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一四.衝撃

門司

 門司周辺の偵察任務を与えられた第2中隊は旧門司と呼ばれる地区で高麗軍の攻撃を受けていた。文字ヶ関公園脇の曲がり道、その側面の山の上に高麗軍は機関銃陣地を設置して、自衛隊部隊に射撃を浴びせてきた。

 隊員たちは高機動車を盾にして、なんとか突破の方法は無いかと考えていた。強行突破しようにも、下手に接近すれば無反動砲の餌食になるというのは、彼らの目の前で炎上している1台の高機動車が示している。

 先遣となった1個小隊が高麗軍と接触したのは1時間前。それ以降、膠着状態となり、それを打開するために中隊が集結を終えたのが10分前。部隊の最後方に設置された中隊本部で中隊長の中田3佐は作戦を練ったいた。


「第1小隊がここで高麗(ヤツラ)を釘付けにしろ。第2小隊と第3小隊が迂回。後方から敵陣地に浸透する。第4小隊は「めかり山荘」までまわって山中を斥候。軽迫撃砲と対戦車、各小隊は援護の準備を」


 中田は路面に地形図を敷いて小隊長たちに簡単な説明を行うと作戦実行を命じた。1分後、中隊付の81ミリ軽迫撃砲が射撃を開始した。




北九州市街

 先遣として高機動車装備の1個小隊が先を進み、その後方500mほどを74式中型トラックと高機動車の混成装備の中隊主力が進む。まだ朝早くだが、避難警報のサイレンに叩き起こされた人々の車が少しずつ増えてきていた。早く決着をつけなくては収拾が不可能にある。誰もがそう考えていた。

 その時、先頭を行く高機動車の運転手が前方の交差点の横道から人々が走って出てくるのを確認した。彼らは何かから逃げているようだった。


「前方に敵がいるようです。停車し、徒歩で確認します」


 高機動車が停まり、1個班10名の隊員が車を降りた。



 班長の1等陸曹を先頭に10名は道を進んだ。やがて交差点に達した。避難民を掻き分けつつ見たのは戦車の砲塔だった。


「K1A1戦車だ!」


 班長は隊員たちに銃を構えさせると、1人の隊員を伝令に指名して報告に行かせた。



 報告を受けた中隊長は各小銃小隊の01式軽対戦車誘導弾の発射用意をすると同時に対戦車小隊の指揮官を呼び出した。陸上自衛隊の各中隊には87式対戦車誘導弾を装備する対戦車小隊が編制されている。呼び出された対戦車小隊長に中隊長は次のように言った。


「対戦車小隊は後退し、防御線を設定してくれ。そこに誘導弾を配置し、我々の到着を待て」


 相手に戦車がいる以上、遭遇戦になってしまえば勝ち目は無い。この場合、87式対戦車誘導弾を使うには交戦距離が短すぎて一方的に殲滅されることになりかねない。中隊長はそれよりも部隊を後退させて十分な準備をした状況で敵を迎え撃とうと考えたのだ。その為、小銃小隊で敵を食い止めて、その間に対戦車小隊を下げて防御線を構築させようというわけだ。



 先頭で高麗軍を監視している班の隊員の1人が01式軽対戦車誘導弾を構えた。01式軽対戦車誘導弾は国産の小型対戦車ミサイルで敵車両の発する熱を追尾するので、射手が最後まで誘導する必要が無いという利点がある。

 射手は目標として選んだ先頭の戦車に照準を合わせた。01式は戦車の弱点である砲塔上面を狙うダイブモードと最短距離で目標に迫る低弾道モードを使い分けることができる。この場合、敵戦車との距離が短いので射手はダイブモードを選択した。


「発射!」


 発射された誘導弾は一気に上昇してK1A1戦車の上面にダイブしたのだ。戦車というのは砲塔正面の防御力は高いが側面や上面の防御力は相対的に低い。そこを狙う攻撃をトップアタックという。誘導弾はK1A1戦車の上面装甲を簡単に貫いた。映画のように搭載している弾薬に誘爆して大爆発が起きるようなことは無く外観には大きな変化は無かったが、戦車としての機能は既に失われている。

 K1A1が被弾すると同時に後続していた乗用車から高麗軍兵士たちが降りて、応戦の態勢をとった。

自衛隊は後退を開始した。




福岡駐屯地 第4師団司令部

 北九州に戦車が出現したという情報は、上陸部隊をゲリラ・コマンド部隊だと考えていた第40普通科連隊、次いで第4師団に大きな衝撃を与えた。それは北九州に上陸したのが正規軍であることを示しているからだ。現在、第4師団は福岡西部に上陸した海兵隊部隊を主攻と考えて、主力を福岡に動かしていた。


「戦車大隊だが、どういう状況だね?」


 師団長の内海(うつみ)陸将が師団の幕僚長である1佐に尋ねた


「第1中隊及び第3中隊が福岡に展開しています。さらに第2中隊が大村から前原に向け進出中の第16普通科連隊を援護するために長崎自動車道を西進中です。」


 その3個中隊が第4戦車大隊の全力である。本来ならば各師団の戦車大隊にはその師団の普通科連隊(第4師団の場合、4個普通科連隊)と同数の中隊が配備されていて、各普通科連隊を1個中隊で直接支援するのであるが、戦車を600輌まで削減することが政治決定してしまったために、それは不可能になってしまった。


