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旧作品群

だから僕は空を飛ぶ

作者: 前田 直己

あとがき



 1



 僕は空を飛びたいのである。


 初めてナニカを書いたのは小学校五年生の時分であった。6Bの鉛筆を握り締めて、母親に買い与えてもらった四百字詰め原稿用紙に書いた。なにやら当時読んでいた小説の、パロディともつかぬような粗悪なものであったと思う。パロディというかもはや模倣か。登場人物の名前以外、キャラ設定なんてほとんど流用、どちらかといえば二次創作上等な、小説と呼ぶことすら恥ずかしい限りな拙著である。僕はソレを、十ページくらい書き殴ってやめた。

 中学校一年生になるころには、僕は鉛筆をキーボードに変えてしまっていた。この頃は超能力探偵ものと超能力学園もの、それから王道ファンタジーを思いついた順番に書いていた。もちろんまだまだひどいものである。データのほとんどはパソコンの買い替えと共に消してしまったのでこの世には存在しないが、ファンタジーは一体何を思ったのか印刷してしまったので、今も捨てきれずに僕の手元にある。それから超能力学園ものはまだ話の体裁が整っている方だったので、中学校三年生の時に推敲、改稿してネットに登校した。閑話休題、僕は中学校に上がっても、まだ小説を書いていたのである。

 また、小説だけじゃなく、劇の台本も書いたことがある。中学校一年生の時、「三年生を送る会」なるものの一年生の出し物「シンデレラ」の台本を書いたのだ。登場人物の性別をすべて反転させるという素晴らしき発想であったと自画自賛している。二年時には新入生歓迎会、三年生を送る会の二本を書き下ろした。三年時にも新入生歓迎会の劇を書きおろした。僕は芸達者であったので、劇の台本を書く傍ら背景に色を塗り、小道具を作り、大道具を造り、主役を演じたり脚本係として演技指導をしたり、それから劇中の踊りの振り付けを覚えたり考えたり教えたりしていた。

 僕がとあるインターネットサイトに登録して、本腰を入れて文章の修業を始めたのが、忘れもしない二千十二年四月七日、丁度三年生になってすぐぐらいの日付である。書けば感想がもらえる。文章に対する批評、批判、時折中傷混じりのそれらを咀嚼し、僕は自分の文章力を上げていった。なんなら今だって上がり続けている最中である。三十人くらいなら一度に書き分けられるし、一時間で四千文字を書いたこともある。人に見せても恥ずかしくない程度には文章力も上がった。閑話休題、どうも話が横道に逸れて困る。なまじ文章力が上がって、あれもこれもと説明できるようになってしまったのがいけない。

 受験が終わった時に、ブロックで家や建造物を作ったり冒険したりするパソコンゲームを友達から勧められた。僕は一時小説を書くことを忘れ、これに首までハマった。底なし沼のようであった。あるいは受験が終わったからという解放感が僕を自由な気分にさせ過ぎていた。とにかく、僕はそのゲームにはまったのである。今もまだやっているが、それだって一か月に一時間やるかやらないようなレベルであるというのに、当時は一日に八時間くらい平気でやっていた。暇人、暇人なり自分。


 自分は、こと物を創るということにはまりすぎるのだ。

 たとえば、人工知能に関するおぞましい実験の小説が書きたい。

 たとえば、劇を完成させたい。

 たとえば、ブロックで大豪邸を作ってみたい。

 たとえば、たとえば、たとえば、たとえば……


 挙げればキリがないほどに、僕は物を創るということに対して興味が尽きない。



 2



 僕は他人の考えていることが手に取るようにわかる。もちろん嘘だ。ただ、まるっきり嘘というわけでもない。しばらく一緒にいればその人間の本質も分かってくるし、本質が分かれば当然、良い所はまあいいとして、悪い所も見えてくるわけである。

 他人の悪い所が分かるというのは、なにも欠点だけの話ではない。汚い所とか、追い込まれるとこうなるとか、そういうところがぜんぶわかるということなのだ。もちろん他人に見せない部分も大体「こうなんだろうなあ……」程度には察する事ができる。


 それで?

