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十一.築城防衛戦

築城基地

 滑走路のど真ん中に開いていた穴は埋められた。破壊されたF-15は撤去され、パイロットの遺体も回収済みである。


「修復完了。いけます!」


 滑走路の修復作業の指揮を執っていた男が、頬の汗を拭いながら無線機に向かって叫んだ。


<了解。これより新田原への移動を開始する>


 素直に逃げると言いなよ、と思いつつ男は無線を切り、格納庫へ走っていた。この後、陸上自衛隊の輸送隊が築城基地に保管されている弾薬類を新田原に持っていく手筈だ。そして、その後は男も新田原まで逃げる。築城基地に残るのは陸上自衛隊の守備隊だけ。築城は基地としての機能を完全に停止する事になる。




 滑走路上に2機のF-15Jが踊り出た。8発の空対空ミサイルで武装した完全装備だ。滑走路に出るとパイロットは愛機をすぐさま発進させた。そして、その後にすぐさま別のF-15が滑走路に現われる。撤退作戦は順調に進んでいた。





九州上空

 KF−16の編隊は、築城の空自機を完全に殲滅する為に出撃し、今は地対空ミサイルを避けるために超低空を飛行していた。KF−16編隊12機のうち8機は500ポンド爆弾などを載せて爆装していた。

 爆装の8機が超低空で先行し、残りの4機はその後ろを警戒のためか、若干高い高度を飛んでいる。


<レッド1!こちらレッド2。AEWの援護なしで大丈夫なのでしょうか?>


 レッド1―キム大尉は、部下の言葉を聞いて、思わず腹をかかえて大笑いしそうになった。


「安心しろ。日本軍(自衛隊)はしばらく動けんだろう。それに動いたとしてもチョッパリ(日本の蔑称)の腰抜けになにができる?レッド9。お前も爆装してこればよかったのに。そうすればチョッパリどももっと派手にふっとばせたんだぞ?」


 KF-16、レッド9〜12は空中戦に備え、爆弾の代わりにAIM-120AMRAAM(アムラーム)空対空ミサイルを搭載していた。


<しかし、日本軍と交戦した時の為の備えは必要でしょう>

「お前もか?レッド9。どうしてお前はそんなにチョッパリを恐れるんだ」

<しかしですね。>


 レッド9のパイロットは、最近、竹島上空の哨戒飛行を強行した時に日本軍機と遭遇していた。F-15Jイーグルだ。パイロットは極めて冷静かつ慎重であった。優秀なパイロットだと感じた。そうだ。日本空軍のパイロットは優秀なのだ。もし日本空軍の戦闘機と交戦したら、はたして生き残れるのであろうか?


<レッド2よりレッド1へ。ESMが強力なレーダー波を確認。AWACSと思われる>

「こちらレッド1。どうせ脅しだ。チョッパリには交戦する意志などある筈がない」

<こちらレッド9。なぜそう言いきれるのですか?敵が接近しているかもしれないのですよ>

「チョッパリは話し合いで全てが解決できると本気で信じている民族だ。交戦する勇気などない!」


 レッド9のパイロットは舌打ちした。

 なぜこのようなバカの下で行動しなければならないのだ!これも我が祖国の大統領のせいだ。彼は徹底的な反日政策を行い、この軍事侵攻作戦を計画した。そして、その過程で愛国主義者、反日主義者が優先的に昇進させ、また少しでも日本を擁護したり政策に否定的な意見を言ったりする人間は徹底的に排除された。その結果がこれだ。現実を知らず、ただ祖国を持ち上げ、日本を罵倒するしかできないような人間が上層部のほとんど占めるようになってしまったのだ。




 F-4EJ改は、E-767AWACSの指示により大きく旋回してKF-16の機首に装備されているレーダーの索敵範囲外である斜め後ろからKF-16に接近していた。

 F-4EJ改は攻撃の手順を開始した。FCS(火器官制装置)をONにして、照準のためにレーダー派を照射する。F-4EJ改に搭載されているレーダーはAPG-66と言って初期型のF-16に搭載されていたものと同じレーダーである。一方でKF-16のオリジナルはF-16の後期型で、より新型のAPG-68を装備している。このようにF-4EJ改はKF-16に対して様々な面で劣っているので、第1撃でできる限り撃ち落さなくてはならない。


「ターゲット…」


 HUD上のロックオンサイトがKF-16を示すマーカーと重なった。


「ロックオン!エポック1、フォックス1!フォックス1」


 <フォックス1>は、パイロットがミサイルを発射する時にする合図で、フェネティックコードでFを示すFOXTROT(フォックストロット)の略称であり、FIRE(発射)の頭文字であるFを意味する。自衛隊では中距離空対空ミサイルの発射時にフォックス1、短距離空対空ミサイルの場合はフォックス2、機関砲はフォックス3である。(ジョークとしてフォックス4がカミカゼというものがある)

