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三〇.危機を打ち砕け

防衛線

 側面の山地を高麗軍が抑えたので、残存する機甲部隊が隘路に突入した。合計9輌のK1A1戦車と残存の歩兵たち。一方、K1A1戦車4輌の支援を受けた1個中隊が東側から防衛線に迫っている。

 この時、陸上自衛隊の部隊は第1中隊と第2中隊を大宰府防衛線に送り出していたが、高麗軍に突破された隘路両側の山地の部隊は混乱状態にあり彼らをまとめるには今しばらく時間が必要であった。また第3中隊もまだ愛宕山の掃討から戻っていない。というわけで迫り来る高麗軍の戦車13輌を含む部隊の阻止に使える自衛隊の部隊は、撤退の殿として配置についている第4中隊のみであった。しかも同中隊の援護として配属された戦車は3輌だけである。ほかの車輌は撤退している部隊の護衛をしているか、第3中隊とともに愛宕山で戦っている。



 いよいよ高麗の戦車隊が隘路から平地に出てきた。随伴歩兵を引き連れて高架の下の道路を福岡市街地に向けて進む。自衛隊が混乱している中、それは実に簡単な進軍に見えた。だが自衛隊も黙って通すつもりはなかった。


「よし!今だ!」


 高麗軍の進撃の様子を双眼鏡で見張っていた3尉が隣の隊員に命令を発した。その隊員は手にしている、どこかから伸びているワイアーに繋がった小さな装置の上の小さなレバーを90度回した。それと同時に辺りに轟音が響いた。


「な!なんだ!」


 先頭の戦車に乗る指揮官は、高架を支える柱が粉々に吹き飛ぶ光景を目撃した。それが彼のこの世の最後の記憶となった。何千トンというコンクリートと鋼鉄の塊に押しつぶされては、戦車といえども耐えられるものではなかったのである。これによって3輌の戦車と随伴歩兵を始末できた。

 それにあわせて物陰に隠れていた1輌の10式戦車が姿を現した。突然の出来事に混乱したまま動けなくなっていたK1A1は完全に鴨であった。高度な射撃統制装置と自動装填装置によって支えられた国産の120ミリ主砲は連射により即座に2輌のK1A1を射止めたのである。手動装填のK1A1にはできない芸当であった。


 高麗戦車兵もさすがにそれを見て正気に戻った。留まっていてはいけない。即座に動かなくては。誰が指示したわけでもなく、生き残った4輌の戦車はスモークディスチャージャーを作動させて散開した。2輌ずつ、北と南に。



 一方、東側に迫る別働隊に対しても2輌の10式戦車が立ち向かおうとしていた。2輌は交差点の陰に隠れ、普通科隊員の陰から顔を出して敵の動きを窺っている。敵が迫っている。K1A1を1輌、先遣として前を進ませているようだ。そして先遣車輌は室見川に架かる橋を渡ろうとしていた。それが狙い目であった。なにしろ逃げ場がない。

 2輌が一斉に交差点上に飛び出した。役割分担はすでに決まっている。1輌が橋の上の先遣を片付けて、もう1輌が後続のうちの1輌を破壊する。その役目をどちらも見事に果たした。

 驚いたのは高麗軍側である。突然の襲撃で一気に2輌の戦車を失ったのだ。咄嗟に撃ちかえしたが、狙いが定まっているわけでもなく自衛隊戦車の横の自動車販売店を破壊して終わった。2輌の敵自衛隊戦車はまだ物陰に隠れてしまった。

 一方、再び物陰に隠れた10式戦車の片方では3輌を束ねる小隊長が車内のデジタルディスプレイを見ていた。10式戦車はC4I―指揮(コマンド)統制(コントロール)通信(コミュニケーション)電算(コンピューター)情報(インテリジェンス)―機能を発達させたハイテク戦車である。第4戦車大隊に属する10式戦車は全てデータリンクで結ばれており、情報を常に交換しあっている。乗員同士が通信をしなくても戦況が手にとるように分かるのである。隘路から出てきた戦車の撃ち漏らしは重く見るべきだろう。小隊長は小隊内無線の通話スイッチを押した。


