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この小説(と言わせて頂きます)は一度、某所に投稿したものを加筆修正したものです。あなたがどこかで見たことあるとしても、決して盗用ではありませんから

2008年8月13日 愛知県豊橋市

 それはまさに地獄の光景であった。街のあちこちに煙が立ち昇り、木造建築は倒壊し、道にできた亀裂からは水道管が破裂したのか、水が噴出していた。

 住む場所を失った人々が路上に屯し、容赦無い真夏の日差しに僅かな気力も奪われてしまう。頼るべき避難施設はすでに飽和状態であった。

 大地震に襲われて早4日目。ようやく復興作業が始まろうとしている頃だった。


 東海道本線の線路上を人の群が突き進んでいた。電車はすでに運行を中止している。線路の上の群は、たくさんの荷物を背負い、町の中心部へ進んでいる。空の上から見ると、まるで蟻のようでもある。


 後に東海大地震と呼ばれることになるこの災害により、人口34万5000の都市は壊滅的被害を負っていた。被害にあったのは豊橋だけではない。静岡を中心に中部全域に広がっている。


 群の中の一人に桜井雄一という少年が居た。この災害にボランティアとして復興に参加している福岡の高校生で、夏休みの真っ只中の彼は所属するボランティア団体の先輩の誘いに旅行気分で乗ったのが運の尽きだった。物資を積んだトラックに乗ったはいいが、被災地に近づくにつれ渋滞が酷くなり、名古屋を越える頃には身動きがとれなくなった。さらに被災地にはボランティアの人員物資を受け入れるだけの余裕も無く、徒歩で進むことになった。

 何十キロも歩きとおして疲れきった身体に真夏の日差しが突き刺さる。それでも雄一は歩みを止めなかった。使命感からでは無く、止まってしまったら、そこから一歩も進めなくなるような気がしたからだ。


「大丈夫か?」


 その様子を見かねた1人の男が雄一に声をかけた。迷彩服を着た自衛官だった。


「あんまり無理するなよ。倒れられたら、被災者に加えてあんたの世話もしなきゃならん」

 そう言うと、その自衛官はにやりと笑った。雄一の顔にも笑みが浮かんだ。


「ありがとうございます」


その時、異様な光景を見つけた。

「皆さん。すでに地震から数日たっています。それなのに政府はなにをやっているのでしょうか?」

 拡声器を手に政府批判を繰り広げる団体。救助作業を続ける人々の中で彼らは浮いていた。彼らが肩から下げる襷には「平和市民団体ラブ・アンド・ピース」と書かれていた。

 あいつらはなにをやっているのだろうか…

 そんな事を考えていると、だんだん視界がぼやけてきた。足から力が抜け、身体を支えることができなくなった。雄一は支えを失った人形のように受身の態勢もとれずなにもできないまま、顔を地面に激突させようとしていた。雄一の目には地面がまるで自分に向かってくるように見えた。が、迫りくる地面は顔に接触する寸前に停止した。

「大丈夫か。」

 倒れそうになった雄一を支えたのは、災害出動していた自衛官だった。

「すみません。」

 その時だ。地面が揺れた。凄まじい揺れだ。

「あぶない!!」

 自衛官はとっさに俺を突き飛ばした。地面に倒れた俺が感じたのは轟音だけだった。

 揺れが止んだ後、あの自衛官の居た場所にあったのは・・・崩れた家の残骸と深紅の鮮血だけであった。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 1人の人間の命が失われた瞬間だった。

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