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悪役令息に転生したオレは、勇者のために死ぬべきか~世界が殺しに来るなら、運命に抗い脱獄する~  作者: 未玖乃尚
第二章 勇者と竜王がいるらしい

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7 助けを求める少女

 馬を休息させるために立ち寄った村には、静けさが漂っていた。

 奥へと続く道を進む。石を叩く水の音がした。

 水をすくって喉を潤すと、オレは辺りを見回した。


「どうしたの?」

 リュシエルがオレの肩に座った。


「静かだな」

「脱獄した死刑囚がここにいるからでしょ」

「ハエみたいな人間がブンブン飛んでるからだろ」

「私は天使様だぞ!」

 ガツンとリュシエルがオレを殴った。


「おい、オレはレベル3だぞ、ダメージ受けたらどうしてくれるんだ」

「天罰だ」

 鼻息荒くリュシエルが顎を上げる。


「真面目な話、イズル以外、私のこと見えないよ」

「え、そうなのか?」

「言ってるでしょ。私はこの世界の登場人物じゃないの。観察者であって、読者みたいなもの。普通、物語の人物は読者を認識できないでしょ?」

「そりゃ、そうだ」


「だから、私を警戒して隠れたって線はないわけ」

「となると、オレに怯えてるってことか。昨日脱獄したところなのに、情報伝達早くね?」


「ま、イズルのせいってのは冗談でもあるけどさ……」

 リュシエルが歯切れ悪く、もごもご言う。


 何だこいつ。急に黙り込むってことは、筋書きとでも関係あるのか?

 リュシエルは嘘をつききれないところがあるからな。

 もっと適当に生きてる方が楽なのに。


「誰もいないなら、それでいいけど」

 村には、馬を休ませるために寄っただけだ。

 水分補給も出来たし、食料でも入手できればよかったのだが。

「でしょでしょ、さあ先を急ごう」


 馬の休息時間くらいは確保しておきたい。

「いや、その辺の草むらで昼寝しよう」

 昼食用に朝退治した巨大魚の残りがある。

 食事と昼寝に最適な場所を探そうとすると、物音がして前方で扉が開いた。


「た、すけて」

 少女の声は掠れていた。

 背後で男が彼女にこん棒を振り上げようとした。


「こっちに来い!」

 オレは少女に指示を出して、こちらに走らせた。

 同時に男に向かって石を投げ、彼女を保護するために駆け寄った。


 少女の頭を抱えながら、男に足を突き出し膝関節を潰す。

 レベル3なりの対処法だ。

 うまくいった。だが、誤算があった。


 なぜか腕の中の少女がオレの腿に刃物を突き立てていた。

「あのな、そこは刃物じゃないだろ。命を救われたら惚れるのが普通だろ。空気読め」


 これも死亡フラグ、いや物語の修正力ってヤツか?

 オレの視線にリュシエルは首を振る。

「私にも分からない」

 答えを得られないなら、とりあえず。


 悪いな。

 オレは少女を突き飛ばした。ナイフを抜かれて出血が激しくなるのも困る。


「そこまでだ」

 建物の中から声がした。軋んだ音を響かせ扉が開く。

 状況を把握した。


 首領らしき男が家の奥でふんぞりかえっている。

 ナイフを爺さんの喉元にかざしている男もいた。

 その手前には、戦闘準備に入った男が二人。

 扉の外には関節の痛みに呻く男。


 これで計五人。

 近くの建物からも仲間が出てきて、剣やナイフを構えた。


「助けて、か」

 オレは少女のセリフを繰り返した。

 尻もちをついた少女は十五、六くらいの年ごろだろうか。茶色い髪を三つ編みにしている。


 血の付いた両手を見つめて、体を震わせ、嚙み合わない歯を鳴らす。大きな瞳に涙を浮かべ、何度も首を振る。


 人質になってるはずの爺さんは、自分のことよりも少女のことを気にかけている様子だ。

 喉元のナイフで脅されながらも、少女の元へと体が動いている。


 女の子が絶望の眼差しで助けを求めるのなら、オレの答えはこうだ。


「助けてやる」

 可愛い女の子に泣き顔は似合わない。

 オレが見たいのは曇りのない笑顔だ。


 意見が一致したな、爺さん。

 オレもあんたより、彼女の命を優先するぞ。


「イズル、誤解しないで。彼女は物語の登場人物にすぎない。あんたが関わるはずの人じゃないの」

「もう関わってる」


「何ぶつぶつ言ってやがる!」

 瓶の割れる音が響いた。奥に座っていた首領がテーブルを蹴り飛ばして立ち上がった。

 ギシ。首領が足を踏み出すと床が軋んだ。


「役立たずが!」

 首領の怒鳴り声に少女の肩が跳ね上がった。


「凡ミスしやがって。こんなひょろいガキの一匹も殺せねえのか。さっき言ったはずだぞ、失敗すれば爺さんが死ぬってな」


 悪態をつきながらも、首領は注意深くオレを見定めている。 

 なるほど。彼女は脅されてオレを刺したというわけか。


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