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悪役令息に転生したオレは、勇者のために死ぬべきか~それは処刑前夜に始まった。世界に殺されるなら、運命に抗い脱獄する――これがオレの物語だ~【完結】  作者: 未玖乃尚
第六章 勇者、悪役と観察者そして……

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70 エピローグ:この部屋の温もりは妄想だった

 部屋に入るとリュシエルがオレを出迎えた。

 丸い木のテーブルに、立派な表紙の本が開かれている。


 リュシエルは膝を崩し、両足を外に流して座り、本を読んでいた。

 オレが持つ箱に注目すると、頬を綻ばせる。


「それは、まさか!」

 オレは箱を掲げて見せびらかす。

「ケーキだぞ」

「おおーっ!」

「サラに店を教えてもらった。良く分からんが、サラが言うなら美味いんだろう」


 テーブルに箱を置くとリュシエルが近寄ってきた。

 箱には、森で遊ぶ妖精のシルエットがデザインされていて、リュシエルが並ぶと、彼女まで森に紛れたかのように馴染んだ。


「本読んでたのか?」

 ケーキに夢中になったリュシエルは、読みかけの箇所を見開きで放置していた。


「うん。タイトル覚えてなかったから、探すのに苦労したよ」

「なら、やっと覚えたってことだな」

「でも忘れちゃった。長くて覚えられないなあ、あのタイトルは」

「いい加減なヤツだな」

「イズルには言われたくない」


「オレはいい加減じゃないぞ」

 ビリビリ、と包装紙を引き裂く。


「雑だな!」

「え、いる?」

 破れた包装紙を渡そうとして押し返された。


「そんなになったら使い道ないじゃん」

「なら、さっさと食うか」


 包装紙を押しのけ、皿を二枚並べると、ケーキを箱から出す。

 円形のケーキだ。切り株や妖精の人形で飾られ、表面のクリームには緑色の粉がまぶされていた。


「ずいぶん、かわいらしいケーキだね。イズルっぽくないな」

「面倒だから一番高いの買った」

「情緒がないね」


「高いんだから、美味いんだろう」

 言いながらオレは、ケーキにナイフを落とした。

 台を傷つけることなく、ケーキを両断する。


「ムダに凄い技術だね」

「刃物の扱いはまかせろ」

「君には、ケーキ切断士の免許を与えるよ」

「貰えるもんは何でも貰おう」

 皿にケーキを移す。


「私、大きい方」

「じゃ、オレは切り株で」

 チョコクッキーが美味そうだ。


「妖精と取り換えっこしようよ」

「いやいや、オレは切り株に拘りがあるんだが」

「私が妖精食べたら、共食いみたいになるじゃん」


 そういうとリュシエルは、オレの意見も聞かずに妖精を両腕で掴んで、口元まで運んでくる。


「はい、あーん」

「もぐもぐ。うん、パサパサして粉っぽいな」

「お返しは?」

 リュシエルは自分の唇に指を当てて、無言で訴える。


「ほれ」

 摘まんで差し出すと、リュシエルは瞳を閉じて切り株をかじった。


「うん。おいしいよ。凄く」

 ゆっくりと噛みしめるように顎を動かして、リュシエルが言う。


「イズルも食べていいよ」

「じゃ、遠慮なく」

 ぽい、と残りの切り株を口に放る。

 チョコクッキーが砕けた。


「ちょっと、全部食べないでよ」

「食べていいって言っただろ」

 切り株を飲み込む。


「一口だけって意味だよ」

「はっきり言わないと伝わらないぞ」

「もう!」

 頬を膨らませて、リュシエルはケーキを食べ始めた。


 オレもフォークですくって味見をしてみた。クリームとスポンジが舌に触れて、溶けた。甘みと香が口に染み渡った。


「うまいな!」

「だね!」


 リュシエルは満足げに微笑んだ。

 命をかけた甲斐があった。これがオレの望んだ未来だ。


 続けて、今度は大きめにケーキを取った。

 指が止まらなくなり、連続して口に運ぶ。

 いつの間にかリュシエルは食べる手を止め、目を細めてオレを眺めていた。


「食べないのか?」

「うん。イズルがあんまり美味しそうに食べてるからさ。圧倒されちゃった」


「そっか」

 オレは最後に残ったケーキを口に押し込んだ。



…………



 ほら、ね。

 やっぱりイズルはガサツだ。

 荒っぽい食べ方をするものだから……


「どうした、ぼけっとして。いらないなら食べてやろうか」

「それ……」

 高鳴る鼓動を抑えようとしながら指で示す。


 ねえ、イズル?


 彼の頬にクリームがついていた。


「ん?」

 首を捻るイズルに向かって、とんっ、と爪先を蹴って羽根を広げた。


 分かる?

 妄想が現実になったときの高揚感が。


 私はイズルの肩に止まって背伸びをする。

 唇に、頬のクリームが触れた。


 窓から強い風が舞い込んだ。

 風が本を煽り、ページをパタパタとめくった。


 舌が、綻ぶ。


「甘い……」

「そこは、唇にする場面じゃないのか?」

「そんなこと恥ずかしくて出来るわけないっての」


 あの時は感情に任せて言っただけ。

 でも、いずれは……


 風が最後のページをめくって途絶えた。


 そこには私が鉛筆で描いた絵がある。


 夢ですらない、この部屋の温もりだって、妄想のはずだった。

 でも、この瞬間、現実になった絵だ。


 今なら、目を瞑っててもイズルの顔を描ける。

 この絵は漆黒の翼が、罪の象徴から絆の象徴へと変わった証なんだよ。


 そしてまた、温かい昼の風が、私とイズルを柔らかに撫でた。


悪役令息に転生したオレは、勇者のために死ぬべきか~それは処刑前夜に始まった。世界に殺されるなら、運命に抗い脱獄する――これがオレの物語だ~


                 ~完~






最後までお読み下さりありがとうございました。


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