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行き交う情報

「おかえり……ベッドが何か爆発したんだけど。」

「気のせいだ。」


 拠点に戻ってきた相川が自身の部屋に降り立つとベッドがあった場所に身だしなみを整えてから正座している瑠璃に出迎えられた。それに対して相川は適当なことを言うと部屋を後にする。瑠璃の方もそれ以上深くは追及せずに忙しなくし始めた相川の後ろについて来た。


「ねーどうしたの? 何か忙しそうだけど……」

「ちょっと嫌な奴に目をつけられた。瑠璃には次の儀式が終わったら元の世界に戻ってもらうぞ?」


 断定的な相川の言葉。どうやらあまりいい状況ではないらしい。瑠璃は出来る限り相川と一緒に居たかったが、断腸の思いで相川に尋ねる。


「……負担になる?」

「負担というより、面倒な奴が来る目印になる。本町の方に飛ばせばあそこはかなり特殊にしてあるからなんとでもなるが……」

「そっか……じゃあ、仕方ないね……」


 本当に残念そうにそう告げる瑠璃。並大抵の男であればその表情だけで自らの意思を折られるものだが相川の場合は見ることすらしない。粛々とキッチンに移動して食事を準備するだけだ。


「何かあったらすぐに連絡してね? ボクが知らないところで危ないことしないでよ?」

「……別に危ないことしたくてしてるわけじゃないんだが。おら、出来たから食え。」


 ほんのわずかな一瞬だけあらゆるものを蒸発させる魔炎を出して調理を終了する相川。トーストの一部分だけあまりの熱に消し飛んで少しだけくぼみが出来ているがそれ以外は特段変わりのない食事だ。


「いただきます……それで、お願いだからね? 自分だけは守り抜いてね?」

「嫌だ。いただきます。瑠璃、これ以上鬱陶しいこと言わないでくれる? いい加減殺すよ?」

「……何でさ。ボク、何か間違えたこと言ってる?」

「うん。俺は、殺されるために作られた敵だ。悪は滅びなければならない。」


 瑠璃にはその理論が一切理解できなかった。感情的に死んでほしくないということもそうだが、過去、何度か説明を受けたが殺されるために生まれて来たということに対して相川が受け入れていることが不自然で、理論的におかしいとしか感じなかったのだ。


「意味わかんない……」

「まぁ、だろうね。この感覚は生きるために生まれて来た正の存在には分からんだろ。特に、瑠璃みたいな純粋な存在にはねー」


 暗に自分とは異なる生物であるということを仄めかされて瑠璃は無言で機嫌を悪くする。だが、現時点で死ぬ気はないからこそ準備をしていると見受けられ、その死なないための準備に自分は邪魔だという判断を下されたのだから瑠璃に抗う理由もない。


「……一応、今回は、死なないように頑張るんだよね……?」

「まぁね。基本的には戦わない方向で進めて普通にする。で、戦わないためには発見されなければいいからお前を置いて行くと決めてる。ま、仮に戦いになったとしても相手は原神の一つとはいえ、負の、正に負け続けることを定められた存在だ。そんな輩に負けるようなら世界の敵失格よ。」


