Pudding Detective Show!
がらりと扉を開けて、中を確認。中村、細木、重島。古代文明研究同好会の全員がそろっている。テーブルを挟んで、お茶を飲んで。楽しく談笑中。
犯人はこの中にいる。
あたしは叫んだ。
「あたしのプリン食べたの誰だー!」
プリン。
甘くて少しほろ苦い、究極にして至高の洋菓子だ。それを食べる子供たちには笑顔が咲き乱れ、大人は世の苦痛を全て忘れ、地には花が咲き乱れて、小鳥が歌う。人類の生み出した文化の究極系だ。
いや、言いすぎだけど。
それはさておき、そのプリンが。それも朝から百貨店に三十分並んで手に入れた、名店のパティシエが自信を持っておすすめするイングランド風プディング一個五百七十円(税込み)が。学校に来て部室の冷蔵庫に入れた後、楽しみで楽しみで全ての講義をまったく聴けなかったほどのそれが。
あたしのプリンが。
消え去っているのだ! しかもご丁寧に容器は残して! 「美味しくいただきました」ってことか? ふざけんな! 超ガッデム! 人類滅びろ!
と、あたしの当然至極正当なる論理を容疑者三人に叫ぶ。
中村、細木、重島は呆気にとられた顔。まあ、それもそうか。こんなこといきなり言われたら、あたしだって引く。むしろ排斥だ。村八分だ。
だが、問題はそんなことなどではない。プリンだ。それも五百七十円もの想いが込められた、言うならばプディングなのだ。
笑って許すなど、できるはずもない。
一人ずつ尋問して、とっちめてやる。
「中村、あんた、いつここに来たの?」
「んー……今日は昼ごはんのとき」
中村利恵。いつも髪を適当に縛って、適当な服を着ているようにしか見えないのに、元がいいため絶対にさまになってしまう、朝洗面所を一時間は離れられない女性の敵。つまりあたしの敵。マイエネミー。
中村によると、彼女が今日ここにいたのは昼休みのときだけらしい。
ちなみにあたしは今日は朝冷蔵庫にプリンを入れた後、四時ごろに一度きただけだ。そのときプリンがないのは確認した。泣きそうだ。その場に一人残ってた重島に無視されたけど。完璧に。鉄の女め。
……あたしのプリン。
「…………」
「どうしたの? 何か黄門さまに見つかった強欲な悪代官みたいな顔してるけど」
「うるさい。昼のとき、誰かプリンを食べてたりしなかった?」
「うん。食べてたよ」
「……本当?」
「うん。重ちゃんが。でも、山ちーが言うような立派なプリンには見えなかったけどなあ……」
「山ちー言うな。とにかく、重島に聞いてみる」
「頑張ってね。……そういえば、プリン食べた娘が見つかったら、どうするの?」
「しめる」
「…………」
「その後弁償させてから、プリンの大切さについて延々と説教してやる」
「…………」
「あたしのプリンを食べたんだ。当然でしょ?」
「……頑張ってね」
「おう」
「お前がやったんだな、重島?」
「はあ?」
重島恵理子。さらさらの長い髪を持った、洗面所仲間の一人。仲間とはいえその長髪は羨ましくて仕方がないのでやっぱりマイエネミー。……わかめか何かを食べたら、ああなれるのかなあ?
「……何よ」
「だから、プリン。あたしが楽しみに楽しみに、田沼に睨まれながらもるんるん気分で取っといた、シェフのおすすめプディング! 食べたでしょ」
「いや、あんたがそういうヤツってのは分かってたんだけどさあ……。まあいいわ。それで、なんでそうなるの?」
「昼休み、中村、食べた言った」
「単語の会話はやめて。こっちの頭まで悪くなる。まあ、確かに昼休みだか放課後だかに、プリンは食べたんだけど……」
「むきー!」
「安易にそういう漫画的表現はやめなさい。品格がないから」
「メタなこと口走ってってんじゃないわよ! あたしのプディングと五百七十円返してよ!」
「……微妙にせこいわね。つーか、わたしが食べたのはそこらのコンビにで売ってる百円のであって、そんな大層なのじゃないんだけど。しかも、わたしが買ったものだけしか食べてないし」
「この世のプリンはあたしのもんだ」
「落ち着け。引くから」
「…………。じゃあ、重島は本当にあたしのプリンは食べてないの?」
「あんたのプリンとやらがどういうのだったかすら知らないわよ」
「嘘でしょ」
「なんでよ」
「あんたはそういう嘘を意味なく吐く女だ!」
「馬鹿言ってんじゃないわよ阿呆」
「それ救いようがないじゃない!」
「あんたは救いようがないのよ」
「むきー!」
「で、細木。あんたは?」
「……せめてちゃんと質問して欲しいんだけど」
細木裕子。仲間内での通称は数子。数子と呼べば本気で嫌がるので、たまにしか呼べない悲しいあだ名だ。こいつはもともと綺麗な髪をしていたのに、ある日いきなり染めやがった。しかも似合ってる。マイエネミー。これで古代文明研究同好会は三国志状態に陥った訳だ。ちなみにあたしの立ち位置は黄巾党。……あれー?
