第十六話「邂逅」
翌日。
私たちは約束通り、孤児院を訪れた。
玄関を叩くと、ほどなくしてクゥリが現れた。
だが、クゥリは申し訳なさそうに眉を下げる。
「ごめん姉さん。シスターに客人が来てて……申し訳ないんだけど、少し待っててもらえる?」
「もちろん」
リンも小さく頷く。
クゥリの案内で、私たちは子供たちのいるホールに足を運んだ。
すると——
「勇者さまだ!」
わっと歓声が上がる。
子供たちは一目散にリンへと駆け寄ると、あっという間に囲んでしまった。
「またきてくれたー!」
「銀色きれー!」
リンは、やっぱり困った顔になる。
でも、一昨日より幾分も落ち着いていた。
今日は助けはいらなそうだ。
リンがしゃがんで、子供たちと対話している。
その光景を、私は微笑みながら眺めていた。
そんな中、一人の小さな女の子が私の袖を引いた。
「ねえおねえちゃん。ご本よんで」
差し出された絵本の表紙には、大きくタイトルが書かれている。
『せかいの盾 六辺勇者』
クゥリが言ってた、孤児院で流行ってるっていう絵本かな。
「いいよ。こっち座ろっか」
リンたちから少し離れたところに座り、私は女の子に向けページを開いた。
「むかしむかし、世界に危機が訪れました。そして、それに呼応するように、六人の勇者が現れました」
絵は柔らかい。
勇者たちは、希望を背負った存在として描かれている。
「炎の勇者は空を舞い敵を焦がし、癒の勇者は人々を護り病から救い——」
気づけば、私の周りに多くの子供たちが座っていた。
リンも、私の隣に座っている。
「六人は力を合わせ、世界の危機を退けました。それからは、世界が危機に瀕すると新たな勇者が現れるようになりました」
子供たちは目を輝かせて聞いている。
「勇者は、世界の盾。人々を助けるために生まれ、人々を守るために戦う存在なのです」
最後のページを読み終わり、本を閉じる。
すると、ぱちぱちと拍手が起こった。
「勇者さま、やっぱりすごいね!」
「かっこいい!」
視線が一斉にリンへ向く。
リンは気恥ずかしそうに視線を逸らしながらも、近くにいた子供の頭をそっと撫でた。
その仕草は不器用で——けれど、確かに優しかった。
私は立ち上がり、クゥリに言う。
「それにしても、子供増えたね」
クゥリが頷き、口を開く。
「最近、グラス公爵が養護にも力を入れてて」
「へえ」
「今日も、それでシスターとお会いしてるんだよ」
——その瞬間。
びくりと、リンの肩が震えた。
私の袖が、ぎゅっと掴まれる。
見れば、リンが怯えたような表情で私を見上げていた。
「……ユフィ……帰ろ……?」
「え? どうしたの——」
「リンちゃん……?」
背後から、声が聞こえた。
振り返ると、そこに立っていたのは身なりの整った老婦人だった。
上質な衣服。
静かな威厳。
そして——まっすぐリンだけを見つめる瑠璃色の瞳。
子供たちが、無意識に静まり返る。
リンは、私の袖を掴んだまま——何も言わず俯いていた。




