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二五.迎撃不可

 88式地対艦誘導弾が高麗艦を捉えた。揚陸艦の方は戦車を上陸させて、次に物資や歩兵を載せたトラックが降りるところであった。駆逐艦は相変わらず艦砲射撃を繰り返している。6発のミサイルが弾頭に備えられたレーダーを作動さえて終末段階に入った。

 88式のレーダーをESMで探知した高麗艦は迎撃を試みた。揚陸艦の方は艦首に40ミリ単装機関砲を、艦橋の後ろに2基の20ミリバルカン砲を搭載しているが、どちらもレーダーに連動したCIWSでは無く迎撃は絶望的であった。一方、駆逐艦の方は自衛用にシースパロー短距離艦対空ミサイル16発とオットー・メララ127ミリ速射砲、30ミリCIWSゴールキーパーを装備している。しかし、イージスシステムを装備していないクワンゲト・デワン型駆逐艦が4発のミサイルを迎撃できるかは分からない。

 2隻の軍艦はまず電子戦装置を作動させた。妨害電波を発してミサイルを逸らそうとしているのだ。だが、6発のミサイルが逸れる様子はない。

 続いて駆逐艦から2発のシースパローミサイルが発射された。



 一方、演習林の中に隠れている96式多目的誘導弾発射機からも2発のミサイルが発射された。2発のミサイルは光ファイバーケーブルを後ろに引いて一直線に高麗軍揚陸艇を目指した。やがて弾頭部の赤外線シーカーが揚陸艇を捉え、画像として発射機に送信した。オペレーターは揚陸艇に照準を定めた。



 2発のシースパローミサイルのうち1発が駆逐艦を目指すミサイル群の先頭に命中した。もう1発は外れた。駆逐艦はさらに艦首の127ミリ砲も射撃を開始した。この速射砲は砲塔の大きさが満載排水量4000t弱の駆逐艦には不相応なもので、高麗海軍のような陸軍国家の海軍にありがちな過大な重武装でトップベイビーな船体を象徴するものであった。しかし対空射撃能力は抜群で、チュンムゴン・イ・スンシン型以降の駆逐艦に装備されたアメリカ製のMk45型127ミリ砲を上回っているとされる。それにより1発のミサイル迎撃に成功したが、まだ2発残っている。




対馬海峡上空

 壱岐空港から8機のKF-16が、そして対馬から4機のF-15Kが発進し、超低空で自衛隊防衛線の築かれた山を目指していた。そのうち先行する2機のKF-16が上昇して目標の山を視界に収めた。しかし、2機の任務は自衛隊の防衛線攻撃では無かった。



 水平線上に高麗空軍の作戦機が現われたので当然ながら陸上自衛隊の防空レーダーに探知された。だが、それは高麗空軍も当然に想定していることである。KF-16のESM装置にも自衛隊の対空レーダー波が感知された。それが“チキンゲーム”が始まる合図である。

 SEAD、すなわち敵防空網制圧は空軍が行なう様々なミッションの中でも最も困難で勇気が必要な任務であることは疑う余地が無く、空軍の兵士たちの間では“ヒーローミッション”と呼ばれる。普通、敵地に侵入する軍用機は、できる限りレーダーに探知されることを避けようとするが、SEAD機は逆に積極的に探知されようとする。敵国、今の場合は日本の自衛隊、のレーダー網を燻りだすために。

 KF-16のパイロットは敵のレーダーを見つけ出すために、レーダー波を追っていた。自衛隊がミサイルを撃つのが先か?それとも彼が対レーダーミサイルを発射するのが先か?まさに“チキンレース”であった。その時、KF-16のコクピット内に警報音が鳴り響いた。照準用レーダーが照射され、KF-16がロックオンされたのである。だが、これで敵を見つけ出せる。

 2発の81式地対空短距離誘導弾が発射された。2機のKF-16のパイロットはレーダーを攪乱する金属片(チャフ)や赤外線追尾を欺く熱源(フレア)をばら撒いて急旋回し回避を試みる一方で、捜索を続けて、自衛隊のレーダーの幾つかを遂に発見した。最初に発射された2発の81式はフレアに阻まれたが、まだ自衛隊はレーダー照射を続けている。だが、同時に2機のKF-16から1発ずつ対レーダーミサイルが放たれた。

 対レーダーミサイル、AGM-88HARMは敵の発するレーダー波を追うミサイルである。この攻撃に気づいた自衛隊は再び2発のミサイルを発射すると、すぐにレーダーを停止した。だが、HARMは追うべきレーダー波が停止されても、メモリーに記録された情報を基に目標へ向かっていく。今回は発射点がレーダーから近かったこともあり、レーダーが逃げ出す暇が無かった。かくして陸上自衛隊の防空システムの一端が破られ、高麗空軍の付け入る隙ができた。

 一方、空中に放たれた2発の対空ミサイルは、KF-16の排熱を追って突き進んでいた。2機のKF-16はまた先ほどと同じように急旋回とフレアの射出を行なった。だが今度は先ほどのように幸運には恵まれなかった。ミサイルのうち1発は外れたが、もう1発は見事に命中したのである。残りのSEAD担当機は、異国の空に散った同僚の二の舞にはなりたくないようで、そのまま壱岐まで去っていった。