「第5施設団は?」


 第5施設団は西部方面直轄の工兵部隊で、第4師団とは同格の部隊である。その隷下にある第2施設群は臨時に第4師団の指揮下に入っていて、5個中隊のうち4個中隊が福岡の戦線まで前進し、第4師団第4施設大隊、ようするに師団工兵だ、と協力して高麗海兵隊に対抗するために陣地構築を行なっている。なぜ1個中隊だけ取り残されているかと言えば、第2施設群の主力が北九州と福岡の中間地点である飯塚市の駐屯地を拠点にしているのに対して、残りの1個中隊は湯布院の温泉地で知られる大分県由布市の駐屯地にあるからだ。


「湯布院の大分自動車道を第368施設中隊が移動中です。これを北九州に向かわせましょう」


 作戦参謀にあたる第3部長がそう助言を行った。


「ただ、小郡(おごおり)の第9施設群は福岡まで前進させるつもりは無いようですね」

「やはりか。展開予定地は大宰府あたりか?」


 ようするに西部方面隊は福岡を見捨てて、その後方に防御戦を構築しようと考えているのだ。


「えぇ。住民の避難支援のためと一応はなっていますが」

「まぁいいさ。狭いところにやたらと兵力が集中しても混乱を招くだけだ。第4特科連隊に1個大隊が予備として残っている筈だな。よし第41普通科連隊と第368施設中隊、特科大隊を合流させ、連隊戦闘団を編成する」


 連隊戦闘団とは主に1個の普通科連隊に戦車中隊や特科大隊を配属して臨時に編成される諸兵科連合部隊(コンバインド・アームズ)であり、小型の師団とも言える。かつて大戦末期のドイツ軍が多用していたカンプグルッペが有名である。


「合流地点は夜明駅付近だ。問題は戦車だな。正規軍相手では戦車なしでは心許ない」


 内海は決断を下した。


「第3中隊を北九州へ転進させる。飯塚で戦闘団と合流させろ」

「しかし師団長。第3中隊の保有する戦車は74(ナナヨン)ですよ?」


 第4戦車大隊第3中隊は九州では唯一74式戦車を保有する部隊なのである。74式という名前からも分かるように、1974年に正式採用された旧式の戦車で、最も新しく製造されたものでも配備から25年ほど経過している。戦車総数の大幅削減と10式の配備より既に最盛期の半分以下の数しか配備されていないが、それでも現在の自衛隊を支える貴重な戦力であることは間違いない。だが、高麗軍の新型戦車に対しては分が悪い。




門司

 第40普通科連隊第2中隊第2小隊及び第3小隊は森林の中を匍匐前進で進んでいる。彼ら迷彩服を着込み鉄帽に枝やら葉やらを貼りつけて顔面にドーランを塗って森と完全に一体化していた。

 陸上自衛隊の匍匐前進は異様に速い。これは予備が少ないために各隊員個人に超人的技量を求めた結果なので単純に喜ぶことはできないが、ともかく2個小隊は迅速に攻撃位置へ進むことができた。

 攻撃位置に到達すると、指揮官の3尉は手信号で部下たちに指示を出し、配置を指定して最後に自らの小銃に銃剣を装着した。

 やがて軽迫撃砲の射撃が終わったのか、爆音が聞こえなくなってきた。


「突撃!」


 それまで伏せていた小隊の隊員たちは一斉に立ち上がり、高麗軍陣地に向けて突撃を開始した。それに合わせて第1小隊が援護射撃を行う。

 高麗軍陣地は深さ50センチ程の個人用塹壕(タコツボ)がいくつも掘られていて、兵士たちはそこに隠れて迫撃砲攻撃に耐えていた。もちろん高麗軍側も側面からの攻撃に対して備えはしていたが、陣地を守っている高麗兵は1個小隊にも満たなかった。目の前の小隊が全力射撃を行い身動きが取れなくなったところへ、別の2個小隊が突撃をしてくるのだ。


「機関銃陣地だ!」


 先頭を行く第2小隊小隊長が、第1小隊に向け射撃を続ける機関銃を発見した。小隊長は後ろをついて来たカールグスタフ手を掴まえると機関銃陣地攻撃を指示した。

 カールグスタフ手は木の陰に隠れると、弾薬手に榴弾を装填させた。至近距離からの攻撃で、しかもタコツボの中の機関銃手を上から攻撃する形になったので効果はてき面だった。

 それを合図に小隊の隊員たちは高麗陣地に突入した。タコツボの中に篭っていた高麗兵たちの動きは当然ながら鈍いものとなった。タコツボの中で思うように身動きがとれない高麗兵を上から射殺する者も居れば、自らタコツボの中に飛び込み銃剣を高麗兵に突き刺す者、高麗兵の反撃で数名の隊員が撃たれたが勝敗はすぐについた。不利を悟った高麗軍の指揮官が降伏の意思を示し、部下に銃を棄てさせたのである。



 高麗軍の指揮官が中隊の本部に連れて来られた。中隊長は自ら尋問を行なうつもりだった。中隊長は自分の身分を示して高麗の指揮官に国際法に基づき捕虜として扱われるということを説明した。そして説明を終えた時、とてつもない爆音が響いた。


「何事だ!」


 中隊本部は状況が分からず混乱する中で、捕虜の指揮官は不敵な笑みを見せた。

 数分後、斥候に向かった第3小隊からの伝令が中隊本部を訪れて何が起こったかが判明した。


「大変です。高麗軍の奴ら、開門大橋を爆破しました!」


 高麗軍が九州と本州の分断に成功した瞬間だった。

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