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方針会議

 ルーネの話を聞いた翌日。コトハは目を覚まして整理された頭で少し思うところがあった。


(精神年齢5歳までが保護対象……じゃあ、私は何で?)


 相川がルーネにしていた所業を思い出し、そしてルーネがコトハに話したことからコトハは相川が何故自分の問題を特に何の見返りも求めずに手助けしているのかと少々考えていたのだ。


(まさか、私のことを狙っているとか……?)


 一番コトハにとって分かりやすく、説明がつくことは相川がコトハを好きになって振り向いてもらうために努力しているという案。少々、脳内ピンク組の相川のお供に毒されているのかもしれない。

 だが、コトハは自らの美貌を正確に理解していたしその権能も能力も超一級。性格も少し直情的なところもあるが正の神としてまだ常識的な範囲にある。負の存在である相川が憧れて惚れた可能性も……


「ないない……」


 普通に考えてなさそうだ。しかし、仮にそうであったとすればどうだろうか。


(……立場としては、一応複数の世界持ち。収入もこの世界に来て言っていたしょぼい稼ぎ方はしていないとのことだからまず問題なし……顔、良くはないけど悪いと言う訳でも……家庭を持ったとして、家事スキルは万能。特に、料理は特筆出来て……子育てに関してもルーネと瑠璃の話を聞く限りじゃ……)


 いけない。何だか肯定的な意見を集めている気がする。欠点を探さなければならない。コトハの妥協できないポイントは何だろうか。生まれてこの方、親の命令で政略結婚するという考えしか持っていなかったのにここに来て毒されてか、今では真っ当な恋愛が出来ると思ってしまい……考えてしまう。


(そうね……そもそも、会話が出来てるのが凄いことよね……【言霊】の力を制御出来て、全てを曝け出す心配もない……多くを敵に回してでも私のことを考えてくれる。頼り甲斐も……って。)


「違うわ。何を自分を納得させようと……」


 コトハは思考が傾きかけていることに気付いて眉をひそめる。そうじゃない。自分はそちらに向かおうという考えを持っていたわけではないのだ。そもそも、何でこんな考えを……


「そう。ルーネの昨日の話よ。それを思い出せば簡単じゃない。あれは、性格が悪いわ。その他のすべてのメリットが台無しね。」


 ようやく納得いく結果が出てコトハは笑顔で頷いた。それからしばらくして瑠璃が朝食のためにコトハを呼びに来るが、その時には今考えていたことは朝の寝ぼけた頭が適当な考えをしただけだと切り捨て、今日も儀式のために頑張ろうと意気込むのだった。










「……まだか。」


 コトハが儀式について考え、朝食を取りに部屋を出ていたころ。相川はミカドがまだ準備できていないことを報告で知り、儀式を別のモノから熟すことに決めた。


「よし、ラツェンツァルの天秤を先にするか。」


 ということで、今日も元気に相川は儀式に取り組むのだった。そのために、まずは何となく気が向いたので部屋の前の廊下を爆破してみることにする。


「他の面子は起きたかな? じゃ、行こう行こう。」

「あるじ様ーっ! だいじょぶ?」


 爆破で最初に飛んできたのはるぅねだった。そして元気な彼女が相川に飛びついて至近距離で様々な分析を開始したのを見て相川はさっそく徒労感に襲われ、やる気をなくす。


「……メンテが終わるとメンテが始まるとはよく言ったものだ……」

「えー? ちゃんとるぅね強くなってるよ?」

「そっちの心配はしてねぇよ……まぁいいやもう……時間もないし……」


 精神退行のバグに対する処理は行ったはずだ。感情制御もしっかりとやったのに今回は一晩すら持たなかったという事実に相川は溜息をついて廊下を進み、リビングに出る。


「おはよ!」

「よぉ……」

「朝から元気ね……」

「今の挨拶聞いてそう思うか……」


 リビングでは瑠璃とコトハが朝食をとっていた。相川はコトハが自力で相川におんぶを強制し、首の辺りで頭をひょこひょこさせているるぅねにやたらと視線を向けていることに気付いてふと尋ねる。


