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四.衝突

6月23日

 時計の短針が12時を回り、日付が変わった。

 竹島は、隠岐諸島沖157kmにあり、東島と西島の二つの主島と岩礁からなり、古くから漁師からは好漁場として親しまれてきた。そして韓国はこの島を独島(ドクト)と呼んで、1952年に李承晩ラインを設けて以来、日本と領有権を巡り争ってきた。しかし日本は国際法廷で争うべきと言っても韓国はそれを受け入れなかったうえに、その一方で韓国は警備隊を竹島に常駐させている。侵略行為に他ならなかった。

 T作戦を実行するのはSST(特殊警備隊)と呼ばれる海上保安庁特殊部隊である。アメリカのSEALから教育を受け、なにより日本では最も実戦経験の豊富な特殊部隊であるが、もともとシージャックや海上テロ、プルトニウム輸送船の護衛を任務とする部隊であり、一つの島の制圧などという任務は初めての経験である。


「竹島を巨大な船を思えばいい!!」


隊長は、そう言うが、やはり、隊員達は不安でならなかった。




 SSTは、巡視船【だいせん】に乗り込み、竹島を目指していた。竹島は、一ヶ月前ほどから、海保巡視船により包囲されている。

 【だいせん】は2001年に就役した中堅のPLH(ヘリコプター搭載巡視船)であり、35ミリ機銃と20ミリ機銃を1門ずつ装備して、ヘリコプター1機を装備している。

 午前1時、闇夜に包まれた海の上、SSTを乗せた小型ボートが巡視船を離れた。突入部隊は20名。隊員達はサブマシンガンMP-5や89式自動小銃で武装している。いざとなれば巡視船の機銃の援護もある。SST隊員達は覚悟を決めた。




 ボートはなんとか接岸した。SST隊員達は、闇夜と岩場に苦しんでいた。なかなか前へ進めない。ようやく安定した場所に隊員達は岩場に隠れ、時をまった。




 午前2時。巡視船のスピーカーから、韓国語が流れてきた。


「竹島が日本領である事は国際社会で認められた事実です。ただちに退去してください。さもなくば、出国管理及び難民認定法、武器準備集合罪、不法占拠の容疑により現行犯逮捕します!!」


 その時、巡視船の甲板にカン、カンという音とともにいくつもの火花は散った。返事は銃撃だった。


「現行犯逮捕する!!」


 SSTが銃を構える。


「武器を捨てろ!!捨てないと応戦する!!」


 巡視船のスピーカーからの怒鳴り声。だが銃撃は止まる様子は無い。


「応戦!!」


 SSTの89式小銃やMP−5短機関銃が一斉に放たれ、数人の高麗警備兵が倒れた。残った警備兵が倒れた者を背負い、岩の陰に隠れようとしている。


「被疑者、後退していきます。」





第4護衛隊群第八護衛隊、護衛艦【ゆきぐも】

 【ゆきぐも】は20DDとして計画され、【まきぐも】型2番艦として2012年に実戦配備された最新鋭の艦である。特に目立つのは艦橋構造で、国産の新型レーダー及び射撃統制システムであるFCS-3が装備されていた。この新システムのおかげで【ゆきぐも】はイージス艦に準ずる防空能力を持つ事になった。もともとはMD計画が推進されていた時に弾道弾迎撃に専念するイージス艦を守る為に計画された艦艇で、当初はスタンダード級の長射程対空ミサイルの装備も考えられたが、北朝鮮危機が去ったことから白紙にされた。