 僕はどうするというのか。


 答えは明快、どうもしない、だ。

 その人に嫌なところがあると言ったって、自分にとって嫌なところより自分にとって好ましいところが勝っているのなら別に気にすることは無いし、そもそも人には見せない嫌な顔であるのなら、少なくとも僕には見せないように努力してくれているわけで、それはそれで好ましい事ではないか。僕は見て見ぬふりをすれば良い。人間付き合いにおいて、見て見ぬふりは非常に大事なのである。


 しかし、だ。


 ここで僕は否定の接続詞を置いた。

 見て見ぬふりは大事――その通り。だが、見て見ぬふりをしたとて心の底には黒いものが溜まっていっていることには変わりないわけで。

 誰かは汗をかいて、つまりは運動でその鬱憤を晴らすのだろう。他の誰かはお気に入りの音楽を聞いて、また他の誰かは服を買ったり、本を買ったり、甘いものを食べたり。

 先の話ではないが、それこそ十人十色だ。僕ほど人間に対するいわば選球眼が鋭い、というか過敏な変態程ではないにしても、皆が皆、そういったものを少なからず感じているであろうことは明々白々なのである。どうにかしてガス抜きしないと、いつかは破裂してしまうのだ。

 閑話休題。どうも話がずれてしまうきらいがあるようだ。さておき。

 溜まった憂さを晴らす方法、それが僕にとっては小説を書くことなのである。

 正確には小説でなくても良い。今書いているようにエッセイであったりとか、詩や作詞をすることもある(もっとも、作詞は一回でやめてしまったが)。

 とにかく画面を前にしてキーボードに指を置けば、いくらでも物語は溢れてくる。文芸部に投稿する分なんて全部がそうだ。何にも考えずに、時代設定やキャラの性別すらも考えずに無心で指を動かしているうちに作品は仕上がっているのである。

 そうして出来上がったものは、僕の内面を映し出す鏡なのであって、つまりは日ごろの「憂さの結晶」であると言えるのではないだろうか。



 3



 あとがきであるというのにかなり長くなってしまっている。

 ただ、もう少しだけお付き合いいただきたい。事実は小説よりも奇なり、それなら、今こうして書いているあとがきは、本編よりも奇ではないだろうか? 少なくとも本編よりは、このあとがきの方が事実だ。


 僕は自分の世界を持っている。

 いや、一個の人間としてある以上自分の世界を持っていない人間なんてこの地球上どこを探したら見つかるのだろうかという話ではあるのだけれども、とにかく僕は自分の世界を持っているということが分かってくれればそれでいい。

 強固なのだ。


 何が?


 僕の世界が。


 僕の世界はなにより変革を嫌う。

 たとえば僕は陸上部にも入部している文芸部員兼陸上部員という変な掛け持ちをしている生徒なのであるが、そこでは中距離を主にやらせてもらっている。

 中距離は普段、長距離と抱き合わせで練習することが多い。ほとんどそうだと言っても過言ではないだろう。ちなみに中距離は高校生で三千メートルまで、長距離はそれ以上だ。

 長距離の練習ということは、文字からも当然わかるように、長い距離を走ることがメインになるということである。我が校は運動場で走るよりも学校の外を周回する方が良い感じの距離なのだが、周回である以上、一周当たりのタイムを計る必要があるわけなのだ。中長距離はマネージャーにストップウォッチで計ってもらっているわけだが、他のみんなは腕時計で自分のタイムを確認しながら走っている。


