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横になったまま

「あー……思ってたより、強かったなー」

「バカね……もう少し私に任せてもよかったのに……」

「まぁ、君に怪我させるわけにもいかなかったからねぇ……」


 【ラツェンツァルの天秤】の終了後、相川は精神体にそれなりの重傷を負わされたことで少々療養期間に入ることになっていた。その看病を請け負っているコトハが冷たく怒りながらベッドの隣に腰掛ける。その距離感を見て室内で二人を見ていた瑠璃が警戒する声音で声をかけた。


「……コトハ、分かってるよね?」

「分かってるから一々確認しなくていいわよ。霊氣に関しては私の方がプロなんだから……」

「そっちもだけど。」

「別方向の心配もいらないから無駄に牽制しないで。」


 少々、距離感が近くなりすぎているのではないだろうか? 瑠璃は近くで見ながら時折注意を促すがコトハは別にそんなこともないだろうと受け流す。正直、この二人は友達という存在がほとんどいなかったため対象との距離感というものをあまり掴めておらず、色々分からない。


「無駄な牽制って……別に、して損するわけじゃないし……」

「煩わしいわ。」

「むー……」


 過干渉の煩わしさに関しては瑠璃もコトハも知っている。両者ともに可愛すぎた過去と、それから絶世を超えるほどの表現を使用する美女である現在を持つので、過度に構われたり激烈なまでに愛されたことも多いのだ。


「あるじ様ー!」

「あ、ルーネ。負の原神が当てもなく暴れ回る可能性が非っっ常に高くなったから諸隊員に敵に傍受されないように直接連絡して世界の狭間とか正の神の領域付近に逃げ込めって言っといて。」

「あ、え? か、看病……」


 そしてこの場に戻って来たるぅね。その手には相川が良くなるように薬を持ってきていたのだが、相川から別の指令が下り困りながら立ち尽くす。相川はそれに対して追い打ちをかけた。


「は?」

「い、行ってきます!」


 威圧するかのような声に驚いて慌てて出て行くるぅね。残された相川とコトハ、そして瑠璃の内、口を開いたのはコトハだった。


「……今のはルーネが可哀想よ。」

「連絡遅れて死んだ奴がいたらそっちの方が可哀想だろ。」

「……それもそうだけど……あの子はあなたを心配して……」

「心配ねぇ……」


 意味深に返す相川だが、そろそろ死にはしないだろうからと立ち上がろうとして……二人に邪魔される。


「何するんだ、とはこっちの台詞だからね? 何しようとしてるのさ。」

「そろそろ活動開始しようかと思ってね……」

「そんなこと言える状態じゃないでしょ? 寝てて。」

「【寝てなさい】」


 瑠璃と口論に発展する相川。ただ、コトハの方は問答無用で相川を眠りに就かせようとしばしの無言で【言霊】の力を溜めて眠ることを命じる。真っ向から抗うには少々弱り過ぎていることを自覚している相川はその言葉を曲解し【眠る】ではなく【横になる】という意味に捻じ曲げて受けることで何とか意識を保った。