「私がいつここにいたかってんなら、昼休みから三時半くらいにかけてだけど?」
「げ。超能力」
「あなたがさっきから喚いてたからね。煩かった。で、私も容疑者なわけね」
「話が早いわね。ん、すると昼休みにはあたし以外三人ともここにいたのね」
「そうなるわね。やーい、嫌われ者」
「うるさい。で、中村が昼休みだけで、重島とあんたは昼休みから三時半までいて、あんたが三時半からいなくなった?」
「少し違う。重島は昼休みが終わって出て行った。それで三時半頃に戻ってきたの」
「ふうん……。じゃ、あんたは一時ごろから三時半くらいまでここで一人?」
「そうなるね」
「お前がやったんだな!」
「うるさい」
「お前がやったんだろ!」
「……なんでよ」
「だって、あんたにだけ一時間の間完全にアリバイがないじゃない。あたし的には完全にあんたがやったと思うんだけど」
「暴力刑事。大体、他の娘が嘘ついてるかもしれないじゃない」
「大方の場合において一番怪しいのが犯人でいいのよ!」
「何観たの?」
「コロンボ」
「……せめて私の自白を誘ってから、そういうことは言って」
「じゃあ自白して」
「馬鹿」
「…………」
「大馬鹿」
「むきー!」
「あのね、確かに私はアリバイがない。でも、それだって他の娘が言ってることが全部本当だって前提があってのことでしょ? 悪いのだけれど、それじゃあ自白はできない」
「……むう」
「大体、プリンなら重島が食べてたわよ」
「それは聞いた。昼休みに百円プリンでしょ?」
「あれ? 私は三時半頃に食べてるのを見たけど?」
「え?」
「冷蔵庫に入れっぱなしにしてたから、出してあげたの。昼食べたとか言ってたけど、ほら、あの娘よく色々忘れるでしょ。だから食べた気になってただけだと思って……」
「…………」
結局、犯人は分からずに、あたしは家に帰った。正直言ってプリンは泣くほど惜しいが、なんというか、話をしているうちに色々どうでもよくなってしまったのだ。
まあ、誰が犯人でも、食べたかったんなら、それでいっか。明日はまた、別のプリンを買っていこう。
ただ、彼女らの意見で気になるところがないでもない。
彼女らの言ったことが全て本当だったとして、なぜ重島は昼休みと三時半にプリンを一個ずつ食べたのか。もし、そのうち片方があたしのプリンだったとして、重島はプリンは百円のものしか食べなかったといった。だとすればそれが嘘になる。
だったら、中村か細木が嘘を言ったとして、それはなぜだろうか。彼女らにそんなことを言うメリットはないように思える。
時間的に食べることが可能なのは細木しかいない。だったら彼女は重島に罪を擦り付けるためにあんなことを言ったのか。
だが、細木はあたしがすでに重島に話を聞いた後だということを知っていた。それはあまりにリスクが大きいだろう。
結局、誰も嘘をつく必要なんてないのだ。いや、違う。あたしが、誰かが嘘をついているなんて思いたくないのだ。あたしは彼女達全員が間違いなく本当のことを言ったって、妄信している。そこを疑おうとすらしない。
……いつのまに、こんな仲間思いになってしまったのやら。まさかプリンよりも、人間を取る日が来ようなんて、びっくりだ。
結局のところ、誰かが嘘を吐き、誰かが真相を吐いているんだろう。そうでもないと、頭の悪いあたしにはこの事件(というほどでもないが)の真相など、とてもわかりそうにない。
それに、もう真相なんてどうでもいいのかもしれない。理由はよく分からないけれど。
まあ、所詮あたしはしがない女学生。考えたところで分かるはずもない。
