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404  作者: 上無
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変革の日

「俺は……確かにお前らの言う通り、あの親子を殺したさ。仕方ねえだろ?金が必要だったからガキを誘拐したら、そのガキが逃げ出しちまったんだ。あのまま、逃がしていたら顔を見られたから捕まっちまう。殺すしかなかないだろ?捕まるのが嫌っていうのがそんなに不思議か?何で死体が滅茶苦茶だったか?ガキが逃げたからに決まっているだろ!俺は大人しくしていろと何度も命令したんだぞ。それを……あのガキ!親を殺したわけ?あいつら金を払ったのにガキが返ってこなかったって逆上して俺を殺そうとしたんだ。仕方ないだろ?ガキは死んでるのに俺にどうしろって言うんだ?それをあいつらは俺を殺そうとしやがった。正当防衛だよ。正当防衛。ガキを殺したからって親に殺されなければならないなんてふざけた理屈まかり通るかよ。その後?遺族だか何だかが小賢しい綺麗ごとを並べたから笑いものにしてやった。楽しかったし、憂さ晴らしになったからな。だってそうだろ?証拠不十分で捕まらなかったとはいえ、こちとら素寒貧のままなんだ。逆に名誉棄損で訴えてもろくな金になりゃしなかった。くそ。ああ、畜生!いいか!よく聞けよ。俺は確かに善人じゃない。けれど、それでも俺はルールの中にいた。人間が絶対にやってはいけないことはやらなかった。おまえらほど人でなしじゃなかった。殺したから何だ?罪を認めなかったから何だ?笑ったから何だ?証拠があるのかといったから何だ?ああ、そうだ、そうだ!証拠だ証拠。証拠に関しては聞いただけだ。とぼけたこととは関係ないといった……そうしたら、嘘発見器なんて持ちだしやがって……ああ。そうだ。あれは自分が助かりたくて、少しでも助かる可能性をあげるために言ったことだよ。脅す時だって、こういう時のために、合法になるように、遠回りにやったのに、頭の中を見るなよ。でもな、俺が例えどれだけの人間を殺していようと、助かりたくて嘘をつくことがそんなにおかしいか?少しでも減らそうとしたら増やしやがって……それで、こんなことになるなら、何も考えたくないと言ったら今度は……俺は勝ったんだよ!どれだけのことをやっていようが、逃げ切った俺は裁かれなくていいんだよ。訴えて、裁判で俺が勝って……そこで終わりだろうが、嘘と真実 、お互いの現実?ふざけるな!俺は法律でそんなひどい目にあう必要はないって保障されていたんだよ!どんなにひどいことをしたとしても法律で許されていたんだよ!それを新しい法律だと?馬鹿どもが!法律で許されたからといって何でも許されると思うな!地獄に落ちろと言われた時、開き直ってやれるものならやってみろと答えたから、本当にやる?本当にやるやつがあるかよ!そんな馬鹿な話があるか!?それから、それから……」

(また、この夢か……確かに、これが私を聖人君子……と、まではいかなくても善人にしてくれた。しかし……)

一等地に居を構える若手実業家である社長は幾度となく繰り返し見てきた悪夢にうなされていた。

それは、幼いころに先代の老中に連れていかれた場所で見た光景だった。

先日に起きた【嵐が突然消える】という前代未聞の異常気象に対応するため、昼夜問わず奔走した結果、昼間の社長室で眠りに落ちてしまった。そこに、苦労の結果が報われないものになりそうな不安と不満がもたらした悪夢だった。

夢だということが分かると、起きようとする意志を生むことができる。社長は必死に起きようと願った。

苦しむ社長をよそに、悪夢は過去の記憶を断片的に再生しだした。次々と様々な人物が現れる。

「いったい……いったい……いったい、いったい!いったい!いったいどれだけの罰を受けたと思っている」

「どうしてよ。私の裁判で被害者が苦しんで……法律が傷つけて国が傷つけたから……国民全員分の責任をとれって何よ?誰かがとらなきゃいけないって……どうしてそれで私が……必死に訴える遺族への国の対応が遅れた責任ってなによ!」

「ゲームみたいなものだったはずでしょう。お互いに考えつくした手段を使って取り合って……それなのに、何で私だけ……」

「俺が滅茶苦茶にしてやった家庭の人間が犯罪を犯して、何でその責任を俺が一緒にとる?俺がいなければ幸せだった?こんなことしなかった?それは分かる。けど、俺がやったわけじゃない!面白半分にどれだけそうなるように誘導したとしても、俺はやってない!」

「死刑判決が……遺族の納得する判決がでなかったから、その責任を俺がとるのは何でだよ。俺を死刑にするために活動した遺族への暴行と強盗、強要罪ってなんだよ!?」

「私の犯罪で、仲間内で被害者達が争うことになって、なんでその責任を私がとるのよ!?」

「世の中が悪いから……誰でもよかったから……だから、責任をとらないっていったから……なんで、世の中の責任をとることになるんだよ?世の中の責任をとらせて、それで悪くないっていったから、世の中の責任をとらされるのはおかしいですよ……普通の罰を受けさせてください」

「出所した後が悪かった!?ふざけんな!俺が何をしたとしても出所したらそれで許されるんだよ!終わりなんだよ!悪いのは被害者とその周りの連中だろうが!いつまでもしつこく、法律を無視しやがった連中が悪いんだろうが!新しい法律だか何だか知らないが、法律がそんなにえらくて絶対か!法律がいいといったら、俺が人間が苦しんでもいいっていうのか!ふざけるな!法律が人間を苦しめるのを考えろ!」

