一三.進撃
北九州港
高麗陸軍の揚陸が始まり4時間近く経ったが、まだまだ終わりは見えなかった。現状、即座に行動可能なのは戦車1個中隊に歩兵2個中隊ほどだ。それでも補給物資の荷揚げが不十分なので長期間戦うことはできないだろう。今のところ、存分に戦えるのは空中襲撃旅団と事前展開したコマンド部隊だけだ。旅団は港の周囲を固め、コマンドは北九州市周辺で遊撃戦を実行中である。一部の部隊が築城基地襲撃に割かれ、荷揚げした装甲車とともに南下したが連絡が途絶えてしまっている。
チョリマ作戦の統合指揮官であるチェ・チョンヒ中将は自動車学校の会議室に司令部を設けていた。
「海兵隊の方はどうなっているのかね?」
コの字に並べられた机の一番奥に座るチョンヒが、端に座る海軍の連絡官へ尋ねた。
「作戦は順調です。1個連隊戦闘団の揚陸を完了し、福岡市への進撃を開始する予定です」
「順調でなにより。やはり専用の揚陸艦を持つ海兵隊は羨ましいね」
兵士を陸地に送り込むために建造された揚陸艦と通常の貨物船では部隊を揚げるのに必要な時間について雲泥の差が生じる。ある試算では通常型の貨物船で歩兵師団1個を揚陸するのに72時間の時間が必要とされている。今回、高麗軍は主にカーフェリーやRO-RO船(貨物を載せたトラックが直接船内に載りこむことができる特殊な貨物船。貨物版カーフェリーと言える)を使用しているので、時間は大幅に短縮できるが、それでも多くの時間が必要である。
連絡官は海兵隊についての報告をさらに続けた。
「自衛隊は半島の根元に防衛線を展開しているようです。すでに砲兵も展開しており、我が海兵隊と火力戦を行っています」
「こちらの方はどうだね?」
チョンヒは連絡官の報告を聞くと、隣に座る主席参謀に尋ねた。
「コマンド部隊の偵察報告によれば、この方面の自衛隊はまだ情報収集活動を続けており、戦車や砲兵部隊が現われる兆しはありません」
主席参謀の李大延大佐はかつて北朝鮮戦車部隊の指揮官を務め、叛乱鎮圧や北朝鮮内戦で戦闘を経験し、市街地における戦車運用の専門家として高麗軍では知られている。
「司令。おそらく日本は我々をあくまで陽動であると考えて、主力は福岡へ向かっているのでしょう。目下のところの脅威は周辺の自衛隊軽歩兵1個連隊だけです。空中襲撃旅団から1個大隊を抽出し、第11師団の戦車中隊を付けて殲滅しましょう」
「その案を採用する。ただちに準備にかかれ」
対馬空港
海上保安庁の巡視船を撃破した高麗艦隊は浅芽湾の奥へ進んでいた。その向こうに対馬空港がある。彼らは対馬空港の確保のために派遣された部隊なのである。
LCU-1610型が着岸した。100名の人員と野戦用の航空管制装置、防空装備を載せて。艦の全部ランプが開き、兵士たちが地上に降りた。目の前の山を登れば、そこが対馬空港である。
対馬空港は、1900mの滑走路を持つ第3種空港であり山頂を切り開いて作られた空港である。上陸した高麗兵は空港北側の斜面を登っていった。そして空港に辿りついた彼らを待っていたのは、毎分400〜600発の発射速度を誇る12.7ミリ機関銃M2の銃口であった。先回りした佐久間達対馬警備隊は、機関銃陣地を築き高麗軍を待ち構えていたのだ。
「やりましたね!二曹!」
射撃を行なっている隊員が、横で陣地の陰に隠れている佐久間に叫んだ。
「油断するな。兵力は向こうが上だ。力押しされたらかなわん」
12.7ミリ機関銃の前では高麗兵は無力だった。装甲車をも貫く弾丸の連射の前では、軽装備の彼らは隠れるしかない。
「佐久間二曹!我々の勝利ですね!」
射撃を行なっている隊員は相変わらずうれしそうだ。
「あぁ。だがなにか嫌な予感がするんだ」
佐久間の予感は外れていなかった。
それは爆音とともに現れた。
「10時方向より高麗軍ヘリ!」