 それが、僕は嫌なのだ。


 腕時計を付けたくない。

 服を着るのにはもう慣れた。着なければならない理由もある。だから僕は、自身のことを服を着た状態で認識している。当然認識の中の自分は靴も履いている。

 しかし、腕時計はつけていないのだ。

 なぜか? これはもう単純に、つける習慣が無かったからだ。

 時計なら携帯電話で見れば良いじゃない、と、そんな生活を十七年間送ってきたからだ。

 そうであるがゆえに、たまに腕時計を付けてみると、自己認識下における「自分」と現状態における「自分」にずれが発生して、なんともいえない不快感に苛まれてしまうわけである(ちなみに腕時計だと肌に触れる部分が痒くなってしまった)。

 帽子も嫌いだ。流石に夏場は直射日光で比喩ではなく死ぬ可能性があるのでしぶしぶ被ってはいるものの、それでも帽子は嫌いだ。できるならばマネージャーが作ってくれたミサンガも引きちぎって捨ててしまいたいとさえ思っていたこともある。今はもう慣れたから大丈夫なのだけれど。

 

 また、僕は他人とのコミュニケーションが嫌いである。

 だから、ひたすらにボケる。お道化る。チョケる。ふざける。調子に乗る。

 自分の発言がウケたらそれなりに気分は良いし、ボケたりしていれば根暗な奴だと思われないで済むし、そして、これが一番大事な理由なのだが、ボケは一方通行なのだ。

 僕が何かボケる。聴衆は笑う。ここにコミュニケーションは発生していない。発生しているようにも見えるかもしれないが、僕の中では発生していないことにしているのだ。だから、面白い奴だというレッテルを張られて「何か面白いことをやってくれ」なぞと求められると言葉に窮してしまう。求められる、僕がボケる、聴衆が笑う、だと、そこにコミュニケーションが発生してしまうからである。コミュニケーションは一方的で良い。誰も話しかけてくれなくて良い。僕が一方的にお道化るから、皆はそれを見て「馬鹿な奴だ」と笑っていてくれればそれで良い。

 僕に構わないでほしい。陸上部では僕は「面白い奴だ」という認識を刷り込むことには成功しているが、それでもやっぱり、意見を求められたり他人に話しかけたり、当然ボケを求められたりすることは苦手だ。


 だからこそ、僕は小説を書いているのかもしれない。

 いや、小説を書いているからこそこうなのかもしれない。卵が先か鶏が先か、本当はもう答えが出ているらしいけれど、とにかく僕は、ゆえに小説を書いているのだ。

 僕は書く。ネットなんかだと読んでくれる人がいる。そこにコミュニケーションは無い。一方通行、僕から読者様への施しがあるだけだ。当然読んでいただけることには感謝している。中学校三年生だったときの十月から連載しているものは七十万文字を突破して、プレビュー数はそろそろ六十万に届きそうである。そりゃあもっと読まれている作品なんていくらでもあるが、とにかく僕は六十万回施しをしているわけである。

 そのうち、感想をいただいたのが二十回くらいか。六十万回のうち二十回、三万分の一だ。現実世界よりもはるかに遥かに少ない回数しか相手からの「応じ」が存在しない。

  一方通行のコミュニケーション。だから僕は小説をエッセイを、詩を歌詞を台本を、今もこうして書き連ねている。



 4



 あとがきの分量なんてとっくに通り越えてしまっている。そもそもをして、本編の何百倍もあるこれをあとがきと言ってしまって差し支えないのだろうかとも思う。しかしここでは、便宜上そう呼ばなければならない。