 【ゆきぐも】は対馬周辺で警備行動をしている第2護衛隊群と佐世保地方隊とは別に、第4護衛隊群から単独で派遣されたのである。


「ただいまリンク16から高麗軍の最新の情報が入りました。大変だ!」


CICのオペレーターは驚きの声をあげた。一方で艦長の梶2佐はいたって冷静であった。


「どうしたんだ?」

「哨戒中のP-3Cが高麗と思われる艦隊と偶然接触したそうです」

「規模は?」

「駆逐艦クラスが4隻…ミサイルの照準をロックされた為、P-3Cはすぐに離脱してしまった為、詳細は不明だそうです」

「そうか」


 梶はそう言うと、後ろに立つ副長に向けて言った。


「ブリッジに戻る。これはひょっとしてひょっとするかもしれない」





竹島

 突如、爆音とともにSST部隊の一角が吹き飛んだ。


「迫撃砲だ!!散開しろ!!負傷者を確保しろ!!」

「田辺と雪原が死亡、重傷者が4名!!」

「巡視船に援護を要請しろ!!」


 最前線の隊員達はパニックを起していた。




 巡視船の甲板に搭載されている20ミリ機関砲が、竹島に向けられた。


「照準よし!!」


 赤外線暗視装置は、高麗警備兵の迫撃砲陣地をしっかり捉えている。


「射撃!!」


 20ミリ機関砲の曳航弾が、迫撃砲陣地のあるあたりに次々と吸い込まれてゆく。岩が砕け、迫撃砲陣地を破壊し、高麗警備兵を粉砕する様子が赤外線暗視装置を通した映像として巡視船内でも確認できた。


「酷いな」


 船長が手で口を覆いつつ言った。彼らがこのような陰惨な映像を見たのは始めてだった。





高麗海軍 旗艦【世宗大王(セジョン・デ・ワン)

 イージス艦であるセジョン・デ・ワンは情報収集能力で優れ、竹島周辺の状況も把握していた。CICの司令席に座る高麗海軍少将、キム・ジュヨンは命令書を受け取っていた。


「いよいよ、時が来たか・・・」


 複雑な気持ちだった。彼にとって海上自衛隊は兄弟のようなものだ。日本人は好きになれなかったが、海上自衛隊はアジアにおける近代的海軍の模範として、尊敬していた。

 しかし、彼も軍人である。命令には逆らえない。


「全艦に命令!!」





巡視船【だいせん】

 【だいせん】航海士は、高麗の警備兵が死んでゆくさまを暗視装置の通して見ていた。


「ざまぁみろ・・・」


 彼は高麗を、韓国を、ずっと怨んできた。なにしろ彼は何年も高麗の密漁船対策に携わっていたのだから。高麗によって日本の海が侵され、漁獲物が奪われる様をずっと見つづけてきたのだ。