 軽く笑いながら相川はそう告げる。瑠璃は出来れば見つかってほしくないなと思いながらその一時の別れの前に自身がやることを尋ねた。それに、相川は軽く答える。


「何、ちょっとコンテストで優勝して宝石を手に入れて来てほしいだけだ。……尤も、まだ時間はあるから多少はここでゆっくりしていってもらうがね。」

「……イチャイチャはしていいの?」

「節度を弁えろ。」


 拒絶の意で相川は瑠璃にそう伝えた。だが瑠璃は節度を弁えればいいという許可として受け取り、食後の時間は砂糖なしでも甘ったるいブレイクタイムを過ごすことになった。






「はい、るぅねだよ。」


 その頃、コトハを鍛えるという名目で別世界で鍛錬をしていたるぅねはコトハの成長具合にもうそろそろいいかな、と思いつつ電話を受けていた。


『ノアです。先日は仁さんの匂い薬でお世話になりました。』

「……あぁ、あの変態さん。何か変な音が混ざってるけど大丈夫? どうしたの?」


 相手は結構な奇人変人揃いの相川の身内の中でもるぅねが変態として記憶していられる程に変わった存在であるノアだ。因みに現在、お仕置きの真っ最中でもある。


『はい。視姦プレイかと思ってたら放置プレイで少々がっかりしてるだけで大丈夫ですよぉ……』

「……? もしかしてあるじ様が作った精神崩壊グッズ着てる?」


 るぅねは「少々行き過ぎだよな……」と呟き、「これ以上何かやらかした場合はこれでもつけるか。」と実験室で拷問器具を作っていた相川の姿を思い出してそう告げるとノアからはいい返事が帰って来た。


『恐らく、そうですねぇ……後で感想をお届けしないといけないんですが……正直、仁さんに特訓してもらった時の方が刺激は強かったかなぁと……』

「伝えとくね? で、用はそれだけ?」


 神堕しの儀で使われるA級の禁止器具なんだけどなぁ。とるぅねは器具のことを思い出してメモを取るが肝心の用件はそんなのんびりとしていられるものではなかった。


『負の原神が、仁さんを……正確には言霊の姫と武術美姫を狙って動き始めました。』

「……いつ?」

『正確な時は不明ですが、少なくとも半日前からは……』

「急がないとダメか……」


 その少ない情報でるぅねは自分がやらなければならないことを理解して即座に動き始める。忙しいことを理解したるぅねはそのまま電話を切り、トレーニング中のコトハへ叫んだ。


「ごめんねー! あるじ様と、後ついでに皆が危なくなるからトレーニングキツくして、スピード上げるねー!」

「え、何? ちょっと説め……」


 説明なしでいきなり特訓のテンポを上げられてコトハは戸惑いながらもそれに適応しようと頑張る。彼女の基礎能力は相当高いため、基本的に扱っている特訓の科目は「現状把握と対処」のみ。それだけであれば今日中にはドーピングと回復薬漬けで何とか仕上げることが出来る。


 るぅねはこの特訓中にコトハと築き上げてきた信頼関係を犠牲にして急いで仕上げに入った。










「……ふーん。この世界にいるらしいなぁ~……でも、あっちに気配があるんだけど……」


 草原の中。黄色の髪をした小さな少年がそう呟く。その姿はどこからどう見ても恐ろしい程の美貌を持ちながらも、どうにも素直に美しいとは思えない不思議な存在であった。


「……で、この場の記憶を読み取る限り。邪魔臭いゴミと美女2柱。邪魔はこの辺の小物相手に手古摺るようなレベルで、美女はもう見ただけで僕の息子が喚起して涙を零すくらいの美女。是非とも性奴隷にしたいなぁ……いや、する。」


 子どもの体躯には似合わない台詞を吐きつつ、決意したようにそう呟いて立ち上がる。その後ろでは半透明なモニターの中で相川が白いマンティコアの突進を躱し、胴に攻撃を入れようとして尻尾の毒針に刺されているところだった。


 そして、少年の目の前にいるのも白いマンティコアであり……今正しく突進してくるところだ。それを、少年は片手で真正面から受け止めて獰猛に笑う。


「雑ッッッ魚ッ! アハハッ、ァハハハ……アハハハハヒャァッハハハハ!」


 押すことも逃げることもかなわず、起死回生とばかりに尻尾の毒針を繰り出し、毒を噴出しようとするマンティコア。だが、その前にマンティコアの身体は縦に真っ二つになっていた。


「……ま、実験実験。面倒そうな男の心を折るにはどうしよーかなー? ついでにあっちのキマイラでも丸焼きにして手土産に持って行ってみようかな! ククククク……ヒャァッハハハハハハハ!」


 彼、負の原神が1柱ドエスノの哄笑の後、この地より一切の動物が消え去り、後に残るは何も喋らない草木のみとなった。




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