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ファンタジーの主役




 シュウ達の白熱したバトルは続いていた。



「まっだぁー!」

 松田に狙いを定めて、拳を繰り出し突進する一弥。


 しかしその手前には、三人の男が立ちはだかっている。


「邪魔だ、どけ!」

 仕方なく応戦する。

 目的の首は松田ひとつ、その取り巻きに時間を割く余裕はない。


 スキンヘッドの男が上段から木刀を振り落とした。

 一弥はそれを肩で受け止める。両手でそれを封じ込めて、スキンヘッドの首筋に右のハイキックを叩き込む。


 小柄な男が飛び蹴りと共に襲ってくる。

 それを右手でガードして凌ぐ一弥。弧を描くような拳を小柄の頬にぶちこんだ。


 その間隙(かんげき)をつかれて、ジャージを着込む男に腰に組み付かれた。

 一弥はみぞおちに膝蹴りを叩き込み、それを切り離す。

 苦痛に喘ぎ腰を折るジャージを回転キックでなぎ払った。


「まっだー!」

 ぐっと気合いを籠めて、仁王立ちに松田を睨む。


 激しい死闘で身体はボロボロだ。額や口元から流れる血が、頬を伝って地面に滴り落ちる。

 既に満身創痍、多勢に無勢では流石に分が悪い。


 奪うべき"みしるし"まではまだ遠い。

 多くの者が壁のように立ちはだかる、怒りや狂気の念を持って次々と攻撃してくる。


 しかしこうして打って出た以上、このまま引き下がる訳にはいかなかった。

 引き下がるくらいなら、このままボロボロに砕け散った方がまし。



 一斉に咲き乱れ、全てを薄紅色に染めて散る桜の心得。


 熱い男の生きざまがそこにはあった。



「馬鹿な奴だ。むざむざと倒されにくるとは」

 対する松田は、幾多の男に幾重にもガードされていた。


「確かですね、あの二人を倒したとなれば、チームの名声も一気に高まる」


「飛んで火に入る夏の虫とは、まさにこのこと」


離反(りはん)した奴らも、これで少しはおとなしくなるかと」


 腹心と思える男と、冷静に戦況を見定めていた。



 元々ナイトオペラは一枚岩ではなかった。

 市内でも最大規模の武装チームだが、個々の思惑や理想によって統一性に欠けていた。


 それを一気に(まと)めあげ、理想の一本化を果たしたのが松田だ。


 一弥がリーダーを辞めたと同時に、自らの対抗勢力を脱退、もしくは恭順(きょうじゅん)に追い込み、時には大規模な粛清(しゅくせい)を決行して、この日に至るという訳だ。


 松田の隣に立つ腹心、岩倉(いわくら)もその手の人物のひとり。かつては一弥の参謀だった。





 そしてシュウも、思わぬ苦戦を強いられていた。


「チョロチョロチョロチョロチョロチョロと……」

 両手で鉄パイプを握りしめ、一気に上空から振り落とす。


 響き渡る金属音。


 叩いたのは金属製の配管だ。ビリビリした衝撃波が腕に伝う。

 堪らず鉄パイプを投げ捨てた。


 シュウのターゲットは一匹のネズミ。

 配管や、天井を駆け回るその姿に気を取られて、意識を集中出来ずにいた。



 勿論そんなシュウを、他の男達が手をこまねいて見てる筈もない。『なんちゅう馬鹿だ、戦争の最中なのに』『流石は魔王、やることが突飛過ぎる』戸惑いつつもその隙を窺い、攻撃を仕掛ける。


