午前4時のインターホン
ピンポーン
午前4時。
まだ夜も明けていない時間にインターホンが鳴った。
「はい」
眠い目を擦りながら、何か急用だろうかと、応答ボタンを押して答える。
モニタで外の様子を伺うと、若い女性が立っていた。
「初めまして。この度、隣に越してきた者ですが、ご挨拶に……」
「はい?」
こんな時間に非常識な……
モニタ越しでもはっきりわかる可憐な姿に目がくらんでなかったら、絶対文句を言っていた所だが……
「まぁ、同じマンションのお隣さんだし」
と、誰もいないのに自分自身に言い訳をして、玄関を開けた。
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その3日後、再び午前4時にインターホンが鳴った。
やはり、まだ夜が明けていない。
「はい」
また、お隣さんかと思いながらモニタを見ると、そこには若い男が……
「初めまして。この度、隣の隣に越してきた者ですが、ご挨拶に……」
「はい?」
こんな時間に非常識な……
今度は若い男だったという事もあって、怒鳴らない程度に文句を言った。
「はぁ、すみません」
若干、不満そうにしていたが、若い男も謝ってくれたので、こちらもそれ以上は言わなかった。
「最近の若い奴は……」
自分もまだ若いつもりだったが、今の若い奴らは、自分本位にしか物を考えられないのかな。
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さらに2日後。
午前4時にインターホンがなる。
「初めまして。この度、上の階に越してきた者ですが、ご挨拶に……」
今度は、老夫婦だった。
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その4日後。
午前4時にインターホンがなる。
「初めまして。この度、3軒隣にに越してきた者ですが、ご挨拶に……」
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引越しシーズンだったという事もあり、最終的には毎日のように午前4時に起こされるようになった。
「最近、ボーっとしている事が多いな。ちゃんと寝ているか? 何かあれば相談しろよ」
それでも、毎日午前4時にインターホンがなる。
ついに、上司から会議室に呼び出された。
「部長と相談してな。少し、お前の環境を変えてやってみようという話になったんだ」
少し離れた別の市に転勤する事になった。
これで、毎日、ゆっくり眠れる。
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引っ越した翌朝。
僕は午前3時55分に家を出て、時計を何度も確認し、きっかり午前4時にインターホンを押す。
「初めまして。この度、隣に……」