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漫画「君がいたから」1

恭弥も瀞も出てこない番外編です

「ただいまー」


 玄関のドアをあけるとちょうど自室から出てきた妹と鉢合わせた。


「お帰りーお姉ちゃん」


 まだ高校生の妹は、ニコニコと笑いながら手に持ってるものを振りながら私に見せてくれた。パンプスを脱ぎながらニヤリと笑う。


「お、買ってきてくれたの。さーんきゅ」

「いーえ、ありがとうございます、出資者様」

「お釣りはお駄賃だ。取っとけ」


わーい、ありがとうお姉ちゃん!とかジュースが二三本しか買えないお駄賃に喜ぶ妹が可愛い。まあ、高校生なんだからジュース代でも貴重なんだけど。

 妹が買ってきてくれたのは「君がいたから」という漫画だった。


「君がいたから」

 それは、今若い世代で人気が出ている漫画だった。

全寮制の学校でヒロインの主人公とメインの男の子が織り成す恋愛ものなのだが、何が面白いって先が読めそうで読めないストーリーと、女の子がヒロインヒロインしてないことが受けている。

 つまりは、普通の女の子なのだ。普通に浮かれて、普通に落ち込んで、そして恋愛に突っ走って、共感が持てるのだ。

 実はドラマ化が決まってるとか決まってないとか噂があるこの漫画だが、実は週刊誌や月刊誌で連載をしてない珍しいタイプの長編漫画で今、13巻を妹がもっている。


「読んだ?」

「麻人可愛いー」


 麻人というのは、この漫画のメインの男の子なのだが非常に人気が高い。しかし、なぜだかよくわからない。


 私は、断然恭弥様押しである。


「恭弥でてきたー?」

「恭弥、最後超悪かった。はい」


「君がいたから」を妹から受け取って、リビングにはいった。


「ただいま、お母さん」

「おかえり、静香」


 ソファーに鞄を投げて、妹から漫画を受け取り見も投げる。


「そう、おねえちゃん。今回はねー、麻人が愛華への気持ちを自覚して終わるんだけどー、恭弥が最後にでてきたよぉ?」


 恭弥の名前が出てきて、即座に後ろのページをめくった。ついでに、私はネタバレオーケーだ。


 最後の方は麻人が愛華が笑いあってるシーンだった。


『ずっと苦しかった。お前に会うまでずっと苦しかった。恋がこんなに楽しいものだなんて知らなかった。恋がこんなに幸せなものだとは思わなかった』


『それでも、俺はアイツが好きだった』


『俺は好きだったんだ』


『なあ恭弥。お前はまだそこで止まってんの?』


 じゃれあってるシーンから、薪で火を炊いている保月に変わった。

保月が足音か気配で後ろを振り返りにっこり微笑む。


「もうしわけございません、焚き火の焼き芋はまだ焼き上がってなくてーー」


そこで震えながら恭弥の後ろからついてくる女子生徒二人が抱えている荷物がアップになって。


「もう少し落ち葉と薪が必要かと」

「そう。じゃあ、これくらいあったら足りるかな」


にこやかに告げる恭弥。黒いなぁ!それなんだ?なにを持ってるんだ?

その次に麻人の透けた後ろ姿に


『恭弥、お前俺を恨んでる?一足早く辛い恋から抜けた俺をーー恨んでる?』


 空から舞い降りてくる紙切れ。そこには「水戸愛華」と書いてあって、落書きの一部分があった。



……



……



「妹よ」

「なんだ姉よ。後ろから見る癖やめてよ」

「麻人と恭弥はできてるのか」

「んなわけないじゃん。夏休みに麻人が俺の最初で最後の恋は、俺よりも強い女だった!って叫んでたじゃん」

「ってか、麻人、この前沙穂に投げられてたじゃん」


 まず、この漫画女性が強いんだよね。麻人、莉子の担任神戸千夏にも言い負かされている。

そもそも、神戸千夏は大学時代、麻人と恭弥の家庭教師やっていたから神戸に頭があがらないとかなんとか。やんちゃして苦労かけさせられた……って神戸も笑いながら言ってた。


「あたしは、神戸先生だと思うんだよねー。麻人が好きだった人」

「妹よ、私は断然莉子派だ。恭弥は絶対莉子とくっついてほしい」

「ていうか、恭弥は愛華苛めてるから許せん」

「ねー、これ、愛華の教科書って落書きされてたっけ」

「さー知らない」


 なんで、落書きしてさらに燃やすんだ……濡らしてやるほうがダメージ大きいだろ。落書き燃えるじゃん!


とか姉妹で論議してたら、母親にご飯の用意しろと殴られたので漫画を鞄の上に投げて立ち上がった。


「妹よ、もし漫画の世界に入ることになったらどうしたい?」

「麻人と愛華のイチャイチャを間近で見て、苛めるやつら蹴散らす。もち、恭弥筆頭」

「恭弥潰したら、お前を潰す」

「えー。じゃあお姉ちゃんは?」

「恭弥の恋を実らす!」

「お母さーん、お姉ちゃんがご飯の用意しなーい」

「静香、ご飯いらないならいらないって言ってよ」

「はああぁ?お前裏切ったなー?」


 最後は母親に頭を叩かれて終わった。


くっそー。恭弥の恋が始まりもしない。

 少し悔しい思いで炊飯器をあけた。




「母さーん!ご飯炊けてないよっ?お米なんだけどぉぉぉぉ!!」

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