んでいた。




