64 《悪役:オレ》加害者と被害者
手を握る。
リュシエルがオレを見上げた。
彼女は天使だ。神に仕える者として、躊躇うのは理解できる。
「迷ってるなら、オレが選んでやる」
神から天使を奪う。
究極の悪役だ。
たとえ世界がオレを悪役だと罵っても……
「神を捨ててオレと来い。オレとお前はこれからも一緒だ」
オレの物語ではオレが正義だ。
悪役を演じる主人公として、天使を連れていく。そう決めた。
「ちょ、ちょっとまだ答えてないんだけど」
天使が決断できないなら。
オレが言い訳を用意すればいい。
強引に奪われたのだと。
オレは悪役令息だ。今さら悪評の一つや二つ増えたところで大差はないだろう。
欲しいものを掴み取る。欲求を我慢できないほどにオレは傲慢だ。
「沈黙が答えだ。オレがそう決めた」
「おい、勝手に決めんな。オレが選ぶって、あんた絶対神を選べなんて言わないでしょうが」
リュシエルの手には、言葉ほどの力強さはなかった。
「当たり前だ。俺に答えを委ねるってことは、神とは縁を切るってことなんだよ」
これから先の未来でオレの絵を描いてみろ。
「外へ出たら、オレとリュシエルの初対面だ」
リュシエルは唇を噛んで俯いた。オレの手を、強く握り返す。
小声で何かを呟く。
耳を、彼女の元に寄せた。
「聞こえないぞ」
「私は、被害者だ……」
彼女は肩を震わせていた。あえて、顔を見ないことにした。
オレはリュシエルの肩に触れ、小さく揺さぶった。
「そうだ、オレは加害者だ。リュシエルは悪くない。悪役はオレだけでいい」
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