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一六.暴露

首相官邸

「国会?この非常時にか?」

 烏丸は秘書官の言葉に対して目を丸くした。

「会期中ですから」

 秘書官は淡々と言ってのけた。

「こういうときこそ政治がしっかりとしなくてはなりません」

 菅井が付け加えた。

「どうしようかね?」

 烏丸の問いに内閣法制局長官が答えた。

「対処基本方針を国会に提出して承認を得る必要がありますね」

 対処基本方針は<武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律>においてその製作を義務付けられていて、第9条2項にその内容についての記載があり、

 一 武力攻撃事態であること又は武力攻撃予測事態であることの認定及び当該認定の前提となった事実

 二 当該武力攻撃事態等への対処に関する全般的な方針

 三 対処措置に関する重要事項

となっている。

 防衛出動を命じた時、同時に製作すべきものなのだが。韓国大使の要求にどう対処すべきかなかなか結論が出ずに、今でも形になっていない。

 そこへ内閣情報調査室室長がメモ用紙を片手にやってきた。

「総理。緊急です」

 渡されたメモを見た烏丸の顔が青ざめていくのを、周りの閣僚達はその目で見た。

「テレビをつけろ」




青瓦台

「やったー!」

 栄白一外交通商部長は日本の報道―高麗では日本の衛星放送を受信できる―を見て歓喜していた。テレビでは高麗が日本に対して外交的解決を迫っていることを伝え、高麗側の要求の一部―主に日本国民を過度に刺激しないもの―まで報道されていた。

「駐日大使館の職員を通じて日本の報道機関にリークしたのですよ。これで我々は一気に有利になります」

「どういう影響を及ぼすのかね?」

 大統領が尋ねた。

「日本の報道機関は我々に都合の良い報道をしてくれる筈です。外交的解決を目指す我々を支持し、武力解決を図る日本政府を糾弾するでしょう。日本の報道機関は自分達の仕事を、真実を伝えることではなく愚かにも自分の国を貶め罵倒し叩き潰すことだと勘違いしているのです」

 それが日本の報道機関の一面であった。ある新聞社の場合、英字新聞において長年に渡って日本人の尊厳を卑しめる低劣な内容の記事を掲載し、海外に向けて発信していたという事例があった。




名古屋市内 あるアパートの一室

 真は徹夜でテレビに張りついていた為に、すっかり眠くなっていた(弟はとっくの昔に眠ってしまっている)が、その報道にすっかり眠気が覚めてしまった。電源をつけたままのパソコンの前に座って、某匿名掲示板にアクセスした。朝早くにしては流れが速かった。内容はだいたい予想通り、高麗の要求を非難するものが大半である。政府はまだなんの声明も発表していないのに既に高麗に屈服してしまったかの如く言う書き込みもある。彼らの言葉によれば烏丸総理(ネット上では辛沼とも呼ばれる)は親韓派の売国者だから屈服するのは当然なのだそうである。

「どの総理大臣の時でも同じような事言っているよな」

 政府に対する見方は人それぞれだが、1つの点では、皆が同じような意見であった。



124名前:名無しさん 投稿日:2015/7/23(木) 07:00:07

 というか、海上自衛隊はなにやってんだ?

 簡単に蹴散らせる筈だろ?

133名前:名無しさん 投稿日:2015/7/23(木) 07:01:24

 >>124 辛沼のせいだろJK

151名前:名無しさん 投稿日:2015/7/23(木) 07:02:12

 辛沼さえいなければ、とっくの昔に終わってるよ

162名前:名無しさん 投稿日:2015/7/23(木) 07:03:02

 自衛隊がまさか上陸を許すとは思わなかったわ

 まぁ、これからが自衛隊の見せ場だな

 九州には10式戦車もあるし

200名前:名無しさん 投稿日:2015/7/23(木) 07:5:15

 防衛出動はもう出てるんだから、辛沼が邪魔しなきゃ明後日には終わってるだろ



 誰もが自衛隊の圧倒的な強さと勝利を信じている。だが、真はそこまで楽観的にはなれなかった。




日本海上空

 高麗軍の上陸により日本海に面するすべての自衛隊部隊が何らかの行動に出ていた。それは九州に上陸した高麗軍への対処は勿論だが、高麗軍が陽動の為に各地に牽制上陸を行なう可能性も考慮してのものだった。

 岩国基地から数機の大型機が飛び立ち、そんな自衛隊部隊の群れの中に加わった。それは一見すれば高麗海軍の封じ込めの為に多数出撃している海上自衛隊の哨戒機であるP-3Cにも似ているが、実際には特別任務を帯びた特殊機であった。



 コールサイン“ヴァイオレット3”を与えられた画像偵察機OP-3Cは、装備する側面監視画像レーダー(SLAR)長距離監視センサー(LOROP)を駆使して対馬海峡に居る筈の高麗艦隊の姿を追っていた。コクピットの機長には前を飛んでいる同様の任務が与えられて高麗軍の無線電波を探っている電子偵察EP-3Cの姿も確認できた。

「高麗艦艇を確認!」

 これまで無言でコンソールにむかっていたオペレーターの1人が叫んだ。

「撮影したか?すぐに転送だ」




厚木 海上自衛隊航空集団司令部

 日本海から東シナ海にかけて哨戒網を敷いている前線の海上自衛隊航空機部隊から次々と報告が入ってきたが、どれも芳しくないもので、ヴァイオレット3が撮影した1隻のウルサン級フリゲートの写真が唯一情報と言える情報であった。

