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幕間-3「静かなる終幕」

 アデランが拠点を発ってから、二日が経った朝。

 その知らせは、静かに、しかし確実に行き渡った。


 『アデランが、ギルド規約違反で拘束された』


 伝えに来たのは、ギルドの職員だった。

 淡々とした口調で事実だけを告げ、必要な書類を置いて帰っていった。


 それきり、誰も声を発さなかった。


 作戦室には人が揃っていた。

 だが、椅子に腰掛けたまま俯く者、腕を組んで壁を見つめる者、机の一点を見つめ続ける者——誰一人として、口を開こうとしない。


 その沈黙を破ったのは、誰かがぽつりと零した呟きだった。


「……依頼、止まってるな」


 机の上に広げられた依頼票は、数が少ない。

 それもどれも小口で、報酬も低い。

 もしかしたら、Bランクだった頃よりも。


「問い合わせも来てない」

「来るわけないだろ」


 低い声が返る。


「規約違反で拘束だぞ。しかも、ギルド職員への威圧行為」

「……名前、完全に終わったな」


 誰かが、短く息を吐いた。


 それは怒りでも嘆きでもなく——ただの事実確認だった。


「もうさ……」


 別のメンバーが、椅子の背にもたれながら言う。


「名前を変えたって無駄だろ」

「……ああ」


 即答だった。


「“象牙の刃”って聞いたら、真っ先に思い出される」


 誰も否定しなかった。

 それが、この場にいる全員の共通認識だった。


 再び沈黙が落ちる。


 誰かが怒鳴り出すこともない。

 責任を押し付け合う声も上がらない。

 ただ、全員が理解してしまっていた。


 ——もう、取り返しがつかない。


「……ユーフィリアが抜けた時点で、終わってたんだな」


 その言葉に、誰も反論しなかった。


 事務処理。

 依頼の選定。

 ギルドとの折衝。

 金の流れ。


 それらを一手に担っていた存在を、軽んじた結果がこれだ。


 そして、最後の一押しが——アデランだった。


「俺たちは、止められなかった」

「止める気もなかっただろ」


 淡々とした言葉が続く。


「……じゃあ、どうする」

「どうもできないだろうな」


 誰かが立ち上がり、椅子を押し戻す。


「解散だ。少なくとも、この形じゃ無理だ」

「……ああ」


 誰も異を唱えなかった。


 その決断は、会議でも宣言でもなかった。

 ただ、全員が立ち上がらなかったことで、自然と決まった。


 象牙の刃は、その日を境に実質的に機能を停止した。


 拠点に人が集まることはなくなり、依頼票は剥がされないまま古び、書類は整理されることもなく棚に眠った。


 そして——


 王都に次の定期新聞が並んだ頃。

 小さな記事が、隅に載った。


 ——Aランク冒険者パーティー「象牙の刃」、事実上の解散。

 ——ギルド規約違反による信頼失墜が原因と見られる。


 それだけだった。


 名前は載っていた。

 だが、詳細は書かれていない。


 功績も、過去の栄光も。

 誰が、何を、どれほど積み上げてきたのかも。


 何一つ、記されなかった。


 象牙の刃は、そうして——世界から、静かに消えた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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