 先頭を飛ぶF-4EJ改の翼下から2発のAIM-7スパロー中距離空対空ミサイルが放たれる。さらに他のF-4EJ改からもAIM-7が次々と発射される。AIM-7ミサイルはセミアクティブ誘導方式なので、命中するまで母機がレーダー照射を続けなくてはならないのが欠点だ。




 KF-16のコクピットに警告音が響いた。


「ロックオンされた!ミサイルくるぞ!」


 レッド1が叫んだ。これが彼の最後の言葉となった。回避しようとチャフをばらまき、旋回しようとしたがすでに遅かった。1発のAIM-7がチャフに吸い寄せられ外れたが、もう1発はチャフをすり抜け、KF-16の右翼に突き刺さった。


「レッド1がやられた!レッド2もだ!」


 キャノピー越しに炎に包まれ落ちてゆく2機のKF-16を確認したレッド9は、反撃を決意した。


<全機散開!全機散開!>


 先任となったレッド3のパイロットの絶叫が無線機から聞こえてきた。




 築城基地の北端を担当する小隊にも空中戦の爆音が聞こえていた。


「上ではもう始まっているらしいな」


 軽機関銃MINIMIを手にもった2曹が、空を見上げて呟いた。


「こちらも来たか」


 基地と外を隔てるフェンス越しに2曹は、高麗軍の軽装甲車両数両を確認した。おもに治安維持任務に使われる装輪式の<バラクーダ>だ。


「撃ち方用意!」


 小隊長の声だ。2曹はMINIMIの引き金に指をかけた。その時に気づいた。高麗のバラクーダ装甲車に備え付けられた12.7ミリ機関銃がこちらを向いている。


「対戦車榴弾用意!」


 小隊長がそう怒鳴ると同時に機関銃は放たれた。2人が血飛沫をあげた。その間に高麗兵が装甲車から出てくる。


「撃ち方はじめ!」


 2曹はMINIMIの引き金を引いた。それと同時に5.56ミリ弾が銃身から一分間に750〜1000発の速さで弾丸が次々と放たれてゆく。

 誰かが携帯式の対戦車榴弾パンツァファウスト3を構え、装甲車に照準をあわせていた。


「撃て〜!」


 パンツァファウスト3の弾頭が白い煙を残して一直線に進んだ。先頭の装甲車に当たると、弾頭は爆発し装甲車を吹き飛ばした。自衛隊は高麗軍の装甲車を1両撃破することに成功した。

 それと同時、高麗兵を更なる衝撃が襲った。新たな銃撃が彼らを攻撃したのだ。それは小銃や軽機関銃では不可能な猛烈な銃撃で、高麗兵十数人が吹き飛ばされたのだ。

 それに気づいた2曹が銃撃の飛んでくる方に目を向けると、そこには回転する銃身が見えた。


「基地防空隊です!援護します!」


 銃撃は、バルカン砲―戦闘機の機関砲として使われるM61バルカンを防空用に転用したVADS―によるものあった。1分間に3000発もの20mm弾を敵に浴びせる事のできるVADSは文字通り航空自衛隊最後の砦なのだ。




 F-4EJ改が2発ずつ、計16発のAIM-7ミサイルのうち4発が命中し、4機のKF-16が撃墜された。どれも爆弾を搭載している機体で、これは偶然では無い。F-4EJ改側は先行している8機を爆装機と判断して攻撃を集中したのだ。残った4機はすぐさま爆弾を放棄し、高麗空軍はこの時点で任務達成は不可能になった。


<アスターからエポックへ。撃墜4!繰り返す、撃墜4!>

「エポック1から各機へ。続けて攻撃せよ。続けて攻撃せよ!」


 8機のF-4EJ改は第2次攻撃を開始した。今度は各機1発ずつAIM-7を発射した。第1撃は奇襲だったこともあって1機当り2発発射したが、それでも数が同数になったに過ぎず、今度は慎重になっているようだ。




「レッド9、フォックス3!」


 制空任務を帯びる4機のKF-16からそれぞれ1発のAIM-120ミサイルが発射された。高麗空軍の前身である韓国空軍はアメリカ空軍の影響を強く受けた組織で、発射時のコールも米軍と同一で、フォックス1がセミ・アクティブ誘導中距離空対空ミサイル、フォックス3がアクティブ誘導中距離空対空ミサイルとなっている。AIM-120をはじめとするアクティブ誘導方式のミサイルは、ミサイル自身が装備するレーダーが目標を探知し誘導するのが特徴で、発射母機が誘導を継続せず敵の攻撃に対して回避行動が行えるので生存性に優れるとされている。ただミサイルのレーダーは小さいので、ミサイルが目標まで一定の距離に近づくまでは母機による誘導が必要である。

