2-4.檻の中
事後検査室の重い扉がスライドし、リュウはよろめくように回廊へ出た。
正面には、巨大な円柱状のポッドに閉じ込められたジンが、青白い光の中で浮遊している。数時間前、出撃のためにここを訪れた時と変わらぬ、静謐でいて暴力的な威圧感だ。
リュウは円形回廊を歩き、ポッドの至近距離へと足を進めた。ジンの巨体から漏れ出す強大なエネルギー干渉により、この周囲だけはバイブルの走査に僅かな「情報の歪み(ノイズ)」が生じる。
彼は冷たい強化ガラスに額を預けた。脳の奥には、リンクを断絶した後も、ジンと混ざり合っていた時の「熱」がヘドロのようにこびりついている。
「……ひどい面だな、二等執行官。また寿命を削ったか」
ポッドのスピーカーから漏れる、掠れた皮肉。
ジンは、自分が「ただの兵器」として扱われていることを承知の上で、それを制御しようと足掻くリュウの疲弊を愉しんでいるようだった。
「……黙れ。お前の出力を上げたせいだ」
リュウは短く吐き捨てた。
言い返す言葉とは裏腹に、その声には敵意よりも、どこか奇妙な安堵が混ざっている。完璧な管理網を敷くバイブルも、サカキのような同僚も知らない――自分を蝕む「痣」と「限界」を、皮肉にもこの『バケモノ』だけが正確に共有していた。
「ククッ……。心地よかったぞ、あの加速は。お前の脳が焼き切れる寸前の、あの悲鳴のような高揚感……。あれこそが、俺たちが生きている証だ」
ジンの言葉は鋭いナイフのようにリュウの胸を刺す。だが同時に、誰にも言えない脇腹の痛みを、彼だけが肯定してくれているようにも感じられた。
「……次は、あそこまで上げさせない。俺が、お前を制御してみせる」
「やってみろ。だが、次にそのラインを越えた時……。お前が『こちら側』に来るのを、俺は楽しみに待っているぞ」
ジンの瞳に、一瞬だけ親愛にも似た昏い光が宿る。
リュウはそれに応えることなく、重い足取りで背を向けた。
背後でジンの低い笑い声が、収容区画の冷たい壁に反響して消えていく。
リュウは自分の震える指先を強く握りしめた。
人間とバケモノ、飼い主と猟犬。
二人を隔てていた透明な境界線が、浸食の音を立てて、確実に脆く崩れ始めていた。