「俺様に逆らうな!」

 すかさず反撃するシュウだが、その攻撃は大振りで、なかなかダメージを与えられない。

 逆に相手の反撃にあい、少しずつだがダメージが蓄積していた。



「シュウ……」

 その様子を歯痒そうに横目で窺う一弥。


「終わりだ沖田一弥!」

 その首筋目掛けて、鉄の鎖が飛んでくる。ジャラジャラと音を発てて絡み付いた。


「さぁ、どうやって料理してやるか」

 鎖を放ったのは岩倉。舌なめずりしながら、手にする鎖を手繰り寄せる。


「岩倉、てめぇ」

 両手でそれを握り締めて 、振りほどこうとする一弥。


 締め付ける鎖が、頸動脈を圧迫してうまく息が出来ない。ずるずると確実に岩倉に引き付けられていく。


「いいざまっすね沖田さん。信頼していた者に、あっさり裏切られた気分はどうですか?」

 松田が言った。


 この状況では一弥の敗北は必至だろう。


 後はもう一人の招かざる客、シュウをじっくりと始末すればいい。



「元々裏切り者だろう」

 一弥が言った。


「なんだって?」


最初はなから気付いていたさ、岩倉がお前と通じていたのは」


 その一弥の台詞を、呆然と聞き入る岩倉。

 確かに彼は裏切り行為はしていない。何故なら元々松田サイドにいたから。一弥を陥れようと、ずっと画策していたから。


 一弥の台詞を額面通りに受け入れれば、つまりは最初からそのことに気付いていた。

 気付いていて、あえてそ知らぬふりを決め込んでいたということ。


 わなわなと怒りに震える岩倉。


「だったらどうした!」

 近くまで手繰り寄せていた一弥を、鎖を利用して地面に押し倒す。


「知っててどうにも出来なかったなら、尚更滑稽だ。どうせてめーはここで終るんだよ!」


 背中を殴打してもだえる一弥に、更に全体重をかけて乗り掛かる。



「俺達の目標は、武力での国獲りだ。あんたの生っちょろい理想なんか、最初から眼中にないのさ!」

 そして続く、両拳を駆使しての凶行。


 グッ、ガッ、という一弥の小刻みな(あえ)ぎ声が響き渡る。



 その様子を多くの男達が、様々な思いを内に秘めて見つめている。


 元々沖田一弥はチームのリーダーだ。それ故、その胸中去来する思いは様々。


 ある者は松田の的確な判断力とその統率力に感服し、またある者はこれから来るであろう、新しき夜明けに興奮し、またある者はかつての栄光の終わりに、寂しさをにじませる。


 こんな沖田一弥の姿を見るのは、それくらい驚愕の光景だった。



「立たせろ、後は俺がやる」

 その松田の一言に、岩倉はその凶行をとめる。


「伝説へのプロローグ、しっかりと刻んで下さい」

 一弥の背中を掴んでゆっくり立ち上がる。


 一弥はピクリとも動かない。ただ俯いて、はーはーと浅い息を吐くだけ。


「これで世代交代は完了だな」

 揚々と響き渡る松田の声。


 一弥の手前に立ちはだかり、拳を天にかざす。


 この拳が一弥を捉えれば、全ての決着はつく、新しき時代の始まりだ。ゆっくりと後方に振りかぶった。



「目障りなんだよ!」

 だが突然の怒号と共に、その身体がぐらついた。


「大阿修羅の怒り、その身でとくと味わえ!」

 堂々と響き渡る声、それはシュウだ。


 シュウの投げた巨大なスパナが、松田の顎を掠めてバランスを奪ったのだ。




 勢いよく飛んだスパナは、反対側の壁に激突して地面に転げ落ちる。


 それと一緒に気絶したネズミも転がっていた。


 通りかかった"黒猫"が、それをくわえてどこかに連れ去った。




「俺様を馬鹿にした、呪いのネズミは始末した。後は雑魚の一掃といくか!」

 腕をぶんぶんと振り回し、取り囲む男達を睨むシュウ。



「ファンタジーの主役は、いつだって俺様なんだよ!」

 そして一気に襲い掛かった。

実はこの場面、物語最重要シーンです。

想像して。

……口が裂けても言えない。

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