2-8.バイブルの招集
エナから与えられた薬がもたらす冷涼な静寂。それに身を委ね、意識の端がまどろみ始めたその時だった。
壁面に埋め込まれたアラートが、静止した空気を切り裂くように、赤く冷酷な光を放ち始める。
『――緊急招集。二等執行官リュウ。直ちに第4発進デッキへ向かえ』
部屋のスピーカーから流れる、バイブルの無機質な合成音声。それは個人の休息など一切考慮しない、絶対的な命令だった。
リュウは重い瞼をこじ開け、壁に預けていた身体を起こした。薬の効果で痣の熱は引いているが、代わりに身体の芯が冷え切ったように重く、四肢の感覚がどこか遠い。
「……休みなしか」
掠れた声で毒づきながら、再びメンテナンス・ユニットの前へ立ち、アーマード・スキンの装着シークエンスを開始する。プシュッという圧縮空気の音と共に、黒い装甲が身体のラインに合わせて締め上げられていく。物理的な圧迫感と、システムが神経をなぞる微かな違和感が、薬でぼやけかけていた意識を強制的に「執行官」へと引き戻した。
情報端末に送られてきた任務詳細を、バイザー越しに視線で追う。
【任務:エリア・ゼロ外縁部 A-12ポイントにおける「未確認エネルギー反応」の調査及び排除】
「外縁部……?」
リュウは眉をひそめた。そこは、あのジンが何重ものプロテクトをかけられ、今も厳重に拘束されている「深層の封印区画」とは真逆の方向だ。バイブルの完璧な管理下にあるはずの境界付近で、一体何が起きているのか。
重厚なタクティカル・ナイフと電磁拳銃を手に取り、エナから受け取った薬のケースを隠しポケットに深く収める。
一度はその身に宿して戦い、今も左脇腹に疼きを残し続ける「あの力」の感触を拭い去るように、彼は未知の異常が待つ調査ポイントへと歩み出した。