 僕は超能力に憧れている。念力でものを動かしたいし、発火能力で戦ってみたい。水流を操る力も格好良いし、あらゆる超能力を無効化する能力も捨て難い。

 同様に魔法も大好きだ。虚空から剣を取り出したいし、宝石に魔法を込めてみたい。師匠がエルフとかそれだけでもう死んでも良い。

 神様の手違いで死んで、チート能力をもらって異世界に転生したい。あともらった能力で無双してハーレムを作りたい。

 突然超能力に目覚めて政府からの使者に招かれ、特殊な学校に通いたい。能力は王道中の王道か今まで確認されていない一見役に立たないものが良い。

 異世界人と仲良くなりたい。

 宇宙人と遊びたい。

 夏休みが無限ループして欲しい、隣の席の子が中二病であって欲しい、異世界に魔法使いの使い魔として召喚されたい、実は王家の血筋であって欲しい、魔法使い同士の戦争に巻き込まれて最終的には世界を救いたい、ロボットと心を通わせたい、死神に代行を任されたい、お隣に殺人鬼が住んでいて欲しい、死んだ後閻魔様に地獄行き天国行きを保留にされたい、実は右目が義眼であって欲しい、世界征服を目論む幼馴染が欲しい、机の引き出しからネコ型ロボットがやってきて欲しい、魚介類みたいな名前の家族とお近づきになりたい、転送装置を発明するもその実験途中で紛れ込んだハエと同化したい、蜘蛛に噛まれて能力に目覚めたい、曲がり角でパンを咥えた転校生とぶつかりたい、その転校生が実は政府機関のスパイであって欲しい、街にやってきた怪しげなフリークショーの裏側に忍び込みたい、そして盗んだ蜘蛛に友人が噛まれてしまい、血清をもらうために嫌々ヴァンパイアになりたい、その友達とはヴァンパイア、ヴァンパニーズとして対立したい、悪魔とチェスで勝負したい、その過程で実は自分が狼男の家系であると知りたい、幼い頃に両親を悪い魔法使いに殺されたい、額にそのときの傷が欲しい、「まきますか、まきませんか」の問いに「まきます」と答えて、ねじまき人形の戦いに巻き込まれたい、おもむろに始めた忍術が成功して実は忍術の才能があることを知りたい、人型汎用決戦兵器のパイロットにいきなり選ばれたい、不死身になりたい、不老不死になって千年の時を穏やかに過ごしたい、最強の生徒会長に不必要なおせっかいを焼く庶務でありたい、命を捧げてまで血を提供したことで吸血鬼になるも、なんでも知っている同級生に諭され半分人間半分人外くらいの比率に戻りたい、超高校級の高校生が通う学園での推理バトルを傍観したい、VRゲームが突然ログアウト不可能かつゲームオーバー=現実世界での死のデスゲームになり、ソリッドシチュエーションサバイバルに巻き込まれたい、一癖も二癖もある同僚や先輩たちと一緒にレストランで働きたい、大怪盗の孫と会ってみたい、名探偵の孫ともあってみたい、若返りの薬が欲しい、全身の生きるのに必要な器官を機会に置き換えて千七百年くらいにまで寿命を延ばしたい、変な校則がある学校に通いたい、入学式でいきなり武器を渡されてキョトンとしているところに「戦って生き残ったやつだけ入学させてやる」とか言われたい、突然超能力に目覚めるが特にその超能力を必要とするバトルに巻き込まれたりせずだらだらと無駄遣いする生活を送りたい、生まれついてのサッカーの才能を生かしてスポ根そのものな毎日を送ってみたい、小学校の時に肩を壊すも投げる手を逆にすることで奇跡的に野球人生に復帰して最終的に両肩を壊すまでピッチャーとして活躍したい、気づいたら魔界でしかもまるで身に覚えが無いのに魔王様! と配下にかしづかれたい、七つ集めればどんな願いでも叶えることができる不思議な球を探しに行きたい、人を殺さない剣術を修めたい、入ると決めていた文芸部が数年前に廃部になっており、しかしそれでも諦めきれずメンバーを集めてもう一度再興させたい、恐竜がアフリカあたりで発見されて欲しい、突然戦国時代にタイムスリップして現代の歴史知識を活かして未来視の軍師とか呼ばれたい、両親の出張で身を寄せることになった叔母の家に宇宙人を自称する従妹がいてほしい、無理言ってさせてもらった一人暮らし先のアパートに変な住人ばかりがいてほしい、銀行で順番待ちをしていたら突如強盗が現れてほしい、