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バイブル・コード  作者: 中門大良
第2章

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2-10.亀裂の主

 輸送機『カロン』のハッチが開き、外縁部 A-12ポイントに冷たい大気が流れ込む。

 そこはエリア・ゼロを囲む巨大な防壁の最上層。本来ならバイブルが生成した「偽りの星空」が見えるはずの場所だが、今のそこには、空間そのものが腐食したような紫黒色の亀裂が、天を衝くようにして口を開けていた。

「全員、降下! 散開してフォーメーションBだ。リュウ、貴様は後方でノイズ解析を行え。余計な真似はするなよ」

 カインの指示が飛び、執行官たちが次々と戦域へ降り立つ。

 リュウが地面に足を下ろした瞬間、バイザーの警告アラートが激しく点滅した。

『警告:周辺空間のテクスチャ崩壊。バイブルとの同期率、82%まで低下。自己修復プロトコルを推奨します』

 同時に、リュウの脳内を包んでいたエナの薬による「冷たい静寂」が、ガラスが割れるように霧散した。亀裂から溢れ出す濁ったエネルギーが、麻痺していた彼の神経を強引に叩き起こし、内なる怪物を呼び覚ます。

『……ハハッ、ようやく晴れたか。鼻を突きやがるぜ、この「真実」の臭いはよぉ!』

 脳内の「ジン」が、飢えた獣のように喉を鳴らした。左脇腹を強く押し潰すが、指先に伝わる痣の拍動は、凍てつく脈動となって彼の内側を侵食していく。その時、亀裂の奥から粘り気のある重低音が響き、巨大な異形が這い出した。数万のデジタル・コードが複雑に絡まり合い、無数の「目」のような光が表面で明滅するバグの残骸だ。

「……標的視認! 総員、一斉射撃開始!」

 カインの号令とともに、十数挺の電磁銃が火を吹いた。

 だが、異形は攻撃を透過させ、触肢の一撃で足場の石畳を消失させていく。一人の隊員が触肢に弾かれた。熱湯に放じられた氷の粒のように、アーマード・スキンごと「存在」を形に留める間もなく分解され、虚空へと消えた。

「怯むな! 奴の『定義』を焼き切れ!」

 カインが単身、高機動ブーストで異形の頭上へと肉薄する。彼は愛用の強化ブレードを抜き放ち、バイブルの演算支援を限界まで受けた一撃を異形の中央へ叩き込んだ。

 ガッ、という嫌な衝撃。

 本来なら戦車の装甲すら紙のように切り裂くはずの刃が、異形の体表で火花を散らし、そのまま音を立てて砕け散った。カインのバイザーには、対象を解析不能と示す『UNKNOWN』の赤い文字が狂ったように点滅している。

「……嘘だろ、受け付けないのか……!?」

 カインが息を呑む。バイブルの最適化プログラムを施された武装ですら、目の前の「バグの塊」には存在を認識させることすらできていなかった。驚愕に固まるカインを嘲笑うかのように、異形の触肢が四方から彼を包囲する。カインは即座に緊急回避を試みたが、背後の石畳がポリゴン崩壊を起こして消失。逃げ場を失った彼の目前に、空間を食い破る紫黒色の触手が迫る。

 死の予感に身体が強張ったその刹那、カインのバイザーにバイブルからの緊急割り込み通知インターラプトが走った。

『……特殊戦闘プロトコル:コード・ジンを承認。一時的なリミッター解除を許可する』

「……なんだと? 上層部め、この期に及んでまたこの男を『実験』に使う気か!」

 死を覚悟した屈辱と、上層部への憤り。それらを飲み込み、カインは目前で立ち尽くすリュウに向けて、喉が焼けるような怒号を投げつけた。

「リュウ! 突っ立って何をしている! 貴様のその汚らわしい『力』なら、これが何なのか分かるはずだ……! さっさと動けッ!」

 その時、リュウの脳内ではジンが狂おしい笑い声を上げていた。

『ヒヒッ……トロいんだよ。バイブルの野郎、俺を「電池」か何かだと思ってやがる。……いいぜ、望み通り繋いでやる。ただし、出力の加減は俺が決めるがなぁ!』

「が、あ……ぁぁあ!!」

 バイブルが予定していた「安全な強化」をジンの意志が粉砕し、計測不能のノイズが溢れ出す。リュウの左脇腹から黒いノイズが噴き出し、背中の装甲を突き破って一対の「角」が禍々しく伸長した。

『心配するな……お前の「中」は、俺が綺麗に食い尽くしてやるよ!』

 黄金色のノイズに染まった瞳で、リュウは絶望の戦場へと跳んだ。

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