9 リリアの勘違い
ヒュー。
村を出ると、風に吹かれた木の葉が弧を描いた。
馬の前で、オレは腕組みをした。
爺さんを助けて、少しの会話を交わしてオレはすぐ村の外へ出るよう促された。
オレは一人寂しく佇んでいた。
「あれ、よく考えると、オレ命の恩人だよな。何で追い出されたんだ」
隣で浮遊するリュシエルに語りかける。
「村長を救って、娘を助けて、村を盗賊から解放したら感謝されるものじゃないのか?」
「お気の毒に」
リュシエルは整った眉尻を下げて、肩を竦めた。
「でもって、一晩中豪華な料理を食べ放題、村娘たちはオレに惚れ放題」
「心が濁ってるから、村を追い出されたんじゃないの?」
「姿が見えなくてよかったな。お前だと焼き鳥にされて喰われてるところだろ」
「おい、どういう意味だ?」
「不味そうだな。いや、リュシエルは、顔だけは可愛いからむしろ、うまいかもな」
「そうかな。やめてよ、照れるじゃん」
羽根を翻してリュシエルがくるりと回る。
「試しに食っていいか?」
「ダメだってば、恥ずかしい」
頬に両手を添えてリュシエルが肩を左右に振った。
こいつは、本当につけあがるヤツだな。
もっとも、この性格のおかげで、オレは脱獄できたわけだが。
「天使をからかうのも飽きたし、そろそろ行くか」
「ちょっと待ちなさい。聞き捨てならないわね」
無視して鐙に足を掛ける。
先を目指すか。
爺さんに感謝されたいわけでもなかったしな。
どちらかと言うと、女の子にキャーキャー言われたいだけだ。
馬に跨ると、遠くから声が聞こえた。駆け足で近寄ってくる姿がある。
オレには、女の子の気配が発動条件となって、視力と聴力が上昇する固有スキルを備わっている。
唯一無二の能力が、あれは女の子だと告げた。
村長の孫娘だった。
彼女はオレの足元で息を整えると、頭を下げた。
「ごめんなさい。お礼を言いそびれてしまって。みんな、心の底では感謝しているんです。ただ、今はどうしても。いつか、きっと……」
少女は顔を上げて微笑んだ。
「お会いできて良かったです」
爺さんを人質にされていた時の悲壮感はなく、晴れやかな表情だった。
これほどの報酬を貰えるなら、村を追い出されても、まあいいかと納得できた。
彼女は小さな握りこぶしを作って襟元を掴んだ。
「おかげで決心がつきました。私もっと強くなります」
「あ、ああ、それはいいことだ」
彼女の中で何が変化したのか分からず返答に窮したが、その瞳には強さが滲んでいた。
命がけの経験が彼女に意識を変革をさせたのかもしれない。
「私、リリアと言います。きっとまた会うことになると思います。勇者様」
「勇者……」
リュシエルが反応し、眉を顰めた。
「やめてくれ、オレは勇者じゃない」
体を張って、勇者とかいう別の男の評判が上がるのは許せん。
「オレはイズルだ。大事なところだぞ、そんなのと間違えるな」
「ではイズル様。またいずれお会いしましょう」
これは死亡フラグを回避のご褒美、デートフラグ発生か。
回収できるのはいつだ、天使よ。
「目をランランさせて私を見ないでよ。この世界であんたに平穏なんてないんだからね」
たまには、ご褒美イベントがあってもいいと思うのにな。
世界は許してくれないらしい。




