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二.決断

高麗連邦共和国 首都ソウル

 その建物は青瓦台と呼ばれ、日本統治時代に朝鮮総督官邸として始まり、独立後は韓国大統領官邸となり、歴史的な南北統一を達成した現在でも連邦大統領の官邸となっている。連邦第3代大統領、鄭宇中(チョン・ウジュン)も去年、青瓦台の住人となった。

「確実に成功するんだな?」

 チョンは目の前にいる男、国防部長である李世昌(イ・セチャン)に問い掛けた。

「すでに中国北京政府の高官と接触しました。彼らと我々の利害は一致しています。米軍に圧力をかけてくれるでしょう」

 その男は閣僚の中でも楽観主義者として知られていた。

「しかし、大丈夫なんだろうな。我々のやろうとしていることは…」

「大統領閣下。もはや我が高麗連邦を救う道はこれしかありません。日本にはこれまで発見されなかった様々な資源が眠っている事が明らかになりました。これを利用するしかありません。なに、日帝36年の支配の中で行なわれた朝鮮民衆への残虐なる搾取に比べれば、とるに足らんことですよ。

それに今の日本の内閣総理大臣は腰抜けです。必ず我々の要求に屈するでしょう」

 そう答えたのは、日本で言うと外務省に相当する外交通商部の部長、宋白一(ソン・ペクイル)であった。

 それに対し、閣議室の奥で沈黙を保っていた男の口が開いた。

「しかし、楽観視しすぎではないか?」

 高麗の情報機関である国家情報院のトップにいる金幽霊(キム・ユリョン)である。

「ユリョン院長、あなたは以前から情報機関に居られた方だが、韓国情報の専門家であって日本のことをあまりご存知無いはずだ」

 ペクイルがユリョンに反論した。ユリョンは朝鮮労働党の対南工作機関である体外連絡部の指導者を努め、数々の情報工作を実行してきた。幽霊を意味するユリョンという名字もおそらく偽名だろう。

 セチャンがさらに続けた。

「勝算はあります。我々には輝かしい未来が待っています」

「分かった。ただちに参謀総長を呼んでくれ。作戦の説明を再度聞きたい」

 ウジュンは決断を下した。




福岡市内 喫茶店

 すでに太陽が沈みかけており、客は疎らだった。

「非常召集?明日の約束は?」

 客の1人、若い女が連れの男に言い寄っていた。

「新聞くらい読めよ。韓国方面がやばいって言ってるだろ。それで召集がかかったんだよ。明日以降は24時間、駐屯地に詰めてなくちゃいけないんだ」

 男はそう反論した。彼は普段は高麗という現在の正式国名を使うが、一般社会ではまだ浸透していなかった。

「確かにあんたが自衛官で、そういうヤバイ時に行かなきゃならないのは分かるけど。なんとかならないの?」

「ならない」

 男の頑固な態度に女は溜息をついた。

「はぁ。だいたいヤバイって言ったって、どうせ大した事にはならないんでしょ?まったく過敏すぎるのよ」

「万が一ということもある。それに備えるのが俺たちの仕事だ」

 男の方は、東海大地震の悲惨な現場にボランティアとして駆けつけていたあの少年、桜井雄一であった。女の方は萩原里美といって雄一の交際相手であった。萩原は高校での雄一の後輩で、卒業後は雄一は自衛隊、萩原は大学への進学という別々の道へ進んだが、二人の関係は続いていた。

「そうやって、過大に危機を煽るのが右翼のやり方よ。萩原さん、騙されてはダメ!」

 萩原は声のした方向に振り向くと、そこに1人の女性が立っているのに確認した。

「片平先輩!」

 片平と呼ばれた女は、男に対して明らかな敵意を向けていた。彼女、片平由香里は萩原の大学の先輩で、平和運動のグループに参加しており、活動のために留年をしている筋金入りの運動家であった。

「あなたは?」

「陸上自衛隊、第4師団第19普通科連隊所属、3等陸曹、桜井雄一です」

「ふーん、自衛官ね?憲法違反の人殺し集団」

 あまりにも型にはまったプロ市民を目の前に、桜井は溜息をついた。こういうのは相手にしない方が良い。

「里美、行こう」

 雄一は里美の腕を掴むと店を出ようとした。

「待ちなさい」

 片平が立ちふさがった。

「人殺しに行くの?」

 雄一は片平の腕を振り払い、店の外に踏み出した。この時、里美は雄一が小声で「人殺しの為に自衛隊に入ったんじゃない」と呟くのを耳にした。





名古屋市内 あるアパートの一室

 すでに時間は夜の10時を過ぎていた。

 ソファーの上で毛布をかぶり横になっていた男は、ここに来た事を後悔していた。男の名は深海真(ふかみ まこと)。ある軍事系雑誌に関わる仕事をしていて、今は取材に参加する為に名古屋を訪れていた。そこでホテル代を節約しようと、たまたま名古屋で会社員をやっている弟のアパートに押しかけたのが間違いの始まりだった。

