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二六.戦線突破

 続いてシンとラクスンの乗る機体を含めた別の2機が攻撃を仕掛けた。クラスター爆弾が稜線に向けて投下され、次々と炸裂した。


「ざまぁ見やがれ!」


 ラクスンが稜線上に次々と起こる小爆発を見て叫んだ。シンはすぐに機体を旋回させて帰ることにした。敵地の上空に長く居るものではない。



 KF-16のパイロットは隘路の上を一度、通り過ぎた。その間に下を見ると4輌の自衛隊の戦車が韓国海兵隊のK1A1に応戦しているのが見えた。

 KF-16はすぐに引き返すとFCSを稼動させた。彼のKF-16には僚機とともに対地ミサイルであるAGM-65マーベリックが装備されていた。

 別の2機のKF-16が急降下してバイパス隘路の自衛隊の陣地に無誘導爆弾を投下していた。その2機が急上昇して去ったのを確認すると、マーベリック搭載の2機が高度を保ったまま突入した。

 標的は4輌のうちの2輌。それぞれが1輌の戦車を狙い、1機が2発ずつ発射する。使用するのは赤外線画像誘導式で、ミサイルの先端に備えられたカメラの赤外線画像を見てパイロットが目標をロックすると、後はミサイルのメモリがその画像を記憶して自動的に追尾する。弾頭には57kgの成形炸薬弾が装備されていて、比較的に装甲が薄い戦車の上面を確実に貫く事ができるのである。



 2発のミサイルが命中して吹き飛ぶ10式戦車の姿を見て、氷室小隊から派遣されたベテラン1曹が肝を潰した。それで敵のミサイル攻撃の前に自分達がいかに無力かを悟ったのである。1曹はスモークを作動させると、すぐに擬装された隠れ陣地に戦車を隠すように操縦手に命じた。しかし、赤外線画像誘導方式のミサイルをどこまで誤魔化せるかは未知数であった。




演習林

 96式多目的誘導弾システムのオペレーターは直ちに第二次攻撃を行なおうと考えた。しかし、ヒュルヒュルヒュルという音を聞いて中断せざるをえなかった。高麗軍の砲撃である。逃げる暇も無いので、オペレーターたちは各種の車の下に潜り込んで、やり過ごすしかなかった。直撃弾さへ喰らわなければ、それなりに持ちこたえられる。




防衛線

 高麗空軍は自衛隊のレーダーシステムを破壊したため、瞬間的ではあるが防衛線上空の航空優勢を確保したと考えていた。他にも予備のレーダーがあるだろうが、対レーダーミサイルですぐに潰されてしまうと考えて、使用は控えるのではないだろうとも考えた。しかし、彼らは陸上自衛隊の防空能力を甘く見ていた。

 低空迎撃用の93式近距離地対空誘導弾は、敵がいくらか高い高度を飛んでいるので効果が薄いと思われた。となれば使うのは81式短距離地対空誘導弾ということになる。レーダーは失われたが、81式にはそれとは別に光学照準装置が準備されていて、レーダーに頼らなくても戦闘が継続できた。


「光波弾用意!」


 光学照準装置が空を飛ぶKF-16を捉えた。ランチャーに装填されているのは光波弾、赤外線画像誘導方式でレーダーの補助なしに使用できる。


「撃て!」


 2基の発射機からそれぞれ2発、合計4発の81式短距離地対空誘導弾が発射された。

 狙われたのは、さきほどマーベリックミサイルによる攻撃を仕掛けてきた2機であった。彼らは再び攻撃を行なうべく戻ってきたのだ。だが、その機会は遂に訪れなかった。自衛隊は一切レーダーを使わずにミサイルを打ち上げたのだ。なんの警告もなく、4発のミサイルは2機の戦闘機に襲い掛かった。1機は気づく暇もなく撃墜された。もう1機はミサイルの接近に気づき、回避行動を行なったが遅すぎた。結局、2機のKF-16が空中に散った。



 桜井が自らの塹壕から顔を出した時、あたりは酷い状況になっていた。クラスター爆弾が炸裂して、多くの隊員たちが死傷したのである。幸い彼とバディの1曹の入る壕は直撃を受けず2人とも無傷であったが、この有様では防衛線の維持は無理であろう。

 そして高麗側も当然それに気づいているから、再び兵士を集めて突撃してきた。


「予備陣地に撤収する!負傷者優先。戦える者は援護をするんだ」


 陣地防衛部隊の副官―指揮官は戦死していた―が声を張り上げて命令をしていた。桜井はすぐに銃を構えて、登ってくる高麗兵に浴びせた。生き残っている隊員たちも次々と射撃を始める。だが前ほどの勢いは無く、高麗兵の突撃を止めるには至らなかった。