「俺は西側の援護にまわる。坂井、1人で橋を守れるか?」

<任せてください>

「西田。俺は北側を守る。お前は南側だ」

<了解>


 小隊長の戦車が交差点から離れていった。



 破壊された福岡前原道路の高架の南側、土嚢を積み上げて造った急増陣地を陸上自衛隊の小銃班が守っていた。

 彼らの目の前に、崩壊した高架から逃れてきた高麗歩兵が現われた。


「撃て!」


 89式小銃とミニミ機関銃が一斉に乱射され、何人かの高麗兵が倒れた。難を逃れた高麗兵は近くの遮蔽物に隠れて銃弾を防いだ。


「吶喊!前へ!」


 班長の曹長は突撃を命じた。隊員たちが陣地を飛び出して敵に向かう。遮蔽物の陰に釘付けにされていた高麗兵たちはうまく対応することができず、次々と撃ち抜かれ、一部は降伏した。

 そこへ高麗軍のK1A1戦車が2両現われた。形勢逆転である。K1A1戦車は同軸機銃を乱射して逃げ惑う自衛隊員を敗走させ、K1A1は追撃に移行した。


 しかし自衛隊もやられっ放しではない。隊員たちが逃げ惑う中、臆せず陰に隠れてK1A1の様子を伺うものが2人居た。彼らは応援にかけつけた別の班の隊員でパンツァーファウスト3を持っていた。


「随伴歩兵がいないな」


 隘路での戦闘、高架の爆破、そして先ほどの陣地での戦い、それらを経て高麗軍は随伴歩兵をすり潰しており戦車が単独で前進してきた。2人は目の前の家に飛び込んだ。玄関の鍵は掛かっていなかった。急いで二階に上がり窓から道路を見下ろすと、すぐ下にK1A1戦車がやってきていた。


「よし、撃つんだ」


 隊員の1人がパンツァーファウスト3を肩に担いで、下の戦車を狙った。引き金を引くと弾頭が発射され、装甲の薄い戦車の砲塔上部に命中した。2人は戦果を確認することなく素早く一階に駆け下りた。

 玄関を出ると拳銃を持った高麗戦車兵と遭遇した。2人の自衛隊員はすばやく小銃を構えて戦車兵を射殺した。道に出てみると、そこには炎上した戦車の姿があった。もう1輌はどこかへ消えていた。


 もう1輌のK1A1は大通りに脱出することを目指した。入り組んだ住宅地は視界が狭く歩兵の待ち伏せには最適で、随伴歩兵を欠いた状況で戦うべき場所ではない。大通りに出れば自衛隊の戦車と遭遇することになるが、その方がずっと良いと戦車兵は思っていた。

 やがて戦車は大通りに出た。そこにはやはり10式戦車が待ち構えていた。


 西田戦車長は戦車長用のペリスコープで敵の姿を探していた。そして横道からK1A1が現われた。


「敵だ。2時方向!」


 砲塔が動いて照準が定められる。両方の戦車が発砲したのはほぼ同時であった。そしてどちらも同時に命中し、両者を同時に破壊した。


 小隊長は西田車からのデータリンクが途切れたことに驚いた。


「どうなっている。西田車、応答せよ。応答せよ!」


 だが返事が無い。車長用ハッチを開け、体を外に出して後方を確かめると2輌の戦車が炎上していた。小隊長がその様子を見て呆然としていると、普通科隊員が駆け寄ってきた。


「指揮官ですか?」

「そうだ。小隊長だ」


 小隊長はなんとか声を出すことができた。


「1輌は我々が倒しました。202号線の南にもう戦車がいません。あとは北側の2輌と橋の東側の2輌です。北側稜線を守っていた施設科を乗せたトラックが来ます。通しますよ?」

「あぁ、構わない。ありがとう」

「小隊長。あなたの部下の活躍、お見事でした」


 普通科隊員はそれだけ言うと去っていった。小隊長はもう一度だけ炎上する部下の戦車を確かめてから、戦車の中に戻った。

 やがて数輌の中型トラックが通り過ぎていった。彼らは隘路の北側を守っていた施設科の隊員たちだ。撤退の第一陣である。撤退作戦は順調に進んでいた。

自衛隊、負けっぱなしなのでたまにはということで

しかし、高架を落として戦車を破壊できるんだろうか。なぜか確信がもてない…

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