2-3.静寂の代償
任務を終えた執行官には、例外なく「事後検査」が義務付けられている。
サカキら一般執行官が各居住区の分署で検査を受ける一方で、二等執行官であるリュウだけは、隔離区域「エリア・ゼロ」の最深部にある小部屋へと向かう。
そこにあるのは、窓一つない無機質な灰色の空間だ。
扉がロックされると同時に、天井のセンサーが青い光を放ち、彼の全身をスキャンし始める。
「……っ、……」
リュウは壁に手をつき、荒い息を整えながらバイザーを剥ぎ取った。網膜を焼き続けていた過剰な戦術情報の残光が、視界からゆっくりと引いていく。
彼は震える手でスーツの胸元を寛げ、素肌を晒した。
左脇腹に刻まれた漆黒の痣。心臓へと這い寄るその禍々しい紋様を、冷徹な監視カメラがじっと見つめている――
リュウは、自分の心拍数や体温がコンソールに表示されるのを横目で見た。数値は正常範囲の限界ギリギリを指し、不安定に波打っている。
「バイブル」はこの痣を、そしてこの数値をどう認識しているのか。ただの肉体的負荷による「ノイズ」か、それとも排除すべき「バグ」か。システムが沈黙を守っている今のうちに、彼は指先で痣の縁をなぞった。
痣の先端は、前回の任務後には確かに肋骨の三節目で止まっていたはずだ。だが今は、そこを明確に乗り越え、心臓という聖域を侵さんと蠢いている。
「……また、少し進んだか」
確信を口にすると、その言葉は重苦しい絶望となって部屋に響いた。
指で触れれば、痣の箇所だけが異様に熱く、同時に氷のように冷たい。まるで肌を焼き切るドライアイスに触れているかのような感覚。
ジンという名の「圧倒的な暴力」を、自分の神経を介して解き放つ。その代償として、この痣はリュウの肉体を、存在を、内側から確実に削り取っていく。
この浸食の果てに、何が待っているのか。その答えを、今の彼はまだ知らない。
彼は痛みをこらえるように痣を強く押し込み、乱れた衣服を整えた。
暗い部屋の中で、スキャン終了を告げる無機質な電子音だけが、無慈悲に鳴り響いた。