 残りの10機の高麗空軍機は、2機を航空自衛隊戦闘機の襲撃に備えて待機させると、あとの8機は攻撃に向かった。




海上

 高麗揚陸艦は機関砲を空に向けて乱射しつつチャフを盛んに打ちあげて対応したが、目視照準の攻撃ではミサイルを撃墜できるわけもなく、また88式地対艦誘導弾の優秀なシステムはチャフの攪乱を切り抜けた。そして最後に揚陸艦の横っ腹に突入した。弾頭の榴弾が炸裂し、厚くはない船体を貫いて艦に積み込まれた物資を焼いた。



 駆逐艦の艦上に備えられたゴールキーパーCIWSが稼動した。オランダが開発したその兵器は30ミリガトリング砲とレーダーシステムによって構成される近接防御システムで、日本の護衛艦が搭載するファランクスCIWSよりも大型でより強力であった。7本の銃身から30ミリ弾が毎秒75発の速さで空中に放たれる。だが、目標にしたミサイルを撃墜することなく銃撃を止めてしまった。目標を撃墜するまで銃撃を続けるファランクスと異なりゴールキーパーは一定数の弾を撃つと銃撃を停止して次の目標に移る仕組みになっている。そのため、1発の88式を撃墜し損ねたのである。しかし、もう1発の88式は30ミリ弾が命中して空中で吹き飛んだ。


「回避!両舷前進全速!チャフ、発射!」


 高麗駆逐艦の艦長は艦を動かしつつ攪乱材を発射してミサイルから逃れようとした。しかし、無駄なあがきであった。幸い艦橋や船体からは逸れたものの、様々なアンテナ類が集中するマストに直撃した。死者は出ず航行も十分に可能で兵装類も無事ながら、レーダーや通信の中枢が吹き飛ばされたのは現代戦では大きな痛手である。駆逐艦は撤退せざるをえなかった。



 一方、揚陸艇にも96式多目的誘導弾が襲い掛かろうとしていた。揚陸艇なのだから対空ミサイルやらCIWSやらなどは当然ながら載せているわけもなく、歩兵が持つ小火器が唯一の防空火器であった。だが、細長い誘導弾に小銃弾を当てるのは至難の業だ。向かってくるミサイルに小銃やら機関銃やらを乱射するが、まったく落ちる気配がない。

 というわけで、ミサイルは何の損傷も受けることなく先頭の揚陸艇に突入した。96式は真上から揚陸艇に突っ込み、その戦車の装甲すら貫く運動エネルギーで船底を突き破り、船体の真下で爆発した。2つに折れた揚陸艇の船体は爆発の水柱で浮き、乗っていた兵士たちはそのまま吹き飛ばされて最後は海に叩きつけられた。


「よし、その調子だ!攻撃を続けてくれ!」


 新小戸公園では観測手が無線機に向かって新たな目標を指示していた。しかし、その要請が実行されることは無かった。




防衛線

 バイパス隘路には高麗軍の新たな歩兵中隊と戦車小隊が突撃してこようとしていた。それに伴い高麗海兵隊砲兵が猛烈な射撃を加えてくる。先ほどの戦闘で高麗軍は防衛線の突破には失敗したが、防衛線の位置を把握できたのでそこに火力を集中しているのだ。塹壕の中の隊員たちは堪ったものではない。


「退避!退避!第二陣地に後退するんだ!」


 古谷が自ら指揮する小隊の隊員たちに向かって指示した。


「ほら!後退だ!立ち上がるんだ!」


 小隊陸曹の砺波は、高麗の砲撃に怖気づいて塹壕の中に隠れている隊員たちを立ち上がらせようとした。


「怖がっているだけじゃ、何れやられるぞ!立ち上がるんだ」


 必死に部下を鼓舞しようとする砺波だが、それを必要としない者も居た。

 矢部は敵の砲弾が着弾する時こそ、さすがに隠れてしまうが、高麗の砲撃の狭間を見つけるとすぐに立ち上がって高麗軍の方に小銃を乱射していた。


「矢部!後退だ!それくらいにしておけ」


 逆に砺波が止めなくてはならないくらいであった。

 すると、味方の砲兵部隊も応射し始めた。高麗軍の砲兵部隊に対砲兵射撃を仕掛ける一方で、防衛線の手前に煙幕弾を撃ち込んで、普通科部隊が姿を隠して後退するためのスクリーンを作り出した。

 かくして高麗軍の予備部隊は阻止された部隊を通り過ぎて、誰もいなくなった自衛隊の陣地を踏み越えた。



 SEAD機のKF-16が陸上自衛隊の防空網を制圧して穴から、空爆部隊が侵入した。先頭は4機のF-15Kで、爆弾を満載していた。1機はシンとラクスンの機体であった。


「見つけたぞ。あの稜線が自衛隊の防衛線だ!」


 ラクスンが機体下部に取り付けられたタイガーアイ目標指示ポッドの赤外線画像を見て言った。彼らの目標はバイパス隘路ではなく、桜井たちが守る隘路の南の稜線であった。

 先行の2機がクラスター爆弾を投下した。目標は自衛隊と高麗軍が戦闘を繰り広げている稜線の西側ではなく反対側の東側であった。高麗軍の考えでは、自衛隊は稜線の反対側に反斜面陣地を築いていると考えたので、まずそれを潰そうとしたのである。実際、反斜面には自衛隊の陣地が築かれていて、高麗軍が稜線を越えてきた場合に味方を収容して高麗軍を阻止するために予備の隊員や無反動砲のようななけなしの火力が集められていた。

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