出会い
彼女の持つ力は強大過ぎた。そのため、彼女は常に孤独だった。
彼女の世界は彼女の父により支配されていた。だが、その父親も自分を越える才能を持つ彼女を疎んじていた。そのため、彼女に与えられた場所は存在しなかった。
彼女の力は【言霊】。言葉にしたこと―――いや、漂っている言葉すらをも操り、それを実現させ、全てを思うがままに操る力。
そんな彼女は父親に命じられたままに向かったパーティーである男と出会う―――――
「おぉ、あれがコトハ・ユノ・メイリダ様……」
「なんと美しい……」
父に命じられたパーティ会場には大勢の男神たちがいた。そのどれもが正統な神々であり、私の将来の夫候補である。しかし、私には誰がどう違うのかもよく分からない。そして、感情を動かさぬように厳命されている身としてはそれでよく、それがいい。
しかし、こういった埒外はご免蒙りたいところである。私は今、パーティ会場の男たち全員から狙われているようだ。宙に浮く言霊が私にそれを知らせてくれる。
このようなことは割とよくあることだった。神々と言えども、私の力に抗えるものはそうはいないらしく、魅了してしまって理性を飛ばしてしまうことは不可抗力だ。尤も、それを受け入れるわけはないが。
なるべく私の力を使わずに済むように、私は【言霊】を用いて助けを呼ぶ。能力を使用する前に少し発生準備をすることで普段使わない喉が喜びの声を上げ、周囲をより一層魅了したようだがどうでもいい。私が願えば助けは来るのだ。
「……誰か、助けて……」
「はい、らっしゃぁい! 能力譲渡で何でも解決! 世界の怨敵、相川くん参上ですよ!」
……思ったよりハイテンションな男が来た。黒髪に死んだような黒い目……これは……!
「珍しい目をしてるのね……? 【教えてくれる】?」
「っ! …………」
あら、私の言葉に抗えるのかしら……? 何やら考えてるみたいだけど……
「この目は大量の術式を宿したことでこんな感じになった。その所為で視力も下がったから焦点が合い辛くなって瞳孔が開いてるからこんな感じ……それは兎も角、相当強力な言霊使いか……」
「えぇ……【周囲の男たちを倒して、私を安全な場所に運んで】」
さぁ、これ以上は喋らせないで。世界の秩序が乱れるかもしれないから……
「んー……この状態がどういう状態なのか良く分からんのだが倒していい物か……」
相川は困っていた。目の前の陰気な少女は命令的なので助ける気にならないのだ。しかも命令を拒否したら驚かれている。
「ねぇ……」
「まぁ報酬の話から。あなたの能力を解析して俺が使うけどいい?」
「……えっ? そんなの、【出来るわけないじゃない】」
相川は頭蓋を割られる位の衝撃で頭を殴られた気がした。そして苦々しく応える。
「……言霊使いか。かなり強烈な……! 【出来るに決まってる】」
今度は少女が驚く番だった。まさか、意図した発言ではない物で、力を込めていなかったとしても抵抗されるとは思っていなかったのだ。対する男は笑っている。
「いいねぇいいねぇ。良い能力だ。ん? 精神の揺れでも世界がズレるのか。楽しいじゃねぇか。」
「どこが楽しいのよ……!」
吐き捨てるように少女が言うと相川は歪んだ笑みを殊更歪めて告げた。
「興味深い能力、それ即ち面白い能力だ。解析して使いこなせば運命だって変えられる。」
相川は適当な発言のつもりで言ったのだろうが、コトハからすればそれは心動かされる言葉だった。諦めていた運命、所詮今の発言も戯言。今まで幾度も変えられなかった運命を何故この男が変えられると言えるのだろうか。無理に決まっている。
そう、思ってしまえば世界はそうなってしまう。それが彼女の宿命。それでも彼女は問いかけざるを得なかった。
「あなたは私の運命を変える自信はあるの?」
「はぁ? 何で俺があんたの運命を変えねばならんのだ。そんなもん運命神に頼めよ。」
「やはり、無理なのね……」
その言葉は周囲に強制力を働かせる。目の前の男も顔を顰め「ドレインキューブ・セオイアル」いや、笑っている。
「……上等だなテメェ。喧嘩売ってんなら買うが? 運命変えてやろうじゃねぇか。お代はその能力の実施権だな。」
「やれるものならやってみて。」
軽い口約束。今まで誰も叶えられなかった彼女の望み。しかし、彼女の時は彼との出会いによって今動き出した。