警戒を行なっていた隊員が叫んだ。彼が指さす方向には、高麗軍の500MDの姿があった500MDは機体の右側面にロケット弾ポッド、左側面に7.62ミリガトリング式機関銃ミニガンが装備されていた。この機体は上陸支援の為に【元山】に載せられていたものである。
「待避!」
佐久間がそう叫ぶ前に、シュという音とともにロケット弾が放たれた。ロケット弾は、機関銃陣地に突き刺さり爆発する。射撃をしていた隊員も吹き飛ばされ、この世から消えた。
「退却!退却!」
佐久間は空港駐車場に向かった。駐車場には73式小型トラックが2台停めてある。
「早く乗るんだ!」
先頭を行く隊員が、オープンタイプの73式に飛び乗り、そのまま運転席に収まった。差し込んだままのキーを掴み、エンジンをかけようとした時だった。
空港建物の上に500MDが現れ、再びロケット弾を発射した。73式小型トラックは隊員を載せたまま吹き飛んだ。
残った隊員は、もう1台の73式小型トラックを目指したが、佐久間が制止した。
「バカ!上から狙い撃ちされるだけだ。林に逃げろ」
佐久間を先頭に駆けてゆく隊員達を、500MDは容赦なく攻撃した。ミニガンが隊員達を襲う。<無痛ガン>とも呼ばれるミニガンの掃射は、隊員達の生命をいとも簡単に奪う。事実、佐久間が気づいた時には2人の隊員が地面に倒れ、絶命していた。
佐久間は、駐車場近くの林に逃げ込み、木の陰に隠れた。生き残ったのは、彼を含め3人だけだった。
対馬空港は占拠され、高麗軍は対馬を南北に分断することに成功した。
北九州港
高麗軍が占拠した埠頭の一角に空中襲撃旅団の1個大隊の将兵たちが集結していた。彼らの前には第11師団の戦車大隊から増援として来たK1A1戦車14輌の姿があった。K1A1戦車は韓国時代に開発されたもので、初の国産戦車であるK1を改良したものである。主砲は120ミリ滑腔砲を装備していて、これは日本の90式やアメリカのM1A2戦車と同等のものである。しかし元々105ミリライフル砲を装備する戦車として開発されたため、120ミリ砲を装備したことで、より強い反動による照準のブレが大きくなり命中精度が下がり、またより大きな砲弾になったことで装備できる弾数が減った、という弱点を持つ。
兵士たちは待機していたヒュンダイの四輪駆動車とトラックに乗り込んだ。まだ十分な装備品を陸揚げしていない高麗軍は、こうやって市販車を利用せざるえなかった。
北九州市街
小倉城を望む新勝山公園。周辺には北九州市役所や小倉北区役所など市の中枢とも言うべき施設が立ち並ぶこの地は第1中隊の集結地に選ばれた。
「敵の主力は港一帯に展開しているようだ。第3中隊と挟み撃ちする」
中隊長は市街の地図を芝生の上に敷いて集まった小隊長たちに作戦を伝えた。
「市役所、区役所の方はどうなっている?」
「ダメです。深夜に残っていた職員はほとんどが殺されました」
捜索を行っていた小隊の指揮官が答えた。
「一部は図書館に逃げて難を逃れましたが…惨いことをするものです」
「まったくだ。市役所は小倉南区役所で業務を継続しているが、やはり支障が出ている。早くここを安全地帯にしよう」
「第2中隊ないし第4中隊の増援は得られませんか?」
別の小隊長が中隊長に尋ねた。
「第2中隊は第2中隊で、門司方面で交戦中らしい。こちらへの増援は無理だ」
「敵は門司方面にも居るってことですか?」
「そのようだ。敵情は未だにはっきりしない。それゆえ予備の第4中隊も動かせん。とにかく我々はやるべきことをやるだけだ。出動!」
小隊長は自分の小隊に戻り、隊員たちを各自の車両に乗せて、そのまま発進した。
ぶっちゃけた話、ソースは某大型匿名掲示板であったりすることもあるので、あまり真に受けないように
無責任ですみません