表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令息に転生したオレは、勇者のために死ぬべきか~それは処刑前夜に始まった。世界に殺されるなら、運命に抗い脱獄する――これがオレの物語だ~【完結】  作者: 未玖乃尚
第六章 勇者、悪役と観察者そして……

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/70

65 《悪役:私》朧気な輪郭

 繋ぎの儀式は、互いの魂を結ぶ儀式だ。

 儀式はイズル主導で行われた。

 イズルが腕を横薙ぎに払うと、二人を中心にして足元に魔法陣が描かれた。

 薄紅色の煌めきに包まれた。


「神との儀式もこんな感じなのか?」

 魔力が迸り、イズルの髪を噴き上げる。

 荒れる狂う魔力の渦に動じることもなく、イズルは頭上にも魔法陣を展開する。


「天使は生まれたときから天使」

 だからこそ、神を裏切るなんて想像もしない。

 神のために生きて、死んでいく。

 それが私の物語。結末に向かって生きていくだけだった。


「だから儀式なんて初めてだよ」

 これは私が選択した道だ。イズルだけを悪役にしたりしない。私も悪役として同じ道を歩くよ。


 世界がイズルを悪役だとみなしても、私の物語では、イズルは自由をくれるヒーローだ。


 胸に手を押し付けた。鼓動が高鳴る。

 自分で選ぶということは、これほど不安になるものなんだ。


 イズルが私の肩に触れる。

 私はイズルごと翼で体を包んだ。

 羽毛にくるまれ、私とイズルの体温が混じりあう。


 こんなことになるなんて、予想してなかった。

 牢獄でのイズルは、ただのジュリアン・エルミオンで、私にとっては死を背負う登場人物でしかなかった。


 勇者パーティーに加わることを拒否したイズルは、私の同行者になった。

 祝勝会でブドウを食べさせ合って、私はイズルの死を思い出にすることを決断した。


 真理の剣が、世界の真実を暴き始めた時、別離を予感し、私が知っている顔はイズルではなく、ジュリアンだと知った。


 妄想の中で彼を描くようになった。


 儀式の準備を終えたイズルが私を見下ろす。

 妄想のイズルはいつも線の残骸だった。


 今なら、こうして瞼を閉じると……


「ん……」

 私は唇を突き出した。

 ほら、朧気だけど輪郭が浮かんでくる……


 きっとこれが現実世界のイズルだ。

 額に、指先が触れた。イズルは少し力を入れて私を押した。


「チャンスだよ? 今なら、いいけどな」

「それは魅力的だが、どうせなら……」

「何よ。照れるような性格でもないでしょ」


 照れてるのは、むしろ私だ。それくらい言わなくても分かって欲しい。

 睨んでやろうと目を開けると、イズルの言おうとしたことを理解した。

 やっぱりここに彼はいない。


「イズルに戻ってからだな」

 そう、ここはまだ小説世界で、イズルはジュリアンなんだ。

 私が絵を描く場所は、ここじゃない。


「もうこんなチャンスないかもね」

 ぶっきらぼうに答えながらも、こみ上げる笑いを堪えた。


 イズルは柔らかに頬を緩ませ、私の髪に手を置いた。

 伝わっている。

 くだらなくて、尊い私の妄想が。


「あとは、お互いの魂を接続するだけだ」

「イズルに、捧げるよ……」


 私は翼の羽根を一片差し出した。ふわりとした羽毛を握らせる。

 イズルはきょとんと私を眺め、黙って受け取った。


「そういえば、牢獄ではむしり取ったっけか」

「ひどいよ。ちょっと痛かったんだよ」


 レベル1から、イズルは作中最強まで上り詰めた。

 追い詰められるほどにイズルは力を発揮した。いや、ノイズとして、本来の力を引き出していったのだろう。

 きっと私の行動に関係なく、イズルは、この結果に辿り着いていた。


「悪かったな。他に脱獄する方法も思いつかなかったしな」

 イズルはバツが悪そうに頭を掻きむしる。

「オレに捧げるものってあったかな? 髪の毛とか?」

 魔術的な儀式に髪を使用するのは珍しいことではない。


「いらない」 

 私は首を振る。

「それは対等な関係になる場合。イズルは、私の神になるんでしょ?」


「リュシエルは、それでいいのか?」

「天使には……神が必要なんだよ」


 イズルの手にあった羽根の光が、震えて弾けた。

 接続が完了する。


 彼の髪が風にさらされた。

 イズルは神の牢獄から逃れ、天使を唆した悪役として、新たな罪を背負う。


 チリっと胸の奥で火花が散った。小さな焦げが私の中に広がった。

 翼に灯った白光が上空へ突き抜けた。


「何だ?」

 イズルが空を仰いだ。私も反射的に光を追い、発生源の右肩を振り返る。

「リュシエル。翼が……」


 私は知っている。

 他種族に従属した天使は代償として、片側の翼から神秘を失う。


 羽毛が輝きをなくした。白光を奪われた翼は闇に落ちる。

 暗黒が音を立てるように地に向かって羽毛をなぞり、黒く撫で下ろす。


 神聖の象徴である純白が、漆黒に染まった。

 翼に宿る治癒の効果は半減する。

 天使でも堕天使でもない、半端な存在、純白と漆黒が混在する灰天使となって。


「リュシエル!」

 イズルの影がよぎった。

 私を背中に隠して、剣を抜く。


「何かいるぞ」

 空に漂う白光が唸りを繰り返し、空間を巻き込みながら凝縮する。


 生じた球体が伸縮しながら陰影を形作った。

 三枚の翼だった。それはまるで天使の翼を模したような。

 右側の翼の付け根が疼いた。


 魔力を剥ぎ取られた。

 その刹那、イズルが陰影へと斬りつけた。


「この野郎」

 剣が障壁に阻まれ鈍く音を立てた。


 私の魔力を吸い取った影が、騎士へと変貌した。

 天騎士。聖なる力で敵を裁く神の尖兵だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