「稜線に向かって火力を集中せよ。繰り返す、稜線に火力を集中せよ!」


 副官が無線の向こう―おそらく特科部隊―に怒鳴り終えると、負傷者が退却したのを確認した。


「よし。全員、撤収するんだ!」


 桜井は殿として最後まで射撃を続けると、部隊の最後尾を走って、下り斜面につくられた予備陣地まで撤収した。しかし、そこもクラスター爆弾のために酷い状況であった。

 やがて稜線の上で次々と爆発が起こった。特科部隊の砲撃で、高麗兵の進撃を止める効果は十分にあった。ともかく、自衛隊の防衛線の1つに穴が空けられた。




愛宕浜 海浜公園

 高麗軍の上陸したのは自衛隊の展開している新小戸公園のすぐ東側、マリーナを挟んで反対側にある砂浜であった。直線距離だと1kmほどの距離だが、間にマリーナの埠頭があるのですぐには迎えない。

 高麗軍は1隻の上陸用舟艇を失ったが、2個小隊と中隊本部、それに若干の重火器部隊を上陸させることに成功した。自動車1台も無い徒歩歩兵であったが、彼らの任務は敵を釘付けにすることであった、機動戦をすることでは無いので大きな問題ではなかった。




防衛線

 西部方面航空隊の対戦車ヘリ隊は、指揮官機である国産観測ヘリOH-1を中心にV字編隊で飛んでいた。主力となるのはAH-1Sヒュイコブラで、対戦車ミサイルTOWとロケット弾、20ミリ機関砲を装備する対戦車キラーである。

 ヘリ編隊は筑紫山地の山々の稜線に沿って超低空で這うように進んでいた。彼らは飯場峠上空を通過して西に抜けて、韓国軍の背後に回りこんだ。




北九州市

 対戦車ヘリ隊が第19普通科連隊の救援に向かっていた頃、第4師団直属の飛行隊は北九州に向かっていた。目的は連絡を断った第40普通科連隊と北九州の状況を探ることである。ただ第41普通科連隊情報小隊の報告により第40普通科連隊はすでに壊滅していると考えられた。

 第4飛行隊のOH-1観測ヘリは九州自動車道に沿って西へ進んでいった。OH-1にはコクピットの後方上部、メインローターの根元に索敵サイトが設置されている。これはカメラ、赤外線センサー、レーザー測距機を合わせたセンサーシステムで、昼夜を問わない偵察活動が行なえる。そして、OH-1のセンサーは恐るべき映像を捉えた。数キロ先の国道3号線、その上を走る軍用車両。


「あれは何だ」


 後席の偵察員が画像を拡大すると、見えたのはK1A1戦車、それに続く装甲車両である。


「海兵隊か?」


 前席に座り操縦を行なうパイロットが尋ねた。


「いや。装甲車はK200だ。陸軍だよ」


 K200はアメリカが開発した装甲兵員輸送車M113を改造した歩兵戦闘車両である。決して高性能ではないが量産性は高く安価に多数の車両を揃えることができる。12.7ミリ重機関銃の砲塔と9名の兵士を運ぶ能力を持ち、配備開始から30年近く経っているが現在でも高麗陸軍の主力装甲車となっている。


「糞!遂に陸軍の機甲部隊が活動を始めたのか!」


 それこそ揚陸を終えた韓国陸軍第11機械化歩兵師団第9旅団であった。それは、事態が既に西部方面隊が収拾できる状態でないことを示すものであった。




今宿駅前

 数時間前に桜井が黒部と出会った今宿駅前は、今にも戦場になろうとしていた。

 第4中隊は2輌の10式戦車を先頭に西へ進んでいたが、交差点の影に高麗戦車が潜んでいることに気づかなかった。4輌のK1A1戦車はその照準装置に10式戦車を既に捉えている。


「距離200。撃て!」


 先頭の2輌の10式は縦に並んでいたので、前を進む10式が狙われた。なかなか頑固な装甲が施されているとは言え、この距離から120ミリ徹甲弾を防ぐのは無理である。正面装甲を貫かれた10式はその場で停止した。

 それとともに第4中隊の車列が停まり、普通科隊員たちは外へ飛び出した。新たな戦いが始まった。

 残った10式戦車はただちに反撃を行なった。初弾で敵戦車の1輌を破壊したが、他の戦車は隠れてしまった。

 一方、歩兵隊は小道を使って高麗軍の背後に回りこもうとした。そして、敵戦車隊に随伴歩兵が伴っていないことに気づいた。ある1個小隊は交差点の南側に回り、敵戦車を1輌発見した。


「対戦車弾用意!」


 自衛隊では110ミリ個人携帯対戦車弾と呼ばれるドイツ製のパンツァーファウスト3を担いだ隊員3人―各小銃班に1つずつ配備されている―が指揮官のところへやってきた。


「後方を狙うんだ」


 普通科部隊に尻を向ける戦車に対して隊員たちが次々とパンツァーファウストが放たれた。後方は装甲が薄いので、軽量なパンツァーファウストでも貫通することができた。敵の戦車は半分に減った。

 とりあえず戦いは自衛隊側に優勢に動いていた。

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