「そうだ!!もっとやれ!!」


 彼の興奮は絶頂に達していた。





護衛艦【ゆきぐも】

 艦長がCICを離れようとしたその時にそれは起こった。異変を捉えたのは【ゆきぐも】に載せられていた哨戒ヘリだった。


「シーホークが高麗艦隊を捕捉しました。駆逐艦4、P−3Cは接触した艦隊と思われます」


 CICは緊張に包まれた。モニターにはリンクシステムを通じて哨戒ヘリから遅れらてきた高麗艦隊の情報が表示されている。


「艦長、対水上レーダーが高麗艦隊を探知」

「艦長、これは・・・!」


 副長は艦長の顔を見た。見た目はいつものように冷静そのものだった。


「私はブリッジに戻る。ここは頼むぞ」


 副長にそう言うと、艦長は出口に向けて一歩踏み出した。その時だった。


「高麗艦より高速飛翔体が分離!対艦ミサイルと思われる!」


 オペレーターは絶叫した。艦長が振り返ると、モニターに高麗艦隊や海保巡視船を示す輝点とは別に新たな輝点が表示されていた。


「対空戦闘用意!」


 艦長は考えるより先にそう命じていた。


「対空戦闘用意!これは訓練では無い」


 副長が艦内マイクに向かって復誦している。艦長はモニターの輝点に集中していた。


「目標は本艦じゃない。海保だ!」


 高速飛翔体は一直線に【だいせん】を示す輝点に向かっていた。


「迎撃できるか?」


 艦長はいつのまにか隣に立っていた砲雷長に尋ねた。


「我が艦はイージス艦の補完の為に建造されたのです。可能です。艦長。しかし、まだ命令がありません。我々が迎撃できるのは我が艦に放たれたミサイルだけです」





対馬沖 第2護衛隊群

 T作戦は海上自衛隊にとっても大きな意味を持つことであった。直接作戦には加わらないが、高麗と紛争状態になれば当然ながら高麗正規軍との交戦も想定される。その為に1個護衛隊群を対馬沖に進出させ高麗に圧力をかけるという思い切った行動にでたのである。

 第2護衛隊群は佐世保を母港とする部隊で、常に最新鋭装備が配備され他の護衛隊群よりも多く訓練時間を割いていることから【訓練の2群】の異名を持つ。

 それに佐世保地方隊からの護衛艦1隻、旧式の【はつゆき】型が加わった。


 第2護衛隊群は旗艦【いせ】とその護衛で構成されるDDHグループ、第2護衛隊と新鋭のイージス艦【あたご】を中心とするDDGグループ、第6護衛隊の2つに分かれ対馬の南を航行している。佐世保地方隊第13護衛隊の【いそゆき】はDDGグループとともに行動していた。


 その護衛隊群を追う艦が水中にあった。高麗海軍のチャンボコ級である。チャンボコ級は高麗海軍の前身である韓国海軍が初めて導入した潜水艦で、ドイツの傑作潜水艦タイプ209の韓国向けバージョンであり、高い性能を誇る沿岸潜水艦なのである。


 【いせ】艦長佐川はブリッジから暗闇の中にかすかに見える対馬を眺めていた。


「変わったもんだな。この国も」


 もしかしたら戦争になるかもしれない。そんな考えが一瞬過ぎったが、すぐに振り払った。


「まさかな。戦争になったって、誰も得はしないさ」


 そこへ若い尉官が駆け寄ってきた。


「潜水艦は?」


 佐川が尋ねると、尉官は手にもったメモを佐川に渡し答えた。


「後方1000に1隻、10ノットで追尾してきます。しつこい連中だ。いっそ振り切りますか?全速なら」

「焦るな。探知しているなら、こっちのものだ」


 海自側はすでに高麗の潜水艦の存在を把握していた。それほど海上自衛隊の対潜能力は優れているのだ。だが、同時にその高い能力は隊員達の慢心にもつながっていた。





高麗海軍潜水艦【チャンボコ】

 護衛艦隊を追尾しているチャンボコ級1番艦【チャンボコ】の乗組員達は疲労に耐えつつ任務を遂行していた。


「艦長。我々の存在は気づかれているのでしょうか?」

「おそらくな。彼らの対潜能力の高さを見くびるわけにはいくまい」


 不安げな副長にそう言うと、艦長は腕時計に視線を移した。時間だ。


「フローティングアンテナを伸ばせ」





竹島近海

 海保船隊に迫る危機を1番最初に感知したのは、T作戦の為の増援として派遣されてきた巡視船【しきしま】だった。【しきしま】はプルトニウム輸送護衛の為に建造された世界最大規模の巡視船で、航空機による襲撃に備える為に【はつゆき】型護衛艦に搭載されているのと同様の対空レーダーが装備されており、それが高麗の対艦ミサイルを探知するのに役立った。


「ミサイルか!」


 【しきしま】船長はその事態を信じることができなかった。彼らはあくまで海上保安官であり、海の上の警察官兼消防官でしかないのだ。無論、外国の軍艦との戦闘など考えたことは無い。しかし、もたらされる情報はそれが諸外国の軍艦が発射したと思われる(海保はこの時点で高麗艦隊の所在を探知もしてなければ、通報も受けていなかった)ミサイルであることを示していた。