 そういう状況なので航空集団司令部のオペレーションルームに詰める司令や幕僚たちの表情は暗かった。

「おそらくEMCON(エムコン)―電波輻射統制の略―を徹底して、個艦単位で行動しているのでしょうね。艦隊を組むとしても精々2〜4隻程度が最大になるんじゃないでしょうか?」

 情報士官が司令官に説明した。

 ようするにレーダーや無線の使用を極限にまで制限した上に、バラバラに行動することで発見されにくくしているということだ。

「おそらく徴用したフェリーや貨物船なんかは護衛もなしの単独航行でしょうね」

 これは無謀であるかのようにも思えるが、海上自衛隊にしてみれば実にやっかいな行動なのである。なぜなら、対馬海峡は国際海域であり、様々な国籍の船が行き交っている。であるから、単独航行の方が目立たず中立船の大群に紛れて敵味方識別が面倒くさくなるので幾らか安全なのである。洋上にいる船が高麗軍に協力する船なのか、それともただの民間船なのかを判別するには、最終的には臨検を行なうしかないが、対象の数は膨大であり、しかも臨検を行なうべき海上保安庁や海上自衛隊の艦船は安全圏に退避している。それに海上自衛隊が敵を見つけることができても数百隻の中立船がいる海域で海戦を行なうことは難しいし、もし誤射でもして中立船を沈めれば日本が国際社会から批判を受けることになりかねない。

「EP-3Cはどうだ?」

 航空集団司令の羽佐間海将が尋ねた。

「高麗が無線封鎖を徹底している上に、中立船舶が一斉に無線で情報収集を開始したもので。ようするに近くにいる船に「なにが起こっているか知っているか?」と皆が尋ねているわけです」

「手詰まりだな」

「どちらにしろ、対馬海峡から中立船がいなくなるまで数週間はドンパチは起こせませんよ。対馬海峡の両端で見張るだけ」

 情報士官はそう言って司令を慰めた。たぶん日本海を南下している船は対馬海峡を無理にでも通ろうとするだろう。日本列島に囲まれた内海である日本海には抜け道はないし、Uターンして津軽なり宗谷なりの海峡に戻ると時間と燃料を食うことになり、結果的に莫大な損害となる。おまけに国際海峡でそういう行為をすれば事故の原因となる。

「それにしても静かですね」

 主席幕僚が呟いた。

「あぁ。工作員が基地に迫撃砲なりRPG撃ちこむなりするくらいはあると思ったんだが」

 自衛隊がとにかく恐れている日本各地での陽動攻撃の兆候はまるで無い。高麗には当然その能力もある筈である。日本国内への海から侵入が容易いことは、1970年代を中心にかつての北朝鮮が起こした恐るべき犯罪行為によって証明されている。漁船程度の船があれば朝鮮から日本海沿岸まで行き来することが可能で、それを全て防ぐことは不可能なのだ。

「もし俺が高麗側の司令官だったら、絶対にそうするね」

 司令が続けた。

「もししないとすれば、軍事的な理由じゃない。政治だ」




小倉駐屯地

 黙々と大局的な情報分析を続けていた厚木の航空集団司令部に対して小倉の第40普通科連隊本部はまさに絶望的な状態となっていた。敵が陽動のゲリラコマンドではなく正規軍だと判明し、第1中隊は蹴散らされ、予備として残してあった第4中隊を投入したものの戦車を含む大隊規模の部隊に太刀打ちできるわけでもなく分断され、残っている小部隊がバラバラに交戦している有様だった。というわけで高麗軍部隊は北九州市内を縦断しつつある。目標はおそらく小倉駐屯地だろう。

 無事に残っている部隊は北九州の西側で無意味な封鎖を続けている第3中隊と門司で高麗軍コマンドと対峙している第2中隊である。

「残余2個中隊をもって南下する高麗軍を阻止する」

 金井連隊長の言葉に指揮所に詰めていた幕僚達が絶句した。

「連隊長。それは無謀です。戦力の逐次投入になる。一旦、部隊を下げて再編制をすべきです。第41普通科連隊戦闘団も直に到着しますから、一緒に反撃を行なうべきです」

 作戦幕僚は食い下がったが、金井は首を縦に振らない。

「君の言うことは分かる。だが、我々は下がるわけにはいかない」

 そこに連隊長へ電話がかかってきた。相手は第4師団長の内海であった。

<内海だ。金井、聞いているか?命令だ。すぐに北九州市内から退避せよ。街の外に出て第41連隊と合流するんだ>

「その命令は承服できかねます。我々は逃げるわけにはいきません。そうすれば北九州市民を見捨てることになります」

<君の言うことはよく分かる。守るべき民を見捨てて逃げるという行為は自衛官にとっては堪えがたいことだ。だが、これ以上、市内に留まれば避難民がどんどんと増えて、退避は困難になる上に、混乱が生じてますます被害が増える。

 それにだ。君たちが破られた時に、いったい誰が人々を守るというんだ。金井、大局的見地から物を見ろ>

「内海さん。我々は自衛官です。市民を守らずして何が自衛隊ですか!」

 そう言うと、金井はそのまま電話を切ってしまった。

・ユニークアクセス1万突破。読者の皆様、ありがとうございます


(2012/5/25)

 内容を一部修正

(2017/7/18)

 内容を一部修正

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