「あー……コトハさんさぁ、誰の依頼で今俺が動いてるのか知ってるわけ?」

「そんなに無理されても困るわよ。それとも、居ても立っても居られない程私のことが好き?」

「ハッハ……そうだな。大好きだわ。だから退け。」


 相川の軽口。すぐに反論が来るか失笑が来るだろうと思っていたが、何故か沈黙が場を占めて相川は微妙な感じで毛布を顔の付近まで持って行きたくなった。


「……大好きとか、ボク言われたことないのに……」

「……そういう軽い言葉は感心しないわ。」

「あー死にてぇ……今すぐ無茶して死にたい気分だ。なーんでそっちは好き勝手言えるのにこっちはダメなんでしょうねぇ? やっぱ顔か? あぁん? 誰の顔が犯罪者だ。」

「言ってないわよ……」

「ボクに好きって言ってないから、ちゃんと言うべきだと思う。冗談めかしてでもいいから。」


 熱が移されたかのように顔を背けるコトハとマイペースに相川に愛の言葉を求める瑠璃。相川は何かむしゃくしゃして来たので憮然とし……電話が鳴った。


「……あ、負の原神だ。二人とも絶対黙ってるように。じゃないと俺が死ぬ。コトハは……」

「わかってるわ。」


 【言霊】でのサポートだと勝手に判断したコトハは頷き、相川はなんかこのままだと勝手に通話開始になりそうだと電話に出た。


『オイオイオイ、どこにも女がいねぇんだけど! お前、本当に送ったのか⁉ あぁん⁉』

「転送陣は見たでしょうに……で、全部の相手をちゃんと倒して確認したんですか?」

『テメェの元部下たちが言ってた分は大体……まぁ、流石に第一世界の正の神々のトップ層には手を出してないけど……』


 その言葉を聞いて相川は勝手に自分の敵を処理してくれた負の原神君を便利な存在だなぁと思った。そんな便利君をもっと活用するために相川はベッドで横になったまま告げる。


「でも、そちらが要求して来た相手は第一世界の正の神々のトップなんですから、普通に考えてそれを横から誘拐できるとすれば……」

『そうだ、そもそも俺は存在値と顔だけで奴隷に欲しいって思ったんだけど……お前、あいつらをどこから連れて来たんだ?』

「え? 第一世界、【言霊の一族】の神一族であるメイリダ家の本家ですけど?」

『……は? お前、そりゃ、横取りされるよ……えぇ……俺そこに殴り込みしに行かなきゃいけないわけ? いや、それだけの価値はあると思うけどさぁ……』


 電話先の相手は思案しているようだ。コトハとしては負の原神が1柱くらい相手でも家は持つだろうし、最悪の場合は正の原神を呼べばどうにでもなると別に何も言わない。


『んー……お前、どうやって盗ったの?』

「パーティ会場で。」

『……そうか。あー……まぁ、仕方ないか……行くかな……分かったよ。で、もう一人の方は?』

「武術大世。活神拳総本山【飛燕山】の宗主、遊神一の家からちょいと。」

『あー……そっちは、もう無理だなぁ……流石に正の原神に近すぎる……チッ。一匹はもう正の原神の閨に盗られちゃったか……』


 残念そうにそう告げた負の原神、ドエスノ。最初から敵意マックスで攻め込むことになるだろうと予測して相川はこいつ本当に便利だなぁと思いつつ少し前のドエスノの言動から好みそうな言葉を使って適当に煽る。


「まぁでも奴隷にする気なら心を折るんでしょうし、心の拠り所がない方が調教しやすいんじゃないですかね?」

『んーそれもそうか……分かった。じゃあ行ってくる。』

「はーい、行ってらっしゃいませ。」


 通話終了。これで、この後の儀式の一つがまた楽になったと相川はホクホク顔で電話を切って呆れ顔のコトハと目が合った。


「何?」

「……あなた……はぁ、色々言いたいことはあるけどまぁいいわ。普通、私の家族を襲うように目の前で勧めるかしら……」

「別にお前、奴ら嫌いじゃん。割といなくなればいいのにって思ってただろうに。」

「今は別にそんなこと思ってないわよ……」

「今はって言ってる辺り、コトハも闇が深いね。」


 瑠璃さんが楽し気に、しかし目は笑っていない状態でコトハを見て笑う。相川との距離の近さに警戒度が高まっているのだ。そんな両者の水面下のやり取りには気付いていない相川は呑気に欠伸をする。


「はぁ……あー、多分あの負の原神じゃコトハの家は落とせないから別に安心しろ。ああいう馬鹿は術者相手じゃカモだ。それに、キャシーさんの呪いにも気付いてないっぽいし……」

「それ、本当に原神なの?」


 原神という存在を知るコトハから疑問の声が上がる。しかし、相川は笑いながら答えた。


「正の原神と違って負の原神は負け続ける運命にあるから割とたくさんいて、原神という信仰のリソースが分割されてるからねぇ……薄いのも仕方ない。」

「……そういうものなのね……」


 納得していただけたようで何よりだ。そう告げた相川はこれでこの携帯電話で負の原神とやり取りするのは最後であるとして様々な術式のオプションを掛けて急いで看病するために戻ってきたるぅねに遥か彼方まで持って行かせるように命じる。

 そして、るぅねが遠方のリストアップをしている内に相川は携帯電話を更に遠方に飛ぶように仕掛けを施し、少しだけ笑える仕掛けとそれを幾重にも張り巡らせたダミーとミスリードのトラップをつけて送り出し、そして次の儀式をするために横になるのだった。




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