 空中でF-4EJ改のAIM-7とKF-16のAIM-120が交差する。狙われたF-4EJ改はレーダー照射を止め回避行動に移った。目標を見失ったAIM-7は明後日の方向へ飛んでいった。KF-16もレーダー照射を止め、自衛隊側の攻撃に備え急旋回を行った。しかしAIM-120は自身の搭載するレーダーを作動させ、F-4EJ改を捉えた。AIM-120は<覚醒>したのである。製造から30年以上の年月が経ち機体の各部が劣化しているF-4EJ改が急激な回避行動を行うのは不可能であった。チャフをばら撒いて、ミサイルの狙いを逸らそうとしてが、AIM-120は正確にF-4EJ改を捉えていた。

 2機のF-4EJ改が空中で吹き飛んだ。F-4EJ改の放った8発のAIM-7は1機の爆装のKF-16を撃墜し、別の1機に損傷を追わせただけだった。




 E-767はKF-16のうち4機が急旋回して北上していくのを捉えた。おそらく爆装機だろう。爆弾を放棄したので任務達成が不可能になり、しかたなく帰還するに違いない。築城への攻撃を諦めたなら自衛隊側の勝利である。


<アスターからエポックへ。敵主力は反転した。繰り返す、敵主力は反転した>

「ラジャー。エポック1」


 だが、制空仕様のKF-16が反転する様子は無い。こちらに止めを刺すつもりだろうか。レーダーロックされたことを知らせる警報が鳴り響いていた。




 レッド9はF-4EJ改を示すヘッドアップディスプレイ上の照準マーカーが豆粒のような敵機の姿と重なり、勝利を確信した。敵は尻をこちらに見せて、空域から逃げようとしている。


「レッド9、フォックス3!フォックス3!」


 4機のKF-16から2発ずつのAIM-120が発射されたその時、KF-16のコクピットに警報音が鳴り響いた。




「フォックス1!フォックス1!」


 超低空でKF-16の背後から気づかれることなく接近してきた野々宮らF-15J3機編隊は最適な位置からAIM-7を発射することができた。4機のうち3機のKF-16に向かって2発ずつのAIM-7が迫る。

 KF-16はレーダー照射を止め、回避しようとしたが手遅れだった。次の瞬間、3機のKF-16が吹き飛び、1機が急降下して後退する4機の爆装KF-16の後を追った。


 野々宮は敵機が爆発した瞬間を見ることができた。


「とりあえず1機か」


 3機のF-15Jが1機ずつ敵を撃墜した。彼の最初の戦果だった。KF-16側の放ったAIM-120はF-4EJ改を自身のレーダーの索敵範囲内に収める前に発射母機からの誘導を失ったために、1発が近接信管により1機のF-4EJ改に損傷を与えただけで、すべて外れてしまった。

 築城上空の空中戦は、航空自衛隊側は8機のF-4EJ改と3機のF-15J、高麗側は12機のKF-16を投入し、自衛隊側は2機のF-4EJ改が撃墜され、1機が損傷した。高麗側は1機が損傷し、8機が空中に散った。高麗側は築城攻撃に失敗し、この戦いは自衛隊の完全勝利だった。





築城基地

 滑走路の片隅に基地防空隊の地対空ミサイルがいつでも発射できる態勢で、待機していた。ミサイルは陸上自衛隊の部隊防空用に開発された初の国産地対空ミサイル、81式短距離地対空誘導弾、通称「短SAM」である。正式な愛称は「ショートアロー」であるが、誰も使わない。陸上自衛隊のネーミングセンスは何かがおかしい。

 短SAMは発射装置を載せた2台のトラックとレーダーなどの射撃統制装置を搭載する1台のトラックから構成される。射撃統制装置搭載車が索敵・照準を行うが、必要に応じて光学照準器を使うことで発射装置単体で戦闘を行うことができる。その光学照準器で担当官の1曹が空を眺めていた。発射装置には4発のミサイルが装填され何時でも発射することができる。そこへ1人の士が駆け寄って、1曹の背後に立った。


「1曹!戦闘機が高麗空軍を追い払いました。我々の仕事は終わりです」

「なんだつまらないなぁ。終わった、ってことは戦闘機の撤収は完了したのか?」

「はい。全機、無事に離陸したとの事です」


 それを聞くと、1曹は照準器から離れて発射装置の周りで待機中の隊員たちに身体を向けた。


「我々も撤収だ。すぐに片付けろ」


 そう叫ぶと、1曹も照準器を片付けようとした。そこへ野戦服を着た数十名の男たちが歩いてきた。男たちは2つに別れていて後ろを歩いているのは陸上自衛隊の隊員たちで、前を歩く男たちに小銃を向けている。前を歩いているのは陸自とは異なる迷彩が施された野戦服を着ていて、全員が両手を頭のうえに載せていた。


「陸自さん!そっちはどうだい?」


 1曹がそう尋ねると、指揮官らしき隊員が答えた。


「捕虜をこんなにとれました。大勝利ですよ」

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