毎日つけていた日記に突然未来の事が書かれるようになってほしい、背中を預けられる相棒が欲しい、魔法の才能は皆無な代わりに剣を持たせれば敵う相手がいないとかそんな無茶苦茶な地力が欲しい、実はホームズの血縁だったりしたい、この世界が虚構であることに気付きたい、隣家に行くかのような気軽さで異世界を旅するお気楽な人間になりたい、気付いたら中世ヨーロッパの貴族と意識が入れ替わっていたい、ゲームの勝敗ですべてが決まる世界の神に召喚されたい、テストの点数で召喚獣の強さが決まるシステムのある学校に通いたい、命を賭けて女の子を守り、結果世界を見捨てたい、世界よりもたった一人の大切な人を優先してみたい、学校をさぼって河原で空を眺めながら昼寝したい、盗んだバイクで走りだしたい、卒業式校舎の窓ガラスを壊してまわりたい、一糸纏わぬ姿で何物にもとらわれず走りたい、オーロラを見たい、マリアナ海溝の底まで行きたい、鳥を飼いたい、犬と戯れたい、猫を愛でたい、蛇を使役したい、アルビノとかオッドアイとか普通じゃない容姿になりたい、髪を染めたい、カラーコンタクトレンズを嵌めてみたい、女装がしたい、パンクファッションに染まりたい、コスプレがしたい、カジュアルスーツを普段着にしたい、もはや微笑が無表情だなとか言われてみたい、やれやれだぜとか言えるくらい誰かに振り回されてみたい、巨人を駆逐したい、船で漕ぎ出して気付いたら小人に地面に縫い付けられていたい、空に浮かぶ島を見つけたい、最終的に人間を飼育する馬と出会い、故郷に帰還した後は馬と共に生涯を全うしたい、姉が欲しい、妹が欲しい、兄が欲しい、弟が欲しい、可愛くなりたい、格好良くなりたい、死んだふりをして親の目をかいくぐろうとして毒薬を飲み、目が覚めたら恋人もその毒薬を飲んで死んでいてほしい、借金のカタに一ポンドも肉を渡さなければならなくなったが最愛の人の機転で危機を脱したい、趣味が高じた結果なんらかの一芸を極めることになりたい、部活を全部やめて帰宅部になりたい、学校をやめて一日中家で寝ていたい、宝石の原石ばかりを集めて愛でたい、世界中の硬貨をコレクションしたい、美味しい料理を作りたい、食べたい、フクロウを使い魔にしたい、グリフォンやケルベロスなんかに勇気を示して認められ友と呼ばれたい、たった一人を救うために世界中に宣戦布告したい、赤信号を無視したい、かき氷が食べたい、法を犯してみたい、凄腕ハッカーとかになってみたい、カロリー計算とか生活習慣病とか虫歯とか面倒なことを考えないで自分の好きなものを好きなだけ食べられる生活を送りたい、大金持ちになりたい、名も知らぬ顔も見たことも無いような生き別れの父の遺産を相続したい、札束でビンタとかしてみたい、世の中金さえあればなんだってできるんだよ! とか言ってみたい、本屋でアルバイトしたい、戦う司書になりたい、ある朝目が覚めたら悪の組織に人造人間に改造されていたい、突然悪の組織と戦うヒーローに選ばれたい、月に変わってお仕置きしたい、ハンター試験に合格したい、受験勉強とかしたくない、良い大学に受かりたい、海賊王になってみたい、小説だけ書き続けていれば良い人生を送りたい、人間の限界である一四〇歳まで生きていたい、無痛覚者になって常時火事場の馬鹿力を出せる状態でありたい、池袋でキレた奴らと関わり合いたい、サイコパスの先生が担任のクラスに在籍したい、先生が生徒に復讐するさまを淡々と傍観したい、クラスの構成員とその二親等以内の親族の死ぬ確率が異様に跳ね上がるクラスに転校しその年にもその呪いがあってほしい、禁酒を宣言した次の日にいきなりへべれけに酔っぱらってそのタバコ屋の女の子の前に現れたい、そうして、私は、完全に、人間でなくなりましたとか言ってみたい、話をしてみ給え大抵は馬鹿だからなんてことを臆面もなく語れる友人が欲しい、絶対に笑ってはいけない二四時間を過ごしてみたい、昼は高校生夜はホストみたいな二重生活を送りたい、クラスメイトにバレないようにアイドル活動とかしてみたい、従育科で執事について学びたい、「~ですわ!」とか実際に言うお嬢様とか見てみたい、縦巻きロールのお嬢様に「ドリル!」とか指差し言ってみたい、ドラゴンと心を通わせたい……


