2-2.戦いの跡
静寂が、広場の惨状をより際立たせていた。
真っ二つに割れた記念碑の断面からは、この世界の「調和」の象徴だった白磁の破片がパラパラと零れ落ちる。
「……掃討完了。周辺のノイズ濃度、正常値に復帰」
リュウの声は、バイザー越しに聞けばどこまでも平坦で、機械的だった。彼は手元の端末を操作し、広場に残留していた反転光の残滓――
二人が現れた際に生じた空間の亀裂を、上書きするようにして完全に消滅させる。
「おい、ふざけるなよ……!」
重い足音を立てて歩み寄ってきたのはサカキだった。彼は真っ二つになった記念碑と、無惨に砕け散った噴水を見やり、顔を真っ赤にしてリュウの胸ぐらに掴みかからんばかりの勢いで詰め寄る。
「被害を最小限に抑えろと言ったはずだ! これがエリート様のやり方か? 敵を倒すためなら、自分たちの街を更地にしても構わないってのか!」
背後で銃を構えたままの第一部隊の面々も、サカキに同調するように、ジンとリュウに向けて険しい視線を送る。彼らにとって、目の前に立つ二人は救世主などではなく、平和な日常を物理的に破壊しにきた「もう一種の災厄」に過ぎなかった。
「……バグの再生速度が予想を上回っていた。ジンの出力を上げなければ、広場どころか居住区全体がノイズに呑まれていただろう」
リュウは感情を殺したまま、サカキの視線をバイザー越しに跳ね返す。
その時、ジンの背中の「角」が、不快な金属音を立ててスーツの内側へと引き込まれていった。ジンは返り血のような黒いノイズを掌で払い落とすと、自分に向けられる殺気混じりの視線を鼻で笑い飛ばす。
「無駄だ。こいつの頭にあるのは、効率とバイブルの教本だけだ」
ジンが、低く掠れた声でサカキに応じる。その黄金色の瞳はまだ興奮の余熱で光っており、近づくことすら躊躇わせるような威圧感を放っています。
「……おい、ジン。余計な喋りは不要だ。収容手続きに入る」
リュウが冷たく言い放つ。バイザーの向こう側で、彼は一度だけ、深く瞬きをした。ジンの出力を無理やり引き上げた代償か、指先がわずかに熱を持ち痺れている。だが、彼はそれを悟らせることなく、ホルスターに手を置いて姿勢を正した。
「……分かってるよ。お前の『手綱』は、いつになくきついからな」
ジンは皮肉げに口角を上げると、リュウの横を通り過ぎた。
リュウが再び端末のキーを叩くと、何もない空間が熱を帯びて歪み、帰還用のゲートが音もなく口を開く。
「おい、待ちやがれ! まだ話は終わって――」
詰め寄ろうとするサカキの怒号は、空間が閉じる際の鋭い圧搾音に掻き消された。
二人の姿が虚空へ消え、空間の歪みが完全に平伏した後。広場の中央には、守るべき対象であったはずの街の無残な傷跡だけが、彼らが確かにそこに存在し、蹂躙していった動かぬ証拠として、黒々と夜の底に横たわっていた。




