六.空戦
対馬海峡上空
T作戦に際して航空自衛隊も部隊を展開していた。対馬上空に築城基地から発進したF-15Jが二機、竹島上空に小松基地から発進したF-15Jが二機。そしてその中間に当る空域には小松の二機のF-15Jに護られたE-767AWACS早期警戒官制機が飛んでいた。
AWACSは空中のレーダーサイト兼司令部とも言うべき航空機で、巨大なレーダードームを背負う特異な外観の航空機だ。
<アロー1。こちらアスター1。北方より高速で戦闘機らしき飛行体が接近。数は2>
「アスター1。こちらアロー1。高麗軍か?」
野々宮は海上で衝突が起こっているという情報を既に得ていた。AWACS<アスター1>のオペレーターは「詳細は不明」と繰り返すばかりであったが。
<アロー1。こちらアスター1。詳細は不明。繰り返す、詳細は不明。目視確認せよ>
「ラジャー。アロー1、目標と接触し目視確認する」
この時、E‐767AWACSは高麗領空内を飛ぶ複数の高麗空軍機と見られる機影と民間航路を飛ぶ旅客機を捉えていた。高麗空軍機の中にはE-737AEWの姿も確認できた。空自のE-767ほどでないにしろ、優れた能力を持つ早期警戒機である。旅客機の方は仁川空港から美保飛行場へ向かう機体であった。フライトプランも提出されている通常便である。若干、針路がずれているようだが。
高麗 巨済島
巨済島は釜山のすぐ南にある島で、造船の島として知られている。
その島の公園にそれはいた。M2ブラッドレー戦闘装甲車を改造して作られたM270自走発射機、いわゆるMLRS(多連装ロケット砲)である。しかし発射機に装填されているのは、ロケット弾では無い。ATACMS(陸軍戦術ミサイルシステム)、米軍の開発した地対地短距離弾道ミサイルである。このミサイルは、ブロック1Aと呼ばれるタイプで射程は330kmに達しているから、巨済島から九州を直接攻撃できる事になる。その弾頭には、通常ならM74APAMという子弾を300発ほど搭載しているのだが、今回は特別な弾頭が収められた。
対馬海峡上空
野々宮は目標を発見した。
「畜生!アスター1、目標は4機だ!繰り返す目標は4機だ!」
AWACSアスター1の指示に基いて、目標の後方から接近した野々宮が見たのは、高麗空軍の識別表を付けた4機の戦闘機であった。2つの2機編隊で飛んでいて、編隊を組む2機があまりに接近していたので、編隊が1機の航空機のようにレーダー上では見えたのだ。
「2機はKF-16。残りの2機はF-15Kで翼下に大型のミサイルを搭載している!築城から増援を呼んでくれ。2機では対処できないかもしれない」
<アーニー、こちらサリー。援護してください。自分が行きます>
巨済島
「照準良し!発射!」
指揮官の号令とともにM270から特別仕様のATACMSミサイル4発が発射された。
航空自衛隊築城基地
航空自衛隊の実戦部隊である要撃飛行隊は、緊急発進に対処する為に4機の戦闘機が常に待機しており、そのうち2機がスクランブル指令から5分間で離陸できるようになっている。待機しているのはパイロットも同様であり、待機中はトイレに行くことも許されない。
スクランブル指令を示すサイレンがなると、パイロット2名はアラートハンガーに駆けていった。
アラートハンガーに入ると、そのまま要撃機F-15Jのコクピットに潜り込んだ。すぐにエンジンが始動され、滑走路まで自走した。滑走路上の定位置につくと、パイロットは管制に離陸許可を求めた。あとは離陸するだけである。いや、だけだった。
次の瞬間、ATACMSの弾頭は、ATACMS本体から離れ、そのまま高速で滑走路を貫いた。爆発の中に2機のイーグルは消え、そのまま鉄の塊となった。二人のパイロットは飛び立つことなく、この世から去った。さらにその爆風がシャッターの開いたままのアラートハンガーに向かった。
築城基地は、この瞬間に運用能力を失った。
対馬海峡上空
野々宮の僚機であるサリーはE-767AWACSの指示に従って、高麗空軍編隊の後方から接近していった。
「高麗空軍機に告ぐ。貴官は日本の領空を侵犯している。ただちに退去せよ!繰り返す、貴官は日本の領空を侵犯している。ただちに退去せよ」
だが、高麗空軍機は応答も変針もしない。
「アロー2よりアスター1へ。目標は応答しない。威嚇射撃の許可を!応援の機体はまだか?」
しかし、返事は思わぬものだった。