 弟の辰巳(たつみ)はいわゆるアニメオタクで、部屋の中はそれ系のグッズで埋め尽くされていた。真は特定の趣向や性癖を軽蔑する気持ちもないし、そもそも真の趣味も世間一般から見ればアニメオタクと大して変わらないものに見えるだろう。だが、この部屋の空気に真は違和感を覚えざるにはいられなかった。

 こういう時は寝ちまった方が良いと思い横になったが、寝るには時間がまだ早すぎた。結局、一睡もできない間に真は立ちあがった。

 立ちあがった真の目に映ったのは、パソコンに向かう弟の姿だった。

「なにを見てんだ?」

「匿名掲示板だよ。なんか兄貴が興味ありそうなことやってるよ」




212 名前:名無しさん 投稿日:2015/6/21(日) 22:23:07

 いよいよ明後日だね。竹島奪還の日は。

213 名前:名無しさん 投稿日:2015/6/21(日) 22:23:30

 60年振りの悲願の達成キター

 だけどさ、奴らが戦争ふかっけてきたらどうする?

214 名前:名無しさん 投稿日:2015/6/21(日) 22:25:01

 余裕余裕。圧倒的な海上自衛隊艦隊の前に殲滅あるのみ。3分で決着がつくw

215 名前:名無しさん 投稿日:2015/6/21(日) 22:26:20

 そこまで高麗は弱くないよ。



 精々30分だねwww

216 名前:名無しさん 投稿日:2015/6/21(日) 22:27:17

 でも高麗も一応、イージス艦とか持ってるんでしょ?

217 名前:名無しさん 投稿日:2015/6/21(日) 22:30:20

 イージス艦を過大評価しすぎ

 高麗のイージス艦は1隻だけ

 1隻で対処可能なのは精々12発くらい

 自衛隊は1個護衛隊群だけでも一度に50発以上対艦ミサイル発射できる

 ま、そゆこと

218 名前:名無しさん 投稿日:2015/6/21(日) 22:31:01

 つか護衛艦出すまでもないよ。F-2で十分

219 名前:名無しさん 投稿日:2015/6/21(日) 22:31:20

 結局は対馬海峡で海の藻屑だろw




「こりゃ酷いな」

 真は思わず本音を洩らした。

「そう?で、軍事雑誌担当者としてどうよ」

「隣国をどう思うかはそれぞれ個人の自由だけどさ、相手を見くびったらダメだ。相手を常に最高の軍人だと思え。それが鉄則だよ」

 そう言うと、テレビの方に振り向いた。テレビと真の間にあるちゃぶ台の上にリモコンがあって、真はそれを取ると電源をいれた。映ったのは民放のニュース番組だった。

<中国軍の最新の動向ですが>

 キャスターが伝えたのは、きな臭い台湾海峡の話題だった。外部に敵をつくるのは国内の分裂を手っ取り早く終結される手段であり、中国も内乱による不安や不満から内外の目を逸らす為、台湾に対して積極的に圧力をかけていた。

<米国防総省筋の情報によりますと、中国海軍が臨戦態勢をとり、空陸の戦力も沿岸部に移動している模様で>

 だが、今回の動きは異常だ。仮にも内戦状態にある中国。陸上戦力をそこまで割くのは危険だ。それにも関わらず、なぜ?

「なに?台湾でも戦争なのか?」

 辰巳の声はその内容に対してなんの緊張感もなく発せられた。

「そうかもしれない」

 真はそう答えると、ニュースに意識を集中した。本当に戦争なのか?それとも?

<米軍は最大級の警戒体制で中国の動きに備える模様です>

 気づいた方もおられると思われますが、劇中は6月という設定の筈なのにこの第2話だけ7月になっているという大ポカをやらかしてしまいました。申し訳ございません。

 元々は夏という設定で執筆を進めていたのですが、高麗艦隊を梅雨の雨雲で隠すために6月に変更したという裏事情があり、このエピソードだけ7月のまま残ってしまったということです。

 というわけで、修正を行いました。萩原さんの言う「約束」ですが、矛盾を発生させないために出来た急造設定ですので、特に深い意味はございません。


(2017/7/18 一部改訂)

 問題のあると考える表現を改定、削除しました。

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