昼食と御菓子
私の名前は保月瀞。
今日も今日とて恭弥様の恋する相手を探すために奔走しております。ええ。今、落ち葉をかき集めて焚き火をしていようとも。
そこに肝心の恭弥様がいらっしゃらなくても。
「暖かいわーマジで」
遠見様が火に当たりながら嬉しそうに仰る姿が可愛らしい。あの三人の中で一番背の高い彼女は髪をショートに揃えていてクルクル変わる表情が見ていて飽きない。。私は、追加で落ち葉を入れながらクスクスと笑った。
「さあ今のうちにご飯を食べてしまいましょう」
広い中庭の隅で焚き火をして暖まりながら脇でお弁当を食べる。最近は、水戸様、櫻井様、遠見様とご一緒させていただくことが多いのですがなんででしょう。
水戸様にいたってはなつかれている気がしてなりません、不思議です。
私が持参したお重を開けて、櫻井様が紙のお皿とコップを配っていき、遠見様がコップに遠見様のスープを注いでいき、水戸様がカップケーキを……
「水戸様、デザートは今配ってはいけません。お菓子しか食べない人がおりましたでしょう?」
「あんたよ、それ。ご飯を一切食べずにお菓子だけ食べて後で相澤くんに怒られたのは、あ、ん、た」
「櫻井様……恭弥様に告げ口するのは……」
「それは面白がって如月君に教えた愛華のせいよ。如月君から相澤くんに伝わったのよ。まあ、あたしも言おうとは思ってたけど」
「麻人様か……」
どうしてやろうか、あのボンクラ。
お陰で、恭弥様の氷点下の笑顔で叱られたではないか!恭弥様の説教をなめてはいけません!
理路整然と何が悪かったかを理解できるまで説明され、これからどうしたらそうならないかを考えさせられ、笑顔のまま次があったらお仕置きだからねと宣言され……
「……恐ろしい」
「恐ろしいの前に昼御飯食べずに笑顔で午後の授業乗りきったあんたがすごいわよ」
「ねえ、……瀞さん」
「どうしたの?愛華」
珍しく名前呼びしてこられる水戸様に笑顔で返事すると、水戸様は首を傾げて私を見上げてくる。
「あのね、御菓子作り教えてほしいの」
「勿論。でも今日は私が作ってきた御菓子食べてね」
「うん!それでね……しばらく教えてほしいの」
ちらちら、櫻井様と遠見様を見ている。ん?お二人ともも目が輝いてるということは?3人ともいらっしゃるということで?
「その心は?」
「バレンタインに作れるレパトリーを増やしてください!」
「……なるほど。私は構いませんがそのぶん恭弥様のお側を離れなければなりませんから、お許しを頂けたらいいですよ」
「その恭弥様からお許しはもらったよー」
えへへ。と遠見様が私に詰め寄る。
「『僕の部屋で、僕のぶんも作るのなら構わないよ』だってー」
「……肥えたいのか、あの人」
おもわず声に出てしまったが3人には聞こえなかったようで、3人はわーいと喜んでいた。
まあいいでしょう。
恭弥様には「団体の御菓子作りのあとの試食会」がどれだけ辛いものなのか経験していただきましょう。
むせかえるようなチョコレートの香りの中、チョコレート菓子を食べるあの辛さ。
しかし、甘かった。
恭弥様は、笑顔で出された御菓子を召し上がり、ご飯のあとも残りの御菓子を要求され、次の日も笑顔で水戸様たちを迎え入れるのでした。
……ちょ、体調管理せねばならないかもしれませんね!?