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第一話   橘 龍一郎

橘三兄弟の長男、龍一郎の自己紹介を兼ねた話です。

カタカタッカタカタカタッ、カタッ。


「ふーっ」


今日の作業は一通り終わったので、一息ついた。


今日は予定通り早く帰れそうだな。



今日作業した内容をサーバーの全体作業管理のデータベースに登録した。


俺が担当している作業の予定と実績がぴったりと一致していることを確かめた。



一応、チームの他のメンバーに俺が関わる必要がある問題がないかどうかを確かめておくか。


「すみません! 私はもう上がりますが、今日中に解決しないといけない問題はありましたか?」


「こっちは大丈夫!」「問題なーし」「大丈夫です!」とメンバーから返答が来る。


「ありがとうございます! それじゃ私はお先に失礼します!」


パソコンをシャットダウンして、机の上を片付けて撤収準備完了。


「それでは、お疲れ様です!」


チームのメンバーや、同じ部屋にいる人たちに声をかけて部屋を出る。




俺は「たちばな 龍一郎りゅういちろう


今年22歳になったところで、同い年のヤツらはまだ大学に通っているか今年度に大学を卒業するくらいだろうが、俺は大学に行かずに働いている。


高校の時からプログラムをかじっていて、高校を卒業してすぐに知り合いのもとで修行という形でしばらくは無報酬で仕事を手伝って、なんとか仕事をこなせるレベルの実力を身に付けた。


年齢が年齢なんで、20歳になるまではその知り合いの下で働かせてもらいながら、プログラムだけじゃなくて設計に関する知識をつけたり、いろんな本を読み漁っていろんな業界についての知識や経営学なんかも学んでいた。


そして20歳になって独立した。って言っても個人事業だが。


IT業界おなじみの下請け構造の下流の方だが、何とか仕事をもらってやっていけている。


いろいろ前もって勉強していたおかげで、プログラマーとしてだけでなく、その上流の設計なんかも任せてもらえるようになり、今は4人チームのリーダーもやらせてもらっている。


チームのなかでは俺が一番歳下だが、まあそれなりにコミュニケーションを取って、うまくやれている方じゃないかと思う。


もうすぐ今のプロジェクトが終わって、また仕事を探さないといけないんだが、次男の「虎次郎とらじろう」は来月に中学卒業だし、三男の「凰太おうた」も来月は春休みだし、俺もしばらく休んでもいいかもしれないな。


最近は残業が多かったおかげで追加の手当ももらったしな。




電車を乗り継いで、家に帰る。


自然一杯といえば聞こえがいいが、まあ田舎の方で通勤は面倒くさいが、さすがにもう慣れた。


橘の家はとにかく敷地がでかく、母屋のほかに道場も建てている。


外から見たら武家屋敷みたいに見える、なかなか厳めしい家だ。


じいさん……俺たち三兄弟を拾ってくれた「たちばな 十蔵じゅうぞう」が廃屋しかなかったこの土地を買い取って色々手を加えたらしい。



俺たち三兄弟もじいさんも、みんな血が繋がっていない。


俺と虎次郎はじいさんに拾われて、凰太は俺が拾って、みんなじいさんに面倒を見てもらってきた。



このじいさんがもう80歳と結構な歳の癖にバカ強い。


小さいころからずっとこのじいさんに武術を教えてもらっているが、一度も勝てたことがない。


俺が届きそうで届かないようなレベルで手加減をされ続けて、いまだに手加減されている。



今日こそは一泡吹かせてやろうと考えてるんだけどな。



ガラガラッと引き戸を開けて「ただいま!」と声をかけた。


居間にいたじいさんがでてくる。


髪は白くなっているが、ガタイはいいし、とても80歳とは思えん。


「おう。今日は早かったな」


と顎を撫でながら道着……というかじいさんにとっては普段着の懐に片手をつっこみ、もう一方の手で顎をなでながら言ってくる。


「まあな。すぐ道場に行くぜ」


とじいさんに声をかけて、俺の部屋に荷物を置き、道着に着替える。



道場に向かって歩きながら、体内の気を巡らせ、背中に隠れるように「放出」し、円盤状にして回転させる。


道場の扉を開け、背中に隠して回転させていた気の円盤をいきなりじいさんに向けて投げつける!


とりあえず一発くらいは食らわせてやるぜ!



しかし、じいさんは片眉を少し上げて「ふん」と呆れたように鼻を鳴らし、右手の手のひらをすっと前に出した。


カーンと高い音がなって、俺が作った気の円盤はじいさんの手のひらの前で消え去った。


……ダメだったか。



じいさんはニヤリと笑いながら、


「気の放出だけでなく、形を与えて硬度を高めるところまで出来るようになっていたとは知らなかったがな。


背中に隠していようが、気の気配をまったく隠せてないだろうが。


そこまでできんと俺に不意打ちなんざ無理だぜ」


と言ってきた。


「気配が隠せてないのは分かってるよ。


前に俺がみせた気弾を隠してると思わせおいて、気弾と今回の円盤との硬度の違いで対処をミスらせようと考えてたんだけどな」


と言い返してはみるが、まあ失敗すればただの言い訳だな。



その後は気で肉体を強化した状態でじいさんと組手をやったが、いつも通り、手加減された状態でも一発も有効打を当てられなかった。


途中で虎次郎と凰太も混じってきた。


まあ凰太はまだ7歳だから組手はあまりやらせないけどな。


凰太はいつも通り、座禅を組ませて気を体に巡らせる練習をじいさんがやらせている。



「兄貴! やろうぜ!」


と虎次郎が言ってくる。


さっきじいさんとやっていたのと同じ、気で肉体を強化しながらでの組手をやる。


虎次郎は正直、才能は俺よりもあると思う。


……が、真っ直ぐな性格通りの癖のない攻撃や、大雑把な組み立てのせいで、俺からするとやりやすくて割と簡単にさばけてしまう。


気を操るセンスがいいのか、元々の気の容量が大きいのか、たまにヒヤっとする攻撃もあるが、俺に有効打は当てられない。


俺とじいさんの差ほどではないが、俺と虎次郎の差もまだまだ埋まらないな。




稽古を終えて、風呂で汗を流してから少し遅めの晩飯だ。


今日は俺の当番なので早めに風呂を上がって準備する。


料理は俺と虎次郎が交代でやっている。


じいさんも作れるし、かなりの腕なんだが、面倒くさがってなかなかやらない。


俺が作れるようになったらすぐに俺に丸投げしてきたなー


ちなみにいろいろ大雑把な虎次郎は食うことに関しては真剣になるのか、料理はすぐにうまくなった。



武家屋敷みたいな家に住んでいるからというわけではないと思うが、ウチは和食が多く、今日もそうだ。


たまに気が向いて洋食にしてもだれも文句は言わないんだけどな。


作り慣れたものの方がやっぱり楽で、結局ほとんど和食になる。



じいさんは武術をやっているくせに礼儀にうるさかったりはせず、道場でも決まった挨拶などはないが、なぜか食べる時だけはしっかりと、


「「「「いただきます!」」」」


と唱和する。




まあ、今日もいつも通りの一日だったな。


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