そういうのは、好きな人間に任せておけばいいのだ。あたしは本も読まない。映画と海外ドラマは好きだが、ミステリはそんなでもないのだ。
もう寝よう。
これで今日のあたしの役回りは終わりだ。明日からはまたいつもどおりの日常がまっている。
プリンは本当に悔しいけれど。
あたしの出番はこれでおしまい。
「もしもし。中村ですが」
「ああ、理恵。どうしたの?」
「あ、細ちゃん。こんばんは」
「はいはい今晩は。珍しいじゃない、こんな夜中に」
「うん、夜分遅くにごめんね。ただ、話しておきたいことがあって」
「うん。どうしたの」
「えっとね、本当にまったくの想像だから、間違ってたらごめんね。ただ、プリン食べたの、細ちゃんでしょ」
「…………」
「だってさ。やっぱり細ちゃんしかできないんだよ。わたしは皆が嘘ついてるようには思えないし、思いたくないし。皆本当のこと言ってるって思うんだったら、細ちゃんがやったとしか考えられないんだよ」
「……ふうん。それは、私にアリバイがないから?」
「うん。なんといってもそれが一番。後、わたしは昼休みに重ちゃんが百円のプリンを食べてるのを見たから」
「ああ、そういやそうだったわね。でも、それが理由になるの?」
「うん。わたしはね、重ちゃんが三時半にもう一個プリンを食べたのも本当だと思ってるんだ。で、重ちゃんが百円プリンしか食べてないってのも本当」
「矛盾するわね。重島は何回も同じプリンを食べたの?」
「だから。山ちーにそう思わせようと思って、細ちゃんが新しいのを買ってきてたんでしょ?」
「…………」
「細ちゃんが山ちーのプリンを食べるためにしたのは、こういうこと。多分思いついたのは、昼休みに重ちゃんがプリンを食べてるのを見て、なんだと思う。
それで細ちゃんはわたしと重ちゃんが授業に行った後、コンビニで重ちゃんが食べてたのと同じプリンを買ってきた。このときにはもう山ちーのプリンは食べ終わっちゃったのかな。
ううん、きっとプリンを買ってきた後に食べたんだよね。細ちゃん、昔から秘密にすることは徹底的に守るから。先に食べたら、万が一誰かが部室にくるかもしれないからね。
それで、三時半。冷蔵庫に入れておいた百円プリンを取り出して、重ちゃんに渡した。『あなたのプリン、早く食べないと痛むよ』とか、そういう風に言ったのかな。ともかく、重ちゃんは確かに自分のを昼休みに食べた覚えはあるけど、そんなシリアスに考えることじゃない。深い考えもなく、受け取ったんだよ。
後は山ちーが帰ってきて、叫んで事情聴衆。あはは、まるで事件みたいだけど、どうかな。自分では悪くないと思うんだけど」
「すばらしいわよ。あなた探偵になれるんじゃない? まさか台詞まで言い当てられるとは思わなかったわ」
「あ、あたってたんだ。やったあ。でも、細ちゃん、どこかのドラマじゃないけど、一つだけわからないの。なんでこんなことしたの?」
「別に。理由なんて必要かしら?」
「細ちゃん」
「…………」
「細ちゃん」
「……山田がね、プリンプリンってうるさいから、からかってやろうと思ったのよ。私達の誰かを疑うことは想像ついたんだけど、その後誰を犯人にするのか、興味があったのかもね」
「……そうなんだ。でも、山ちーは誰も犯人だと思ってないと思うよ。違うな、誰が犯人でもどうでもいいと思ってると思う」
「なんでよ」
「わたしが、そういう気分だから。……細ちゃんにはわからないかな?」
「…………わからない」
「うそつき。それじゃあ、そろそろ切るね」
「……うん」
「おやすみ。ばいばい」
「ばいばい」
終わり。