<アロー2、こちらアスター1。築城が攻撃を受けた。スクランブル機は発進できない>
「なんだって!」
サリーと野々宮は、この時、この高麗空軍機がただの脅しではないことを悟った。だが、それは遅すぎた。
高麗空軍編隊のうち2機のKF-16が突如右旋回した。
<アロー1、アロー2。こちらアスター1。退避せよ!退避せよ!>
野々宮とサリーは咄嗟に操縦桿を前に倒して急降下した。2機のKF-16は2機のF-15Jの尻に喰いついてくる。
「サリー!もっとパワーを上げろ!」
野々宮のF-15のコクピット内では警告音が鳴り響いていた。高麗の戦闘機がレーダー照射を行ったのだ。
<くそ!アーニー!助けてくれ!ミサイルロックされた!>
野々宮は海面付近まで降りると操縦桿を引き急上昇した。
「サリー!俺のようにやるんだ!ついてこい!」
野々宮のF-15はパワーを生かして喰いついてくるKF-16との距離を稼ぐことに成功した。だが、サリーは野々宮のようにはいかなかった。海面に近づいた時、サリーはスロットルを緩めてしまったのだ。すぐ後ろについたKF-16は右の翼端に搭載されたサイドワインダー赤外線誘導ミサイルを発射した。サリーは回避する間も脱出する間もなく、愛機ごと吹き飛んだ。
「サリー!糞!どうなってるんだ!」
<落ち着けアロー1。我々が誘導する。上空待機中のF-15が急行中だ。それまで踏ん張れ>
E-767のオペレーターは冷静に指示を出しているが、彼らにも危機が迫っていた。
日本海上空 E-767AWACS<アスター1>
オペレーターたちは管制下の作戦機たちに冷静に指示を与えていたが、その顔面は誰しも蒼白していた。なにしろ初めての<実戦>である。
ともかく竹島上空を警戒していた2機のF-15Jを増援として向かわせた。E-767にはそれとは別に2機のF-15Jが護衛についていて、彼らの方が距離的に近いのでアロー1の救援が可能だが、AWACSという最重要目標の護衛を向かわせることはできなかった。
その時である。オペレーターの1人がそれに気づいた。
「高速飛翔体が接近!ミサイルと思われる!」
「ミサイルだって!レーダー照射は受けたのか?」
コクピットで操縦桿を握っている機長が怒鳴った。
「いや、受けていない!畜生!対レーダーミサイルだ!いったいどこから…」
この時、彼らは知らなかったが、先ほど彼らが捉えていた高麗の民間旅客機が実は高麗空軍の電子戦機でESM(逆探知装置)でE-767のレーダー波を追い、E-767の方へ微妙に航路からずれたルートを飛び接近し、その電子戦機の影に隠れていた高麗空軍のKF-16がやはりESMを頼りにE-767にAGM-88HRAM(高速対レーダーミサイル)を放ったのだ。
AIM-120AMRAAM(発展型中距離空対空ミサイル)を使用することもできたが、これを使用するにはレーダーを使う必要があるので事前に察知され、護衛機の攻撃を受ける可能性がある。それに対してHARMは相手の発するレーダー波に向かっていくのでこちら側がレーダーを使う必要は無い。AIM-120ほどの確実性は無いが、今回はそれでよかった。
「メーデー、メーデー、こちらアスター1、攻撃を受けている。繰り返す、攻撃を受けている!」
コパイが無線に向かっている怒鳴っている横で、機長は回避行動を開始しつつ叫んだ。
「レーダーを切れ!」
そうするしか対レーダーミサイルから逃れる術は無い。機体の背部に載せられた巨大な円盤型のレーダードーム、APY-2は活動を停止し、AWACSとしての機能を失った。
かくして、高麗空軍は一時的にせよ高麗から九州北岸までの制空権を事実上確保したのである。
一方、KF-16と分かれたF-15Kは地上のレーダーの警戒網から逃れる為に急降下して超低空を飛行していた。F-15Kは、制空戦闘機であるF-15の対地攻撃能力を向上させた戦闘爆撃機であるF-15Eの韓国版で、今は翼の下にそれぞれ2発ずつのAGM-84H「SLAM-ER」巡航ミサイルを搭載している。
2機のF-15Kは2手に分かれて、それぞれの目標へ迫った。目標とは、山口県の見島と長崎県の五島列島に設置された航空自衛隊のレーダーサイトである。
危機管理ルーム
「いったいどういう事なんだ?ちゃんと説明をしてくれないか?」
烏丸が怒鳴っていた。
「日本は高麗と事実上の交戦状態に突入しました」
中山は冷静に振舞うことに努めていた。