「自殺に追い込んだから殺人って何だよ!自殺した被害者と自殺しなかった被害者でとる責任が違うっておかしいだろ?他のターゲットを選んだやつが俺より得じゃないか!?」

「たは、たはは。ええ、確かに私は女性を乱暴してその罰を受けることになります。それは納得しています。でも、それ以外はおかしいでしょう?翌週の結婚式で、女性が噂になっていた私に乱暴されたことを否定するために、もし自分が乱暴されていたら私は地獄におちていいと約束したから、その嘘の責任を私が代わるというのは?たはは。ええ、言いましたよ。約束は約束だから誰かが地獄に落ちなくてはいけない、被害者である彼女を地獄に落とすのは躊躇われるから、君が地獄に落ちてくれと言われて、おまけに責任者が変わる分、割り増しだと言われたから、それは嫌だと。たは。そうしたら、何で?何で?私が乱暴だけでなく、自分の乱暴した女性を更に地獄に追いやる鬼畜として裁かれなければいけないのですか?そもそも、乱暴されたとかそんなの気にするほうが間違っている!愛とはもっと純粋なものであるはずでしょう!?いや、愛に関係なく男女はもっと温かく優しいものに包まれているべきだ!」

男の視線は最後、焦点が定まらず滅茶苦茶だった。

「おまえら言ったよな!俺が証拠はない。証拠はどこにあるっていって逃げたからだって、じゃあ認めるよ!ああ俺が全部悪かった。だから、おまえらも俺にやったことの責任を ……証拠をだせ?何でだよ?何でこれが証拠にならないっていったから、あれが証拠にならないってどういうことだよ!」

男の顔は真っ赤だった。

「詐欺の責任?分かってないわねえ。私はね、犯罪を犯しても法が守ってくれるからやったのよ。いい?裏を返せば、いざというとき責任をとれば、法で許されていたからやった の?リスクとリターンの駆け引きにどれだけの苦労があったと思う?新しい法律で罰なんて受けたら、それが滅茶苦茶よ。これじゃ犯罪でもうけないほうがよかった。普通に汗水流したほうが得だった。犯罪をした自分が馬鹿みたい。そうなっちゃうじゃない。それを法で許されているからとあなた達は……法で守られるからと何をやっても言いと思わないで」

女の瞳は潤んでおり、哀願するような声だった。 

「賠償しなかったから、それで遺族に自殺する人間がでたからって……なんで俺が殺人の罪に問われるんだよ!俺のせいで死んだからって俺が殺したわけじゃないだろ!」

今度は先代が現れた。

「いずれにせよ……我々が裁かれることはないだろう。いいか?よく聞け。そして、決して忘れるな。これは断じて憤りをもとにしたものではない!そうなら、どれだけよかったか……まず、あちらにはいくな。そして、この世に生を受けた以上、どのような不条理も受け入れるべきなどとも間違っても言うなよ。それは、他の人間が言ってくれる。お前はそんな席に座らなくてもいい。そんな場所に自ら首を突っ込むような真似はしなくてよい。善悪、罰、報い、更生、いずれも我々にとっては場を温めるだけのものにすぎぬ。大切なのは、どの席に座るのか?最後の席決め、それだけだ!」


「社長!」

秘書の声に、ようやく社長は現実への帰還を果たした。

「うなされていましたので、お声をかけさせていただきました」

「君という女性を今日ほど美しくかけがえのない存在だと感じたことはないよ」

「それは、プロポーズのせりふですよ」

「そうとらない君だからそばに置いている」

椅子から立ち上がり、社長は水差しに向かった。

「404で問題が発生しました」

「そうか……。404とは何だったかな?」

「は?」

「時々、404など、私のただの妄想だったのではないか?と感じることがある。こんな寝覚めの日は特にね」

「404は……【404】と呼称される惑星で行われている体感型オンラインゲームの体裁をとった開拓事業のことです。我々運営は、教団と呼ばれる謎の団体の指示で事業が滞りなく進むように活動していますが、事の始まりは半世紀前に受信した……」

「かつて、世界がまだバラバラだったころ、どこの地域にも神を崇め、直接目にしたいと考える人間達がいた。そんな人間が集まって、地球のいたるところで神を探すために相互補助を始めたのが教団の起源だ。しかし、気の遠くなるような長い年月をかけてみても、地球のどこを探しても神は見つからなかった。やがて、それでも深海なり地下、空のどこかを探そうとする者もいたが、主流派は宇宙や未来に期待を寄せるようになった。これは後に縦派と横派、前派後ろ派と別れる。主流派は活動の一環として宇宙に向かって電波を発信し、返信を受けることに成功した。こちらからの更なるアプローチに対して、先方は人間の意識だけを人型兵器に送る装置を送ってきた。初めは我々だけだったが、最後は不特定多数の人間に……我々の目的は開拓と混乱の防止だよ」

「そこまでの情報は、私のような末端のものには知らされていませんが……」

秘書が不安げに社長を見つめる。

「そうだったか……。ま、いいさ。それで、何のようだい?

「そうでした。先日起きた404の新大陸進行の頓挫、これに伴いユーザーの管理と時間稼ぎのための措置として、ユーザーを二つに分けて、要塞を舞台にした攻防戦を行わせていましたが、そこに動きがありました。もうしばらくかかるかと思いましたが、今夜にも終わりそうです」


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