「何だ? ルーネが欲しいとか?」

「ダメ!」

「……そんな酷い真似できないわよ……あのね、ルーネちゃんにも心がちゃんとあるんだからきちんと尊重してあげなさい。そもそも……」

「【自聴他黙】」


 自分よりずいぶんと元気そうじゃないかと思いつつ、相川は朝から謎の説教を始めようとしたコトハに術を掛けてるぅねが勝手に並べた食事に手を付けた。


(……毒入ってねぇ……まぁ今朝までのつもりだったからどっちでもいいけど……)


 アップデートした内容がさっそく消えていることに気付いた相川だが、どちらにせよ明日からは毒抜きにするつもりだったので予定が一日早まっただけだと切り替え、ついでに食事を作り、今日は毒入れなくても大丈夫なの? と期待に目を輝かせているるぅねに声をかけておいた。


「あ、今日からしばらくは毒入れないで。残念かもしれないけど。」

「やったぁ! 元気にご飯いっぱい食べてね! るぅね頑張るよ!」

「……どうしたの? ずっとそうしてくれれば嬉しいんだけど、もしかして体調悪いとかあって……」


 相川の宣言に飛び上がって喜ぶるぅねと嬉しいには嬉しいが何か裏はないかと探る瑠璃。相川は何でもないことの様に返した。


「まぁ、体の中に毒が入って苦しんでる状態だと負ける可能性がある敵が来るから……」

「……毒食べないのはいいことだけど……何かなぁ……」


 毒を食べないことは嬉しいが、それ以上の危険が迫り来る状態にあることを訊かされて複雑そうな顔をする瑠璃。正直、毒も敵も嫌だ。敵が来なければ一番いいと瑠璃は思いつつ七味をまぶし、醤油を少し垂らした白菜の漬物で巻いたご飯を食べる。

 そんなやり取りを見ていて自分の声が相手に届いていないという現実を【言霊】によって知ったコトハが自力で術を解いて相川に声をかけた。


「……聞いてなかったわね? 何なのあの術式……もう一度始めるわ。」

「【自聴他黙】」


 何が何でも説教をする気概に溢れているらしいコトハの意気ごみを破壊しながら相川は今日はご飯の朝食をいただき、欠伸をする。その様子をずっと見ていた瑠璃が尋ねた。


「眠いの? 何してたの?」

「んー? まぁ、敵さんがブチ切れるから本町からの撤退をね……あ、瑠璃には言ってなかったけどある奴との戦いに先駆けてこっちの元味方の6割くらいが裏切って、2割が様子見で中立に入った。今なら武術大世に戻れるから「ボクは仁がいいって言う限りは仁と一緒。」……そう。」


 自分の味方は2割しか残っていないという事実をさらりと告げる相川。それを気にもしていないことが少しだけ今いる味方にとって心のしこりとなる。


「で、瑠璃さんがこっちについてくれるのは嬉しいんだが撤退できなくなった。本拠地は……まぁあそこは大丈夫だけど、瑠璃さんが戻るはずだった予定地は敵にバレてるからね。」

「大丈夫。仁は負けないし、万が一のことがあったら心中する。」

「……まぁ俺が死んだ時までの責任は持てないから何とも言えんが……出来る限り死なないで将来に生きてほしいなぁ……」


 凄まじく説得力のないセリフを言いつつ相川は近い将来に迫り来る敵についての話を切り上げ、これから今日やることについて言及することにした。


「じゃあコトハ、俺と君は朝食終了後、儀式のため殺し合いに行くぞ。瑠璃とルーネは留守番。」

「……ついていけない?」

「ダメ。」

「はーい……」


 周囲が敵だらけになった今、ゴネなくとも強制送還はないと分かった瑠璃は聞き分けの良さを発揮し、るぅねと一緒に自宅で何かをすることに決めた。


 その間、お説教しているつもりで術式を掛けられ、会話についてくることが出来ていなかったコトハには食事後再び説明が必要になるのだった。




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