「最新の情報による航空自衛隊のレーダーサイトが攻撃を受けたと。詳しい被害は不明です。ともかく、これは高麗軍の本格的かつ組織的な軍事侵攻です」
「米軍はどうしたんだ?」
米軍は動くに動けない状況であった。
台湾海峡 空母【ジョージ・ワシントン】
第7艦隊第70任務部隊は、原子力航空母艦【ジョージ・ワシントン】と複数の護衛艦艇から構成される。その指揮を執っているのがフランク・スチュワート海軍少将だ。
「艦長。大変なことが起こった」
艦橋で航行の指揮を執っていたアダムスが声のした方へ振り向くと、疲れ果てた司令官の姿を見ることができた。
「司令。なにが起こったというのですか?」
艦橋からは今まさに発艦した2機のF/A-18E戦闘機の姿が見えた。ここ数時間のうちに中国空軍及び海軍航空隊の動きが慌しくなり、【ジョージ・ワシントン】ではそれに対抗する為に艦載機を発進させているのだ。
「高麗軍が日本を攻撃したようだ。詳しいことはまだ分からない」
「畜生!あの糞ったれどもめ!この忙しい時に!司令、我々はこれから高麗を叩きにいくのですか?」
「いや。太平洋艦隊司令部からは、現状を維持せよ、という命令がきている。この状況では我々が台湾海峡から離れるわけにはいかんだろう」
対馬上空
野々宮は孤独な戦いを続けていた。急旋回を繰り返し、追ってくる2機のKF-16から逃れようとするが、2機ともしつこく喰いついてくる。
1機のKF-16がAIM-9サイドワインダーミサイルを1発放った。これは目標の発する熱を追跡するミサイルで、今はF-15Jが装備する2基のジェットエンジンの排熱を追ってくる。野々宮はF-15Jに装備されたフレアを空中に解き放った。フレアは囮の熱源である。野々宮はすぐに急旋回したが、サイドワインダーの方はフレアをF-15Jだと誤認してそのまま真っ直ぐ突っ込んだ。敵のサイドワインダーはどうやら旧式だったらしい。
すると突然警報が鳴り止んだ。野々宮が後ろを見ると、KF-16は反転して行ってしまった。なぜだろう、と勘ぐっていると東から2機のF-15Jが現われた。AWACSのオペレーターが行っていた増援機だろう。
名古屋市内 あるアパートの一室
深海真は用を足しに起きた。時計は2時半を過ぎたあたりを示している。辰巳は夜のアニメタイムであった。
「あれ?どうなってんだ?」
トイレから出てきた真が見たのは、テレビに対して困惑している弟の姿であった。
「どうした?」
「なんか九州で小競り合いがあったみたいなニューステロップが流れて、そしたら突然、画面が切り替わって…」
確かに本来ならアニメを放映している筈のテレビ画面にはニューススタジオと原稿を読みあげるキャスターが映っている。
<海上保安庁が高麗軍の攻撃を受けました。未確認ですが複数の巡視船が沈没したとの…>
その時、真には辰巳の呟き声が聞こえた。
「これはマジでやばいかもしれない…」
642 名前:名無しさん 投稿日:2015/7/23(木) 02:34:07
高麗、マジで攻撃してきたの?
643 名前:名無しさん 投稿日:2015/7/23(木) 02:34:11
戦争キター
644 名前:名無しさん 投稿日:2015/7/23(木) 02:34:13
臨時ニュースやってる。巡視船が沈んだらしい
645 名前:名無しさん 投稿日:2015/7/23(木) 02:34:13
あいつらマジでやりやがったかorz
651 名前:名無しさん 投稿日:2015/7/23(木) 02:35:05
>>644
テレ東は?うちの地方、テレ東系映らないんだけど
670 名前:名無しさん 投稿日:2015/7/23(木) 02:36:20
>>651
テレ東も。ひょっとして、日本終了フラグ?
673 名前:名無しさん 投稿日:2015/7/23(木) 02:36:51
うそだろ?
680 名前:名無しさん 投稿日:2015/7/23(木) 02:38:10
>>673 マジだ
テレ東が臨時ニュースってただ事じゃないだろ
689 名前:名無しさん 投稿日:2015/7/23(木) 02:39:07
>>680
それってかなりヤバイな
690 名前:名無しさん 投稿日:2015/7/23(木) 02:39:07
日本オワタ\(^o^)/
(2017/7/18 一部改訂)
問題のあると思われる表現を削除、改訂しました。