どうするかな
言い忘れてましたが、武術世界の人たちが出て来ます。
「さぁてさて、面倒なことになってきたなぁ……【言霊】の対価としてはちょいと多くない?」
相川は送られてきた資料を基に解決すべき点を考える。正直、問題ごとへの介入までやる必要はないだろう。しかし、相川は今現在特にやらなければならないこともない……わけでもないが、別に後回しにしてもいい問題しかないので今はコトハの問題について考える。
(……あの子、能力が強すぎて父親から封印受けてる。それくらいの認識だったんだけどなぁ……封印だけじゃ済まなかったかぁ……この能力に介入したら俺の方にまでとばっちり来そう……そうなったら排除しないといけないなぁ……あんまり揉めたくないんだけど。)
あまり家庭内の問題に介入したいとは思わない相川だが、度が過ぎていると考える問題に首を捻る。しかしそれでも当人たちが受け入れているのであれば、向こうからこちらへ何かしてくることも。こちらから如何こうすることもないので探りを入れるところから始めなければなるまい。
「特に面白くないしなるべく放置したいなぁ……実験重視で行きたい。」
しかし、そんなことを考えるだけでも言霊使いからすれば思考が見て取れるのだろう。そうなるのであれば相手が勝手に失望して面倒なことを言い出す可能性が高い。
「……能力盗る相手としては面倒過ぎる相手だったかもね。まぁ……それでも特に問題はないんだけど。」
相川はそう言って邪悪に嗤って情報を持ってきた相手に更に指示を下し、本人は何となく気分が乗ったので続いての実験……いや、解決に移ることにした。
「ということで、コトハさん。今からあなたの能力を制御できるように儀式を行いに行きましょう。」
「……は?」
何がということで、なのだろうか。コトハは突然現れてそう言い放った相川を相手に訝しむ視線を向けて……【言霊】が非常に見づらくなっていることに驚いた。
(豪語するだけのことはあるということね……)
無理矢理解放すれば視ることも出来なくはないが、対策をされたことに驚いてコトハは感心する。しかし、それとこれとはまた別問題としてどこに何をしに行くのかがわからない。コトハは相川に尋ねた。
「どこで、何を、誰と、いつ、どうするのか。教えなさい。」
「ま~……場所は聞いたことはあると思うよ。最強の世界を生み出すために原神によって創造され、そしてあまりの不安定さに見捨てられた実験場……」
(……っ! まさか、霊仙大世のこと……⁉)
霊仙大世。上位世界の中でも武術大世、魔導大世らと並ぶ最強の一角である世界。術式無効や応用力の幅では他の世界に劣るも単なる総合戦闘と言う面では群を抜いている。
しかし、それが故に失敗した。かの世界では下級神にも迫るという一般の霊仙たちによる内部紛争が起きてしまいそれを率いる者たちが他の世界を取り込んで暴走してからは見捨てられた世界として崩壊を待つような状態になっているのだ。
その渦中に、目の前の男は行くと言った。しかも、この言霊の姫を捕まえて。鴨が葱を背負って割り下片手にやって来るようなものだ。
「あなた、正気なの?」
「俺にそれを訊くか? まぁ答えるなら正常に異常ってところだが……それはさておき、霊仙大世で儀式とそれの準備を、俺たちと一緒に、今から、キリキリやります。」
質問には答えたが、一部足りていないと思われる部分があるために相川は同行するメンバーをこの場に召喚した。
「んっ!」
「ある へぶっ!」
「ボス! まだ情報出来てないから後でにしてくれ!」
一名の滅世の美少女……艶やかで美しい黒髪に泣き黒子が情欲を掻き立て、一切の無駄のない素晴らしい均整の取れた肢体を濃い藍色のドレスに包んだが最初に。
次に出てきたのは呼び出された瞬間に相川に飛びつこうとして避けられ、軌道を変えて再び襲い掛かってきたため転ばされた恐らく、少女。
そして最後は忙しそうな男の音声だけが届いた。
「……全員は揃ってないけどまぁいいや。」
「む、仁はまたボクの知らない子を引っ掛けようとしてるの……?」
「あるじ様、あるじ様! るぅね呼ばれた瞬間出て来たよ! 褒めて!」
一気に賑やかになるこの場。しかし、当事者であるコトハは相川のことを冷めた目で見ていた。
(そう、この色欲魔は私のことも狙ってるわけね……)
上位世界の神々すらをも魅了してしまうコトハから見ても美しいと思う二人の少女を前にしたコトハの胸中にあるのは結局は、こいつも私の身体を狙っているのかという失望だった。
「ということでコトハさんに魅了されない面子です。はい、最近500回電話をかけて来て無理矢理ついて来ようとしたアホから自己紹介を。」
「⁉」
「遊神 瑠璃だよ。武術大世でそれなりに武術やってて、一応三傑代理って言う称号を貰ってる。好きなタイプは仁で好きな人は仁。そして愛してるのもやっぱり仁で、邪魔する者が大嫌い……あなたの問題はすぐに解決してどこかに行ってもらうから安心してね!」
何だこいつ。コトハは深い洗脳を受けているのではないかと瑠璃のことを疑う目で見るも言霊では少々の変態行為の画策、そしてストーカー紛いのことをやってようやく手伝いと言う形で相川と一緒にいられるという参加の強要を行ったという情報しか入ってこない。その事実に逆に恐ろしさを感じたコトハは能力を発動した。
「【遊神さんの精神に問いかけます、正直に答えなさい。あなたは洗脳されていませんか?】」
「誰に?」
シロだ。封印による副作用の頭痛がするほどの強烈な言霊を使ったが一切の抵抗を感じずに術式は通って即答された。しかし納得がいかない。
「【では、続けて問いかけます。あなたはどうしてそこにいる男性のことを想うのですか?】」
「え? 好きだから。」
「【何故?】」
「好きなのに理由っている?」
瑠璃のことを訝しみながら相川の方を見ていたコトハは何とかして瑠璃を遠ざけようとしている相川の計画が言霊になっているのを確認して思っていた関係と逆……と再び驚くことになる。彼女が驚くことは非常に珍しいことだったが、最早常の物になってきたようだ。
「理由があればそれを壊して行けたんだがね……まぁいい。次、ルーネの自己紹介。」
「るぅねはるぅねです。」
何も伝わってこない。言霊として、音に魂が入っていない。コトハは彼女が機械、もしくは何らかの魔導具であることを悟った……のだが、目の前の彼女が相川に説明になってないだろと突っ込みを入れられて相川の方を見ながら語った時にその理解を覆されることになる。
「あるじ様の特殊魔導機人、るぅねです。基本的にあるじ様以外に興味はないけど命令されたことなら何でも頑張ります。別にどうでもいいけど、あるじ様からの評価されるために覚えててね。」
(……言霊が、ある……)
機械なのは間違いない。ゴーレムであるという特性も混じっているが、生きてはいない。しかしながら彼女は相川に対してのみ生きている。その他の有象無象はすべて些事であり、生きていないが相川だけに傾注して何かを成そうとしている。
「……わかったわ。私は言霊の一族、コトハよ。何が何だか自分でもよくわかっていないけど、これから少しの間、よろしくお願いするわね。」
少なくとも、奇妙な間柄ではあるが自身が危惧しているような一行ではないと判断したコトハは一先ず相川の申し出を受け入れて霊仙大世に行ってみることにした。