朝食とジャム
私の名は保月瀞。今日も今日とて相澤恭弥さまのお世話をしております。
私はいわゆる転生者で、この世界は『君がいたから』という漫画の世界でございます。といっても、その主人公は恭弥様のご友人の如月麻人様と、めでたくこの度彼女になられた水戸愛華さまで。恭弥様は、その恋路を陰日向で応援する心優しいかたなのです。
前世の私が生きてるときは明かされることがなかった恭弥様の恋!
それを全力で叶えさせることが今の私の最大の……
「瀞、おはよう。どうかした?」
「おはようございます、恭弥様。本日の朝食のチェックをしておりました」
「そう、でもケトル電源入れ忘れてるから急いで」
おや。そういえば沸いてなかったな、お湯。さてはコンセントいれ忘れたか。
コンセントを確認するとやはり抜けていた。
恭弥様はこのコンセントを見たんだな。それで気付いたのだな。
本当に目端の利くかただ、この聡明さ!色素の薄い肌に髪!微笑みを常に絶さない、声をあらげないこの温厚さ!そして……
朝は弱く、今日も寝ぼけていたのだろう。衿が右側だけ立っている。
「失礼します」
後ろから声をかけて手早く衿を直してあげるとその手に恭弥様の手が重なった。
「衿おかしかった?ありがとう」
「礼は不要でございます」
麗しい恭弥様の笑顔に内心でノックアウトされながら、あれ?ってなった。恭弥様が手を放してくれない。つかんでるわけではないので抜こうと思ったら抜けるのだけど。
「恭弥様、手を放していただいても?」
「ふふふ。今日は瀞がつくったスコーンつけてくれる?」
「ジャムはどうなさいますか?」
「んーブルーベリーにしようかなーあったよね、まだ」
ジャムは腐りやすいから小瓶に小分けして保存してある。それがあと3つくらいあったはずだ。ブルーベリー買ってこねば……そろそろなくなる。
畏まりました、と答えてトーストと目玉焼き、ベーコンをプレートにいれてスコーンを添えて恭弥様の前に出す。その後にスコーンにスプーンでジャムをかけた。
ティーカップはケトルで沸かしたお湯を淹れて、すぐに捨てる。もう一度お湯をいれて捨ててを繰り返して手早く拭き取り、作っておいたココアをいれる。
ココアを待っていたのか、ココアを置いたら直ぐに手に取る恭弥様。
「温かいね、外は寒いから温まっていかないと。でも、ケトルは失敗したね。わかるよ、これ」
「申し訳ありません、以後気をつけます。」
「なんでウォーマー使わないの?」
「電源切れてました」
「なに、全部切ってたの」
クスクス恭弥様が笑っている。
「今日は他になにやらかすのかな」
楽しそうにトーストを口に運んでますが、縁起でもないことをいわないでください。
私はカッターシャツの首元を緩めてフーと息をついた。
登校中にネクタイを締め忘れて慌てた私に笑いながらネクタイを差し出してくれた恭弥様が「やっぱりね」と言うのはこの数十分後。