「機銃、撃ち方はじめ!」




 【しきしま】には、プルトニウム輸送という任務を実行する為、海保の巡視船でも特に重武装が施されている。が、想定された相手は高速艇から精々セスナのような軽飛行機で、ミサイル迎撃など完全に想定の範囲外。当然、ミサイル迎撃の訓練だって行なっていない。

 搭載されている35ミリ連装機銃と20ミリ多銃身機銃がそれぞれ2門、計4門。レーダーが捉えたミサイルに向け、火を噴くが、美しい火線を描くだけで、掠りさえしなかった。


 高麗艦隊から放たれた対艦ミサイル、ハープーンと国産SSMである700K型の混成、計8発は、対艦攻撃の最終段階に達していた。着弾の直前になり、ミサイル群は突如上昇にに転じたが、それは一瞬の事ですぐさま弾頭が斜め下を向きミサイルは巡視船に向けて最後の急降下を始めた。ホップアップとも呼ばれる一連の動きは、命中率を上げることができるが、一方迎撃を受けやすくなる欠点を持つ。しかし、まともな防空装備を持たない海保巡視船相手には何の問題もなかった。


 1発目は【しきしま】の艦橋、2発目が機関部に命中し、【しきしま】の巡視船としての機能は失われたが、海保巡視船で唯一、軍艦と同様の仕様で建造されたその船体はなんとか【しきしま】を水の上に浮かばせていた。

 3発目は【だいせん】を目指していた。


「くるぞ!」


 あの航海士が叫ぶ。


「回避!機関出力最大!取り舵一杯!」


 艦長の号令を受け、航海士は操舵輪を思いっきり回したが、すでに手遅れだった。動き出したばかりでまだ速力が出ない【だいせん】をミサイルは簡単に捉えることができ、【だいせん】の無防備な横腹に飛び込んでいったのである。ハープーンミサイルの弾頭に仕込まれた224キログラムの高性能火薬は【だいせん】の防弾仕様の船体をいとも簡単に破壊したのだった。





【チャンボコ】

 【チャンボコ】は、この戦争において主敵である自衛隊に最初の一撃を与えるという名誉ある任務を授かった。すでに8本の魚雷発射管には国産の長魚雷である【白鮫(ペクサンオ)】を装填している。この魚雷は、開発環境の不備もあり試験中に様々な問題を起し、その後の経済危機もあって思うように改良が進まず信頼性が低いのが難点であるが、うまく作動すれば恐るべき威力を発揮する。【チャンボコ】には、より信頼性の高いドイツ製SUT魚雷も装備しているが性能にあまり高くなく、それにこの記念すべき第1撃を外国製の兵器で行なうというわけにはいかず、白鮫魚雷を使用することとなった。

 艦長は海図台に立ち海図の上に置かれた船の模型を見つめた。目標の海自艦隊。艦隊は2つに分かれており、前方は4隻、後方に5隻。


「1番から8番、発射用意!」

「1番から8番、発射用意!」


 水雷長が兵装制御区画の計器の前で復誦する。


「目標は?」


 水雷長が計器から艦長に目を向けた。


「後方5隻だ。撃破と同時に急速潜航、混乱を利用して離脱を図る」


 操舵席の後ろで操舵手に指示を出していた航海長も艦長に振り向いた。


「前方4隻は?」

「我々の目的は日本の独島の侵略を阻止し、我々が行動する隙をつくることだ。それを達成できれば、我々が必要以上の危険を冒す必要はない。それに僚艦の手柄まで奪ってはかわいそうだろう?」


 対馬の東には【チャンボコ】が自衛艦隊を逃した時に備えて別の潜水艦が配置されている。もしかしたら残りの護衛艦は彼らが始末してくれるかもしれない。


「発射用意よし!」


 水雷士が発射ボタンの上に指を置き、いつでも発射できるようになった。


「1番から8番、発射!」


 艦長の号令と同時に水雷士が指に力を込めた。発射ボタンが押され、8本の魚雷管から1本ずつ、20秒ごとに次々と海中に放たれた。

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