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悪役令息に転生したオレは、勇者のために死ぬべきか~それは処刑前夜に始まった。世界に殺されるなら、運命に抗い脱獄する――これがオレの物語だ~  作者: 未玖乃尚
第二章 勇者と竜王がいるらしい

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8 イズルの血

「妙な動きをしたら、爺さんが死ぬぞ」

 首領が爺さんの髪を掴んで、力任せに振り回す。


「爺さんが死ねば、この子を助けることだけに集中できるな」

「減らず口はやめろ」

 首領の持つ割れた瓶が、爺さんの頬に赤い筋を残した。


「人質二人と人質一人。どっちがお前たちに有利だろうな」

「お前が死ぬのが一番都合がいいな。なあ、ジュリアンおぼっちゃま」

 首領が皮肉を込めた笑みを浮かべた。


「処刑されたはずのあんたが、どうしてこんな辺境にいるのか知らんが、悪く思うなよ。剣に近づく者は片っ端から殺せ、そう仰せつかっているんでな」

「剣? 何のことを言ってるんだ?」

 首領の口ぶりだと命令している誰かがいるようだ。


「知らなくていい。あんたはここで俺に処刑されるんだからな」

「そうなるのはお前らかもしれないぞ」

「そんな華奢でペラペラな体のお前に何が出来る」


 瓶の先端を突き出して、首領が笑い出した。

 取り巻き連中も、ゲラゲラと笑い出す。

 オレもつられて吹き出した。


「確かに、こいつ紙みたいだからな。うまいこと言って笑わせんな。腹が痛い、ていうかここに響くだろうが」

 オレは太ももに突き刺さったナイフの周りを掴んだ。脈打つように痛みが響いている。溢れ出る血が地面に滴る。


「てめえ、イカれてんのか。状況分かってるんだろうな」

「爺さんを盾にして女を脅す輩が、喚いていることだけは分かる」

「少し……痛い目に逢わせてやろうか」


 首領が苛立ち混じりに言いながら、視線を太もものナイフに向け、口端を歪めた。

 オレの痛がる素振りに、嗜虐心をそそられたようだ。


「そうよ、イズル。レベル3のあんたにどうこうできる状況じゃない」

 リュシエルが耳元で囁きかける。


 まだレベルに捉われてるのか。牢獄で証明したはずだ。

 魔法の構築にレベルは無関係、魔力さえ補えれば発動できる。


 足りないなら、用意すればいい。

 少し考えれば分かることだ。遥か過去から、手に余るほどの大規模な魔術的儀式を行う際、足りない魔力を何で補った?


「ひゃははは! 状況を分からせてやるよ」

 首領が目を剥いて空を仰いだ。

 生贄。つまり、生き血だ。


「苦しみ、悶えろ」

 首領がオレの腿からナイフを抜いた。歓喜の表情が浮かぶ。


 魔法は構築済み。後はオレの血を触媒にして発動させるだけ。

 血は生命力であり、魔力そのもの。皮膚を通して、染み出したものとは濃度が違う。


「私の羽根の代わりに、自分の血を利用するってこと?」

「ご名答」


 発動。

 溢れ出した血が影に吸い込まれた。


 全身の血液を使われても困る。使用される血液の量に合わせて魔法構造を最適化した。

 最小の魔力で最大限の威力を発揮するように調整。


 ナイフを手にした男の背後に影が立つ。反応する間は与えない。

 影は狼のように顎を開き……

 男をこの世から消した。

 正確には首領以外の男たちが消失した。


「何なの、この魔法。天使の私だって見たことない」

「そりゃそうだろ。オレが作ったんだからな」

「オリジナルの魔法を作り上げた? 無詠唱で?」

「オレに呪文は必要ない」

 呪文はオレにとっては、イメージを縛り上げる言葉の檻でしかない。


「あんた、思ってた以上に危険だわ」

「前世でよく言われた」


「おい、てめえ!」

 首領が叫んだ。


 覆いかぶさるほどの影に頬を強張らせるが、弱みを表に出さないのはさすがだ。

 構えたナイフと割れた瓶を構えた腕の震えが、止まった。


「何をしやがった。あいつらはどこへ消えた」

「気にすんな。お前もすぐに連れて行ってやる」


 傷口付近を焼いて止血し、簡単な回復魔法を施す。

 血液に頼った覚醒時間は終了だ。この方法は今回限りだ。リスクが大きすぎる。


 単なるレベル3に復帰だ。

 発動済みの魔法を除いて。


「動くなよ。誘導したとはいえ、お前にはナイフを抜かれたからな。想定通りでもやっぱり出血は嫌なもんだぞ。やられたからにはやり返す」


「全員殺してやる。まずはお前……」

 首領が鋭利な瓶を振り上げると同時だった。


 パクッ。

 声が、途絶えた。


「あーあ」

 指を鳴らすと、役目を終えた影が霧散した。

「動くなって言ったのに。仕返しし損ねた」

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