 「したい」、つまり欲望。したいことが無限にある。その中には実現させてはならないことや、実現が難しい、あるいは不可能なものも少なくない。というかほとんどがそうだ。

 小説を書く動機。僕が小説を書く理由。それは、文字でなら、先程挙げたすべての「したい」が可能であるからだ。

 そして思い返すに一番最初の「したい」は「空を飛びたい」だった思う。幼稚園だか小学校だかのころに僕はそう思っていて、しかし人間は自力では空を飛べないことを知り、諦めた。

 だが、今は違う。少なくとも小説を書くことにこ慣れ始めた高校一年生以降の僕は違う。キーボードにおいた指が、万の世界億の世界を創り出せることを知っているし、目を瞑れば主人公が敵と戦う姿をシミュレートできる。

 僕が創りだした文字だけの世界において、僕は神様だった。

 僕に出来ないことは無いし、手に入れられないものは無いし、実現しない夢は無い。

 無敵、そう、僕は無敵だった。

 恐らく適当な刑務所に収監されている異常殺人者よりも人を殺しているし、アラブの石油王よりもあらゆるものに手が届くし、どんな美食家よりも多くの料理を食べたし、誰よりも早く未来の技術を手に入れている。

 ペンは剣より強しとはよく言ったもので、実際はペンではなくてキーボードなのだけれど、とにかく文章の力というのは偉大であり、つまり僕は、ノートパソコンさえあれば万能であるのだ。


 空を飛びたい。


 今までごちゃごちゃと色々並べ立ててはみたけれど、実際に僕が言いたいことはこの一言に尽きるわけだ。


 どうして小説を書くのか? 

 初対面で文芸部ですと自己紹介されたら大体こういった質問をされる。あるいは文芸部って何をするの、と。その場合小説を書くんだよ、と答えると上記の質問がやってくる。

 どうして?


 そんなの決まっている。


 空を飛びたいからだ。自由に、自分の思うまま。

 自由の象徴だと僕は考えている。いつか空を飛べるようになりたいとも思う。でも、僕はまだ空を飛べていない。本当の意味で、空を飛んだことが無い。空に向かって手を伸ばして、これでもかと全力で地面を蹴って跳ねているだけだ。飛んでいるではない、跳んでいる。辛うじて、跳べてはいる。



 ここまで書いて、前田くん、何をしているの、と声をかけられた。

 僕はそれに対して生返事を返す。うんとかああとか適当な返事。


 小説を書いているわけではない。ぐちゃぐちゃごたごたてんでばらばら思いつくまま気の向くままに、好き勝手に自由な駄文を散文的につらつらと、こうしてそうしてどうにかこうにか人様にお見せできる形に形成して整形して、そうしてなんとか小説「らしきもの」を世の中に送り続けているんだよ、と、思ってやっぱり口には出さず。

 やっぱり僕は難しい。他人とのコミュニケーションも怠い。自分の世界を広げたい。何もかもをしたい、なんでもしたい。


 だから、僕は、空を飛ぶ。


 翼の代わりにキーボードを携えて。

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